第4話 岩鰐

[清廉暦714年春月35日 魔蛙の沼森]


 昼の刻。


 私とハンターのリコリスは共に狩猟拠点を目指す事になった。ここから南下すると岩鰐と遭遇する危険性があるので少し東側へ迂回する事に決めた。


 一緒に歩くと遅くなるからとリコリスの編み籠の中に入れて貰えた。

 編み籠の中で立ち上がり蔓腕を彼女の肩にかけ彼女よりちょいんと高い位置から周囲を警戒する。


 私自身が虫除け葉で作ったケープを被っているので他のハンターに見られてもリコリスが草葉の偽装服を纏っているようにみえるはず。


 そうやって狩猟拠点の近くにある開けた場所にある休憩所まで来たのだけれど…

 なんで岩鰐が居るんだよ!よりによって迂回したこっち側に移動してたのか、それとも別の個体なのか。


「リコリス!きにのぼって!」


「うん!」


 リコリスが近くの木の枝を掴むと岩鰐がこちらに気付いて駆け出してきた。籠を背負ったままで大変そうだったけど近寄られる前に枝の上に登りきれた。


 木の下で岩鰐がじっとこっちを見てる。


 リコリスの伝心の魔術によるとリコリスを食べる気満々であり半分は群れのボスに献上するそうだ。ちなみに私はただの葉っぱ扱いで眼中にないらしい。


 足場としている登った木の枝は岩鰐からは届かないようだけどこのまま樹上で夜を過ごすのは無理だ。


「もうちょっと待ってたら諦めてくれるかなあ」


「う~ん。リコリスはふえをもってる?」


「ふえって救難用の木笛かな?それなら持ってるよ。ここからなら拠点まで響くかな」


 先達の言いつけを守る良いハンターだ。このまま待ってみて陽が落ちるようなら笛を吹いても良いかもしれない。


 ただし笛の音を聴いて駆けつけたハンターが岩鰐と戦えるのかは不明。かえって被害が増える可能性もあるので出来れば最終手段としたい。


 岩鰐との睨み合いより少刻。私が籠の中で虫除けの葉を石ナイフで磨り潰していると、リコリスが気になっていたであろう質問を投げかけてきた。


「えーと、その、タルテはどうしてハンターの事詳しいのかな?」


 リコリスの肩をトントンと叩く。それを察して伝心の魔術を使ってくれた。


 私の昨日の朝からの出来事を打ち明ける。言葉で紡ぐのではなく魔物になってからの事を頭の中で思い返す。


 朝目覚めたら魔物になってた。

 丘は転がると速い。

 流木は安定感がある。

 蛙の蹴りは強力。

 川の側にシェルターを作った。

 光明の魔術が使えた。

 シャーデック先生に会いたい。

 ゴミ漁りに狩猟拠点へ行った。

 ピッケルと泥玉を作って戻った。

 岩鰐が出たので逃げた。

 リコリスと出会った。


 重厚な日々を過ごした感があったけどまだ二日も経ってないな。

 私の突拍子もない思い出に、ほえーと相槌打つリコリスの心情が伝わってきた。


 ちなみにリコリスは魔獣である私がハンター家業の魔獣使いに使役されてて、この森ではぐれて一人迷子になった。と思っていたようだ。


 私にとって伝心の魔術は伝令兵の印象が強かったけど魔獣使いとしての需要の方が大きいようだ。

 心話が途切れる感覚。伝心の魔術の感覚が少しずつながら理解できてきた。


「私のお母さんね、元ハンターで精霊使いって呼ばれてたんだって」


 私の話が一段落着くとリコリスの方から自身の事を語ってくれた。


 リコリスは狩猟拠点より南西にあるテノ村で生まれた。

 父親のセルディオはリコリスが生まれる前に他界していて母親のリドリーはリコリスが十歳の時に病気で亡くなった。


 テノ村は両親の出身地でもなかったので身寄りがなく村長に引き取られて暮らすことになる。しかし居心地が悪かったので十五歳の成人にて村を出る許可を得て、狩猟拠点へ移って見習いハンターになったらしい。


