§ 1―8 欲望に利用される善意
コントロールルームに入ると、そこには2人の男がいた。1人は頭部がだいぶ薄くなった、見慣れた顔の技術開発局副局長ガーラック。そしてもう1人が、以前より鋭い眼をした第8代王位継承者ゼニス王だった。アニスは目を疑う。
「……ゼニス王。それに、ガーラックさんも、どうしてここに?」
「
2人の後ろにある液晶画面を見ると、どうやら装置は正常に作動しているようだ。
「王とガーラックさんが作動してくれたのですか」
「そうそう。私が作動させたのだよ。ガーラックに指示してね」
なんだ、この感じ? 嫌な胸騒ぎがする。ふと、さっきのユッドの言葉を思い出す。
(アニス様、これはあり得ません。これほどの揺れを感じるということは、装置が停止していると推察されます。ですが、小さい揺れを感じることなく大きな揺れを感じたことが不思議です)
まさか……。
「アニス様。状況から
ユッドの言葉を聞いて、疑惑が確信に変わった。
「どうしてです? 王、ガーラックさん。この装置は、そんなことのために作ったものじゃないんですよ!」
「クックック……。
「なんてことを……。そんなことのために、こんな地震を起こすなんて……」
「こんな地震? きみは今回の地震がどれほどのものか解かっていないだろう?」
何を言っている? 地震は起きたが、そこまでの規模には感じなかった。
「ガーラックよ、映像を見せてやれ」
「はっ」
ガーラックがパネルを操作するとディスプレイにニュース映像を流れだす。ヘリからの生中継のようだ。
「みなさん、おわかりいただけますでしょうか。ヘイゼル領の西部に巨大な穴が開いております。ものすごい大きさです。情報によりますと、この地域の震度は7を超えており、
なんだ……これは? アニスは
(なんで……こうなった……? みんなを助けるために作ったのに……。どうして……)
ユッドが必死に呼びかける。
「アニス様! アニス様! しっかりしてください。アニス様!」
「ガーラックよ、見てみろ。これこそ私が求めた力だよ。あーっはっはっはっは……」
「この若造はどうします、王よ」
「こうなってしまえば大人しくしておるだろう。生かして
「はっ、そのように致します」
ガーラックが携帯端末を取り出し、耳に当てどこかに連絡をし出す。「……殺せ」と言っているのがかすかに聞こえた。そして、通話が終わったと同時に、大地がさらに大きく揺れる。あまりの揺れに地面に片膝と片腕をつき、必死に耐える。
「な、なんだ! 装置は作動しておらんぞ。なんでこんなに揺れるのだ? ガーラックよ」
「はっ。どうやら、先ほど起こした地震の影響で、
「なんだと! 止めよ、ガーラック!」
「ぬぬぬ……。ええぇーい! なぜ止まらん。ここをこうして……」
揺れは止まらず、むしろ強くなっていく。
そのとき、この部屋のドアが開き何者かが入ってきた。部屋の中の状況を瞬時に理解したらしく、銃声が鳴り
「アニス、大丈夫かぁ? しっかりせんか!」
この強い声は、アルバニア様の声だ。曇ってしまった瞳がその姿を追う。
「ア……ル……バニ……ア……様……?」
状況を察したアルバニアは肩を
「よく聞け、アニスよ。この地震を止めるのじゃ。おまえにしか止めることはできやしないのだろ? ならば、おまえが作った者として最後まで責任を取るのじゃ! イリスを護らなくてよいのか!」
(責任を取る? おまえしか止めることができない? イリス……。そうだ、ぼーっとしている場合じゃない。なんとかするんだ)
ようやくアニスの目に
「アニス様! アニス様! アニス様……」
ずっと呼びかけ続けていたであろう、ユッドの声もようやく耳に入る。
「ユッド……。お願いがあるんだ……。イリスを助けてもらえないか? そして、その後も面倒を見てもらえないかな? きみにしか頼めないんだ」
ユッドはアニスと共にありたい。しかし、アニスの指示なのだ。アニスのその目が、はるか昔の出来事を思い出させる。
「イエス、マスター……。わかりました」
アニスに笑顔を一瞬見せ、ユッドは一目散に部屋から出て行く。
貴方はやっぱりマスターと同じなんですね……
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