第3話 俺達
ついにタイムマシンが完成した。この報はあらゆる手段でもって世界中に発信された。
人々は歓喜した。これで人類は救われる、と。
2000年代初頭のことである。人類は突如現れた謎の生命体による侵略を受け、全滅寸前まで追い詰められた。侵略は本当に突然始まり、しかも同時多発的に世界各国に現れ、破壊の嵐を巻き起こした。
中でも最悪の一手だったのは最初に政府機関が落とされたことだ。それにより国内はおろか、近隣国とさえ連絡が取れない状態となり、各国が孤立無援の状態での戦いを余儀なくされた。やっとのことで連絡が出来た頃には、既に国としての機能を失いつつあり反撃の緒すらつかめない状態だった。
奴らの正体は一切不明。捕まえようにも麻酔や電気ショック、その他諸々が一切聞かず無力化できない。その上数も非常に多く、人を見れば見境なく襲ってくるため始末に負えないのだ。ならば死体を研究しようとなるも、死ねばヘドロのように溶けて、そのヘドロさえすぐに消えてしまうという奴らに関しては本当になにも分からずじまいなのである。
しかし人類は諦めない、徹底抗戦の構えを解くことはなかった。最初こそ共存を求める声も上がったが、その声すらも奴らに蹂躙され、人類は一丸となって戦った。だが、人類の奮闘虚しく奴らの攻勢はとどまることを知らず、辛うじて生き延びた知識人たちが導き出した答えは人類の絶滅はもうまもなくだろう、という非常なものだった。
ならばと。どうせ絶滅するならば一矢報いてからだと、ついにNBC兵器を戦場に投じた。これらを使えば、生物であり殺すことのできる奴らには勝てるだろう。しかしその土地は不毛の地と化し、あらゆる生命体の侵入を拒むだろう。
それでも人類は起動ボタンを押した。
今なお現地で戦っている戦闘員もろとも消し去った。
世界に平和が訪れた瞬間だった、決して消えない戦争の傷跡を残して。
それから数百年を経て、現在。
毒を吐き出す地は未だ健在で、生き残った人類含めた動植物にも健康被害が多く出ている。地球の自然快復力にも限界だ。
しかし、人類は時を行き来する方法を確立した。これが何を意味するのかわからない者はいない。現代を生きる人間が過去へ行き、過去の人類とともに奴らを撃滅する。そうなれば、この悲惨な未来はなかったことになり、平和で豊かな生活が戻るだろう。全人類の悲願である。
まずは何よりも政府機関を守ることだ。中央が早々に落とされたがために被害が加速度的に増したのだ。なにをどうして発生したのかわからないが、発生時刻直前に行けば問題はないだろう。我々には現在の科学技術が味方している。倒れてもすぐに復活できる復元装置、味方の攻撃で倒れないよう漆黒のバトルスーツには各種状態異常対策もバッチリ備えてある。
数十万単位の兵士が世界各国でタイムトラベルのシークエンスに入った。世界中が熱気に包まれる。それはそうだ、この行為は人類救済の旅に他ならない。旅立つ兵士はみな救世主。人類の、いや地球を救いに旅立つのだ。
そんな熱狂の渦の中。旅立つ兵士の一人がぼそりと呟いた。
「……なあ、やつらの正体ってもしかして……」
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