 山麓都市ガライシャにはリコリスの両親と共にハンター業をこなした仲間と精霊が居るらしいのでいつか行ってみたいと思ってる、とのこと。


 リドリーは精霊について詳しく語らず心話でも読み取れなかったそうだ。

 リコリスが生まれて15年。リドリーの従魔が普通の動物であれば天寿を迎えているだろう。


 しかし魔核をもつ魔獣、霊核をもつ霊獣、身体が霊核そのもので構成されている妖精や精霊ならば長命となる。山麓都市ガライシャに行けば会える可能性はある。



 山麓都市ガライシャ魔術都市カウイェルヤッハより遥か北東にある。

 リコリスが山麓都市ガライシャを目指すのなら私の目的地である魔術都市カウイェルヤッハにも立ち寄る…


 もう!どうしてそんなことを言っちゃうんだ!魔術都市カウイェルヤッハまで一緒に行こうってなっちゃうじゃないかー。


 精霊というのが気になるので山麓都市ガライシャにも付いて行きたいまである。

 しかし私は何も払えんぞ!私の身体が目的か?!


 ここで私から気になる事を聞いてみる。


「リコリスはベルドライズきはねしゃくのことしってる?」


「ん?良くわかんないや。貴羽爵ということは貴族様なんだよね?」


 やはり先ほどの心話ではベルドライズ貴羽爵が暗殺、もしくは魔物化の対象になったとは伝わっていない。

 心話は相手の知っている事柄を何でも引き出せるというものでは無いようだ。


「わたし、とりでのへいしときぞくのきしからねらわれている」


「タルテは何か悪い事をしたの?」


「なにもしてない。ごかい。みたことないまものはきけんだから、ねらわれている」


「あー、そっか。誤解を解いて貰う為にカイ…カウ…魔術都市に居る先生に会いに行くんだよね?」


「そういうこと。わたしのそばにいるとリコリスもあぶない」


「わたしはタルテと一緒に魔術都市へ行くよ」


 国の騎士や兵士と敵対するかも知れないのに即答された。


「まきこんでごめんなさい。ありがとう」


「えへへ」


 ケープ越しに頭を撫でられる。久しく得られなかった感覚が心地良い。何かあればリコリスを護る覚悟は出来た。



 昼の刻と半分くらい。


 いまだ木の上。膠着状態を破ったのは岩鰐のほうだ。木に寄りかかり前足の爪で引っかきはじめた。

 岩鰐は沼鰐より爪が発達してるからな。強引に登ってくる気か。


 最初リコリスは驚いて枝から飛び降りようとしたけど岩鰐は爪で木の皮を剥がすだけで登れそうにない。

 岩鰐の生態には詳しくないけど、コイツしつこいって!もうどっかいってくれ!


