第12話 壁の冒険
僕は壁を見るのが好きだ。
壁の凹凸や模様でいくらでも妄想できる。そうさ、冒険だって楽しめる。
大きな山が連なった山脈を越えて、深い谷を抜けて。その先も永遠と続く起伏激しい白い大地を踏みしめて、僕は一人旅をする。崖に立つ英雄の姿も、凶悪な魔物の姿も、神秘の泉の姿も、ゲームで憧れた何もかもが壁には詰まっている。
僕は壁を見るのが大好きだ。
「何をそんなに真剣に見ているの?」
「ここに人がいるんだ!」
母の問いかけに僕は端的に答えた。冒険を邪魔されたからって理由もあるけど、この遊びを教えてくれた父が言ってた。女にこのロマンがわかるはずないって。
「人? 人がいるの、ここに?」
「今話してるところだから邪魔しないで!」
興味をもたれても困ると僕はつっけんどんに答えると、母は訝しげな表情を浮かべながら引き下がって電話をかけ始めた。やっと邪魔者がいなくなったと僕は冒険を続ける。
「……あれ、さっきまでどこにいたんだっけ? むー」
こうやって自分の居場所を見失うのもまた、この冒険の醍醐味だ。
翌日。僕が外で遊んでいる間に壁は撤去され、何故か父が警察に連れて行かれた。
母にどういうことなのか訪ねても答えてくれず、笑いかけてくるだけ。
意味がわからなかった。
「これからはおばあちゃんと暮らそうね」
そう言って連れてこられたのは古い木造建築の家だった。壁は土壁で以前のように明るさはなくどことなく陰鬱な雰囲気が漂う。それでも以前と同じく壁の冒険をしようと思っても、イマイチ盛り上がりに欠けて次第に冒険をしなくなった。
「なんで壁に死体が埋まってるって思ったの?」
「あの子が、壁に人がいるっていったの。だからまさかと思って調べたら」
「大当たりだったと。怖い偶然もあるものねえ」
「本当よ。あの子、何かを見つける才能があるのかも」
母が仕事で遅くなった夜。僕はおばあちゃんと一緒に寝ていた。ふと目を覚ました時に飛び込んできた天井の模様が怖くておばあちゃんを起こす。
「ねえおばあちゃん。天井の模様が怖いよ」
「ありゃあ木目だから、なにもあんたをとって喰やせんよ」
「でもあれは顔に見えるもん」
「ばあちゃんにはキレイな模様にしか見えないよ」
それから僕は天井を見つめ続けた。あんな怖い模様がキレイだなんておばあちゃんはおかしい。どう見ても苦しんでいるようにしか見えない。そう思って見ていると天井の模様もなかなか面白いことに気が付いた。砂漠の風紋のように同じ形が一つとしてない。これはまた冒険が出来るかもしれない!
「あら、今度は天井を見ているの?」
「うん、ほら見てよ。あそこに人がいるよ! 僕が今助けてあげるんだ!」
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