元女官、情報収集の場を知る

(さて、一泡吹かせるとは決めたけれど……)


 その後、私はシャーロット様と数十分お話をして、お部屋に戻ってきて寝台に寝転がっていた。一泡吹かせる。そう決めたけれど、実際どういう風に一泡吹かせればいいかがイマイチ考えられない。ただ、シャーロット様からいただいたレクシー様の情報をまとめるのは、必要よね。


 レクシー・ミュアヘッド様。彼女はこのリベラ王国で歴史も権力もあるミュアヘッド伯爵家のご令嬢。しかし、最近ミュアヘッド伯爵家はいろいろな意味で危ういとか、なんとか。多分金銭的な問題だろう。ついでに言うと、そのために王子妃の立場を狙っている……らしい。そこは、シャーロット様の情報よ。


「けど、いつまでもシャーロット様に頼ってばかりじゃいられないわね。……私も、自分で出来ることをしなくちゃ」


 そして、私はそう思い直してゆっくりと寝台から起き上がる。シャーロット様だって、いつまでも私のことを助けてくださるわけではない。私だっていつかは独り立ちして、この後宮で立派にやって行かなくちゃならないのだ。もうスローライフは諦め気味だけれどさ。


「ねぇ、モナ。ここら辺で情報が手に入る場所はないかしら?」


 思い立ったが吉日。即行動。そう思い、私はお部屋の掃除をしていたモナに声をかけてみる。すると、モナは少し眉を下げた後「……あるには、あるのですが」と何処となく嫌そうに言葉を告げてきた。あるにはあるのね。でも、モナのその態度を見るにあまり好ましい場所じゃないのかも。


「モナ。私、負けられないの。だから、どんな場所だったとしても行くわ」


 けど、私があまりにも力強くそう言うものだから、モナは折れたのだろう。静かに一度だけため息をついた後、「……二週に一度、後宮の妃が集まり情報交換をする場があるのです」と教えてくれた。……何それ、私、初耳なんだけれど!?


「え? そんなものがあったの?」


 思わず私がそう声に出してしまえば、モナは「……後宮入りした時に、管理人の方から聞いていませんか?」と問いかけてくる。管理人……あぁ、あのいけ好かないアントニアとかいう人ね。つまり、これ嫌がらせの一環っていうことか。納得。


「あの管理人、私のことがいけ好かないみたいで、初日から嫌がらせっぽいことをしてきたわ。多分、その嫌がらせの一つじゃない?」

「……まぁ、あのお方はそう言うところがありますからね」


 私の言葉に同意してくれるモナ。それから、モナは「丁度、明日が情報交換の日ですよ」と言ってカレンダーを見つめた。……ふむ、そう。


(あんまり妃候補の中には行きたくないけれど、行かなくちゃ何にも始まらないか)


 レクシー様の情報を手に入れるためにも、ここは行くべきかもしれない。そう思い手を握りしめた私に対し、モナは「あぁ、それと」と今思い出したかのように手のひらをパンっと叩く。


「その情報交換の場には、専属の女官又は侍女を連れていくのが決まりなのです」

「……そうなの?」

「はい、ただ、今は侍女が私一人なので……エイミーさんに、お願いしておきますね」


 多分、それって世にいう監視役とかそういうことよね? 何か問題を起こしたら、チクらせるための人よね? 私はそう思ったけれど、口には出さない。それに、私の場合はエイミーがついて来てくれるのならば心強いわ。そう思い、私は「お願いするわ」とモナに言葉を返す。


「……サマンサ様。ただ、くれぐれも気を付けてくださいませ」

「……何に?」

「そりゃあ、妃同士の場ということは、なんだかんだといざこざが起きます。特に、情報交換の場に現れるのは名もなき宝石の名を持つ妃候補ばかりなのです。……プライドが、かなり高いので」

「そう」


 確かに、モナの言っていることは一理あるかもしれないわ。ふむ、注意するに越したことはないということね。よし、やってやろうじゃない!


「それと、もう一つだけ、よろしいでしょうか?」


 私がそう心の中で宣言していると、最後とばかりにモナが恐る恐ると手を挙げてそう言ってくる。なので、私は「どうしたの?」ともう一度問いかけた。そうすれば、モナは何処となく言いにくそうに「……その場の、ことなのですが……」と声を震わせながら私の様子を窺う。何? 私、そんなに怖い顔をしているかしら?


「怒らないわよ。言ってみて」


 そうよ。私は理不尽に怒ったりしないわ。そういう意味を込めて出来る限りにっこりと笑えば、モナは「……王子様が、いらっしゃる場合があるのです」と消え入りそうなほど小さな声で告げてきた。……ちょっとまって、それってどういうこと!?


「ど、どういうこと!?」

「で、ですから、時折王子様がいらっしゃるのです……!」


 モナの肩を勢いよく掴んだ私。それに対して、びくびくとしているモナ。ねぇ、一つだけ言わせて頂戴。


「それは結構な重要案件よ!」


 それ、多分一番初めに言わなくちゃいけなかったことよ!

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