 木の上で岩鰐に警戒しつつ見せびらかしながらの食事。

 私の持ってきた茶苺とリコリスが持ってた携帯食の一部を交換してもらった。


 携帯食は兵士時代に食べたことがある麦粉を焼き固めたもので以前に食べた時と同じかむしろ美味しいくらいだ。


「ん?!ん~~~~!」


 リコリスは身震いさせ枝を揺らす。首筋に触れてた蔓腕から、すっっっぱーーーーーい!と伝わってきた。

 やはり強い感情は心話として無意識に飛ばしてしまうようだ。


 リコリスが食べた茶苺はハズレっぽいな。

 私はもう一つ茶苺を取り出し半分に割り、片方食べて味を確かめてから渡したけれどそれも酸っぱかったようだ。


 茶苺のアタリは美味しい。ハズレでも私ならまあまあ普通に食べられた。人との味覚の違いを確認できた。



 夕の刻。


 岩鰐からの攻撃こそ受けていないものの、切迫した状況へと変わりつつあった。リコリスは悲痛な表情を浮かべる。


「うぅ、漏れそう…」


 岩鰐の動きにも変化が現れる。爪が木の幹に引っ掛かりはじめた。

 岩鰐の左前足の爪が木の幹に深く食い込み固定される。後足の爪も幹に食い込ませ少しだけ木を登ることが出来、こちらとの距離が少し縮まる。


 右前足をリコリスのブーツのほうへ伸ばそうとしたタイミングでリコリスが枝から飛び降りた。


「ふえ、わたしがふく!」


「はい!」


 リコリスは拠点に向かって走り、私が笛を吹く。笛の音がピュイィーと森に響いた。

 幹から爪を引き抜いた岩鰐が追いかけてくる。睨めっこから追いかけっこへ。


 沼鰐の走る速度は人より遅いけど持久力は高い。岩鰐も同じようだ。

 最初は走りで引き離していたけど、リコリスの息が上がると距離が詰められてきた。


 沼鰐は口を大きく開けてから獲物に飛び付く。岩鰐も大体同じはず。

 岩鰐がすぐ後ろまで迫り口を開けたところで袋を投げる。


 魔蛙グァッガの皮で作った袋の中に虫除けの葉を磨り潰したものを詰め込んでおいた。当たった衝撃で袋が裂けるよう石ナイフも入れてある。


 袋は岩鰐の口の中で弾け中身をぶちまける。岩鰐が怯んで足が止まった。結構効いたな。もう数発分欲しかったけど残りは酸っぱい茶苺果汁入り水袋と泥玉が一個ずつ。どちらも効くかは分からない。


