§ 1―7 揺れた大地



 それは、前触れもなく唐突とうとつに起きた。

 


 国議会の2週間後。午後6時03分。地震が発生したのだ。



 アニスはこのとき、ユッドと一緒に技術開発局の局長室にいた。いきなりの大きな揺れに襲われる。


「なんだ。おかしい……。この揺れ具合は、震度4はある」


「アニス様、これはあり得ません。これほどの揺れを感じるということは、装置が停止していると推察すいさつされます。ですが、小さい揺れを感じることなく大きな揺れを感じたことが不思議です」


「震源に近い場所だったからだろう。とりあえず、中央宮殿にあるコントロールルームに行ってみよう」


「イエス、マスター。行きましょう」


 地震の揺れは弱くなったもののまだ続いている。何がなんだか分からず、頭の中は『なぜだ』と原因を探し回っている。2人は局長室を後にし、駆け足でアニスの車に乗り込み、中央宮殿に向けて車を走らせる。


 技術開発局から中央宮殿まで、車で5分もかからない。途中、道路沿いには、仕事帰りの多くの人たちが足を止めて、周囲をうかがっている姿が運転するアニスの目に入ってくる。


「ユッド……。ホントに装置が作動しなかったと思うか?」


「設計に問題はありませんでした。3週間ほど前の地震のときには正常に作動しておりました。地中に埋めた装置の電源も、10年以上はもつはずです。そうなると考えられるのは、隕石の落下か人意的に装置を停止させられていたかになります。それならば後者が一番可能性が高いかと思われます」


「ユッドもそう思うかい。隕石が落ちる確率なんて0に近い。そうなると誰かが装置を操作し、事前に停止させていたとしか考えられない!」


 ユッドは初めて見た。アニスが怒っているのを。


「とりあえず、コントロールルームに行けば原因が分かるはずだ。急ごう!」




   ♦   ♦   ♦   ♦




 4分後には中央宮殿の正門に到着し、守衛しゅえいに身分と理由を説明し、早々とコントロールルームに向かう。長い廊下を走り続け、最後の曲がり廊下を走り終えると、そこから見えるコントロールルームのドアの前に黒いスーツの男が4人立っていた。


「はぁ、はぁ、あいつらは何をしてるんだ?」


 アニスは不信に思い、遠くから呼びかける。


「おい! あんたたちは何してるんだ!」


 その声に反応しこちらを向くと、男たちは胸元から拳銃を取り出し構える。


「アニス様!」


 ユッドがさけぶと銃声が鳴り、アニスの左腕から血が流れだしていた。


「クッ……」


 アニスが痛みに声を上げると同時に、ユッドは視線を変え、彼らに向かい歩いていく。


「アニス様を傷つけるのは許さない……」



【対人制圧プログラム、実行します】


 ユッドの目が赤くかがやき、突如とつじょ、ものすごい勢いで突っ込んでいく。


「な、なんだこいつ!」


 男たちが一斉にユッドを目がけて発砲する。ユッドは消えたかと思うと飛びあがり、空中で一回転して男たちの後ろに着地する。と同時に、回し蹴りが男の頭部に直撃し、蹴り飛ばされる。


 残りの3人はその事態に一瞬驚き、すぐにユッドに銃口を向けるが、すでにユッドの姿はなく、端の男の後ろに瞬間移動のような速さで移動し、蹴り飛ばす。


 飛ばされた男は他の男にぶつかり体勢を崩し倒れる。残った1人が倒れた男のほうに、視線をちらっと向けた瞬間に間合いを詰め、右ストレートを叩きこみ、壁に叩きつけられる。


 倒れている男は上体を起こすが、顔はおびえていた。その男にユッドは2歩、3歩と歩いて近づき、左のミドルキックを放つ。直撃した男の頭は、衝撃そのままに床にたたきつけられる。


 後ろから蹴り飛ばされて倒れている2人目の男の首根っこをつかみ上げ、ユッドは勢いよく腕の力だけで放ると、男は窓を割り、外に吹っ飛んでいった。


 それを見届けた後、ユッドは床に転がっている銃を踏みつけ粉々にする。



【ミッションクリア。プログラム、解除します】


 目の赤い輝きは消え、ユッドはこちらに振り返る。


「アニス様、大丈夫ですか。すぐに処置します」


「ユッド……。きみはいったい……」


 アニスの言葉には何も返さず、服の一部を裂き、手際よくアニスの腕をきつく縛る。


「応急処置しましたが、すぐにちゃんと治療しましょう」


「ありがとう、ユッド。治療は後だ。とりあえず、コントロールルームに行こう」


「イエス、マスター」


「よし、部屋に入ろう。行くよ、ユッド」


 アニスがコントロールルームの扉に手を掛ける。


 悪意がそこにあることも知らずに……


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