 私は周囲を見渡し、拠点の方向から少しずれた位置にある木を蔓腕で指示する。


「あのきがのぼりやすい!」


「わかった!」


 リコリスが木に向かう。ここは拠点のすぐそばの森。目指す木には木登り練習用のロープが掛けてあった。


 ジャンプしてロープを掴みスムーズに登る。もしかしたらリコリスはこの木で木登り練習をしたことがあったのかもしれない。

 岩鰐が追いついた時には木に設置された足場に着いていた。


 この木自体は先ほどの木より細く、設置された足場の位置も低い。

 ただ岩鰐は私がハッタリで構えてる水袋を警戒していて木に寄りかかるような隙のある動きをしないようだ。


 リコリスは岩鰐を注視しつつ深呼吸して息を整える。

 私は笛をピュイィー、間をおいてピュイピュイピュピュピュイィーと吹いておく。

 ギャー助けてー!と沼鰐が出たぞー!の合図であってるはず。岩鰐の合図なんて知らんし。


 呼吸も落ち着かせ、足場から飛び降り走る準備も済ませる。あとは岩鰐が木に寄り掛り爪を立てるのを窺っていたが…


「のわっ!」

「わっふ!」


 岩鰐は木の根元に噛み付いた。足場が大きく揺れ、木はメキメキと音を立てる。

 この木はさっき登った木より細い。まさか登るよりも噛み砕くほうを選ぶとは。


 牙が木の幹に食い込んでいるのを確認して足場から飛び降り、拠点を目指し森の外へ走る。

 この先に登るのに丁度良い木はない。拠点まで走りきるしかない。


 岩鰐が後ろまで迫る。今度投げつけるのは袋ではなく編み籠だ。


 私はリコリスと背中合わせにして左右の蔓腕2本と根足2本をリコリスに巻きつけ、残りの手足で鉈・ピッケル・水袋・泥玉・編み籠を掴んでいた。


 真ん中の根足で籠を蹴り出し岩鰐にぶつけた。激昂したのか、わざわざ編み籠を噛み砕いた。


 編み籠はあとで回収する予定だったのに。でもこれで少し時間が稼げた。編み籠さんすまぬ、この時間を無駄にしないぞ。

 編み籠がなくなって身軽になったリコリスは全力で走る。


 森を抜ける手前、岩鰐に追いつかれた。口を開けたところに投げつけたのはリコリスの鉈。自作のピッケル・水袋・泥玉では不安があった。


 この選択に間違いはなかったようで鉈が牙の間にちょうど挟まり口が閉じられなくなった。その場に留まって前足で引っかき取ろうと暴れだす。

 その間もリコリスは走り続け森を抜けた。



 勢いそのままに丘を駆け上がる。狩猟拠点から沼鰐用の鉄銛を持ったハンターが駆け下りてくるのが見えた。

 狩猟拠点の管理を任されているデギランだ。何度か話をしたことがある。


 リコリスが疲労のためか足がもつれ転ぶ。足は痙攣し起き上がれない。だがそれでも手で雑草を掴み這い這いつくばって上ろうとする。


「いわワニ!きた!」


 岩鰐が森から飛びだして迫ってきた!この距離ならリコリスに噛み付いてすぐ森に引き返せば敵対種の縄張りからでも逃げ切れるって判断なのか?

 もう退いてくれよ!


 リコリスは反応し足を動かすが起き上がれない。私はリコリスに巻きつけた根足を解きつつ岩鰐へと水袋を構える。


 岩鰐が口を開け突進してくる。水袋を投げつけたが左に避けられた。それに合わせて逆方向へと根足で地面を蹴って一瞬遅れた噛み付き攻撃を躱す。


 根足の一本が噛み付かれるだけで済んだ。噛み付かれた根足にピッケルを突き刺し自切して逃れる。ピッケルの先の金属片は衝撃でどこかに飛んでいった。


 岩鰐との距離は極めて近く、口は閉じてる状態だ。このタイミングしかない。

 岩鰐に飛び掛って頭を抑える!岩鰐が暴れるか前足で引き裂こうと時間を使えばリコリスへ噛み付く前にデギランが一突き与えられる!


 そう考えたが実際に飛び掛ることは出来なかった。リコリスが私を掴み抱きしめてた。


「だーーーーー!」


 リコリスは声をあげて丘を転がる。岩鰐から距離をとれたが味方であるデギランからも離れる。


 でもそれが良かった。岩鰐は視線から外れた私達よりも、視線に残っている銛を持って声をあげながら丘を駆け下りる敵対者のデギランへと意識が集中したのだ。


 岩鰐は口を開け威嚇したがデギランは構うことなくその口の中へ銛を突き入れた。

 対沼鰐用の銛は柄の部分である銛竿も頑丈な金属製だ。噛み付きで砕き折られることはない。


 岩鰐は首を振って暴れるがデギランは踏ん張り耐える。これで岩鰐の動きと攻撃が封じられた。


 後から駆けつけた拠点の守衛とハンターが岩鰐を囲み、腹に尻尾にと銛を突き立てた。



「今の絶対駄目!死んじゃうとこだったよ!」


「ごめんなさい」


 私が岩鰐に飛び掛ろうとしたのが読み取られてしまったようだ。本当に心配した気持ちが伝わってきた。素直に謝る。


 私はここで死んではいけない。リコリスを含めた魔術核を持つ者達に危機が迫るかも知れないのだから。


 デギランが近づき声を掛ける。


「リコリス、怪我はないか?」


 岩鰐は複数人に囲まれ腹を上側にひっくり返されてるので既に絶命しているようだ。


 リコリスは上半身だけ起き上がり草むらに座った状態から私を胸元にぎゅっと抱き寄せることで私の顔を隠す。


「はい、大丈夫です。怪我は、ありません。ちょっと休憩したら戻ります!」


「悪いが日が落ちた。あまり待てんぞ」


 乱れた呼吸を整えつつリコリスが応える。デギランは少し離れて背を向けた。


 デギランは私の存在には気付いてない?薄暗くはなってたけど派手に動いたから気付かれたと思った。それとも害意は無いとして見逃されてるのか?

 私はリコリスの背中にまわした蔓腕でちょいちょいとつついて合図を送る。


〈リコリス、私を葉っぱのケープごと腰に巻きつけて。あと拠点の中に自室ある?〉


〈ん?あ、うん。私の部屋はあるよ。元々は倉庫らしいけど女性用宿舎になっててね、今は私しか使ってないかな〉


〈元倉庫って事は狩猟拠点で避難所も兼ねて最初に建てたとこだね。あそこなら内側からも鍵も掛けられる。あの広さを一人で使ってるって事は他の女性ハンターは居ないのか〉


〈うん。ちょっと前まで二人で使ってたけど他のハンターと一緒に魔狼討伐の遠征に行っちゃったよ〉


〈そういえばあの狼まだ討伐されてなかったか。面倒だな〉


 息を整えたリコリスは立ち上がると横に逸れて私の千切れた根足の一部を拾う。

 デギランとともに拠点へと歩く。心話を切った私は脱力し葉っぱスカートに成りきる。


 私の胴体は平べったく伸びるようなので腰に巻きつけても膨らみすぎている、ということは無いはず。


 デギランはリコリスの葉っぱスカートをちらりと見たあとはもう視線を向けない。

 女性ハンターが履いてるズボンを見えないよう葉っぱで覆っているのだ。後進の育成をする立場のデギランがマナー知らずな事はするまい。リコリス、ごめんね。



 既に陽は落ちた。昏の刻。


 狩猟拠点の入り口でリコリスとデギランは手持ちの灯り篭を受け取り門番から火を分けて貰い点火する。


「明日は忙しくなる。今日はゆっくり休んでおけ」


 デギランは再び岩鰐のもとへ。私達は宿舎へ向かう。


 リコリスは女性用宿舎に入り鍵を掛けると宿舎内にあったもう一つの灯り篭に火を灯し、その灯り篭と私を地面に降ろす。所用を済ませるために離れる。


 この宿舎には初めて入ったけど拠点のハンター達が数日間立て籠る事が出来るよう設計されていたはず。


 個人スペースの仕切りこそ薄板張りながら宿舎内には井戸や簡易調理場の他にトイレまであるようだ。多分トイレだろう。リコリスが駆け込んでたし。


 戻ってきたリコリスは私を抱きかかえると自室から部屋着を持ち出し井戸のそばで体と服を洗う。


「足、痛くない?」


「いたくない。へいき」


 根足一本を岩鰐に噛み付かれた時に自作のピッケルで切り落としたが、ちぎれた蔓腕の時と同様に血や体液が出ることもなく痛みも無い。

 気になるのは左側の根足だということ。蔓腕に続きまた左側か。


 根元から抜けた蔓腕と違って根足は一部残ってる。動かす事も出来るし水桶に入れると水を吸い込む感覚もある。


 リコリスは私を拭き上げると自室へ移動する。持ってた千切れた根足の一部をくっつけて包帯を巻いてくれた。くっつけても感覚は無いし繋がるかは分からない。


「それじゃ私はデギランさんのとこに行ってくるからここで待っててね」


「ここでまってる。やくそくする」


 リコリスは私を抱きしめ頭を一撫でしたあと部屋をでる。


 宿舎から灯り篭の明かりが漏れてたら用心の為に火を消そうと誰か入ってくるかもしれない。念の為灯り篭の火を消しておく。


 窓から入る僅かな明かりだけで薄暗い。部屋に用意してもらった水筒と中の水で水流操作の魔術から派生した浄水の魔術を練習してみる。


「ウシャム アノル トィハ ニムヤ エテエイオ ウィニア」


 水と汚れと分離させ汚れだけを底に沈殿させ泥水からでも上だけ掬えば飲めるようになる魔術だ。ワインに混ぜた毒薬も退けられるけどその場合酔いも風味もなくなる。


 この水筒の水はさっきの井戸水だろうし周囲が薄暗いからどれだけ浄水できたかは分からないけど、必要になった時に初めて魔術行使するよりも今ここで練習が出来た事が良い事なのだ。うん。


 他にやれることは探せばあるだろうけど、気疲れかやる気がでない。寝台で枕に擬態しつつリコリスが戻ってくるのを待つ。そして、いつの間にか眠ってしまった。

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