元女官、『ラピスラズリの姫君』から招待を受ける
シャーロット・メンドーサ侯爵令嬢。
そのお方は、この後宮で現在『ラピスラズリの姫君』という立場のお妃候補。王国でも屈指の権力を持つメンドーサ侯爵家の長女であり、家族構成は両親と兄……だった、はず。人目を引く美しい銀色の髪と、深い青色の目を持っていらっしゃるそうだ。……とはいっても、すべて人伝手に聞いたお話なのだけれど。
「サマンサ様! いったい、いつの間にシャーロット様とお知り合いになっていらっしゃったのですか!?」
ハリエットがそう言って、私の肩をがくがくと揺らす。や、やめて。頭がくらくらするから……! そう思っていれば、モナは「お、おち、おちつ、落ち着いてください!」なんて言ってくれた。いや、貴女も落ち着きましょう? 言葉をまともに言えていないわよ? そう言いたかったけれど、私も混乱しているためかそんな言葉は口から出てこなかった。
「し、知らないわよ! 私、後宮に来てからハリエットとモナ、それから管理人とノエル様としかお会いしていないわよ!」
私は叫ぶような大声で、そう言った。そ、そうよ。他のお妃候補の方々には、お会いしていない。ましてや、お相手は十二の宝石のお一人なのよ? こんな底辺の妃候補が会えるような存在じゃない。
「……シャーロット様のお噂は、聞いたことがあるけれど……」
『ラピスラズリの姫君』ことシャーロット様のお噂は、女官時代もよく聞いていた。その類まれなる美貌。そして、趣味だという占いが滅茶苦茶当たるとかなんとか。女官の中には、シャーロット様に占ってほしいという子がたくさんいた。……的中率九十パーセントなんて聞いたけれど、どんな占いよ、それ。
「と、とりあえず、中身を見てみなくちゃ……」
そう言って、私は震える手で封を開ける。すると、中にはシンプルな便箋が入っていた。その便箋を開いて、文字を目で追う。そこには当たり障りのない言葉で、私のことをお茶会に招待すると書かれていた。……何故? いや、本当に何故? 私、シャーロット様と接点なんてないですよね? 女官時代もお会いしたこと、ないですよね!?
「……詐欺?」
そして、一番に思いついた可能性はそんなものだった。これは、シャーロット様を偽った詐欺だ。そう思ったけれど、封筒にはしっかりとラピスラズリのマークがついている。……あれは、間違いなくシャーロット様が書いたという証になる。……本当に、何故私なの?
「う、うぅ、こ、これが届いたということは……」
私のお気楽スローライフもとい、ニートライフは終了するということなのかしら? そう思って、私は頭を抱えてしまった。もしかすれば、私は知らないうちにシャーロット様のご機嫌を損ねてしまったのかな? あ、ガーデニングスペースで家庭菜園を始めたのが、悪かったのかしら? でも、十二の宝石のお一人がこんなところまでいらっしゃるわけがなくて……。
「ま、まぁ、落ち着いてくださいませ、サマンサ様。断ることは出来ませんが、これはある意味チャンスです!」
「……チャンス?」
「えぇ、チャンスです! 上手くいけば『ラピスラズリの姫君』の派閥に所属できるかもしれません! シャーロット様は五大華には及ばないものの、権力のあるお方です。気に入っていただければ、この後宮生活はある意味安泰になります!」
モナが、少し興奮したようにそう言う。……いや、私を気に入ってくださっている可能性は、明らかに低いと思うのだけれど。そういう意味を込めてモナに視線を向けるけれど、モナは興奮しているのか全く話を聞いていない。……いや、一回落ち着きましょう? 深呼吸しましょう?
「……そうね。モナの言うことも、ごもっともよ。私も賛成です、サマンサ様。サマンサ様には『ラピスラズリの姫君』の派閥がお似合いだと思っていましたので」
「待って、私そんなの聞いていないから、初耳よ!」
「はい、今、はじめて言いましたから」
ハリエットはそう言って笑みを深める。い、いや、その……私は、派閥に属する気は一切ありません……。でも、十二の宝石のお一人からの招待を断るわけにもいかなくて……。
「お茶会は四日後のようですね。その日に向けて、本日からサマンサ様には自分磨きをしていただきます。シャーロット様のお茶会には、王子様方もよく参加されるのですよ。上手くいけば、階級が上がるかもしれません」
「い、いや、私、別にそう言うのは狙っていなくて……」
「ハリエット、良いですね! 私も頑張らなくちゃ!」
い、いや、モナまでやる気にならなくても……。
「では、サマンサ様はこのお茶会に参加ということで。ま、元々強制参加でしたけれどね。さぁ、磨きますよ!」
「嫌だー!」
私は力いっぱいハリエットに引っ張られてしまう。嫌だ! 何よ、それ! 私のスローライフは何処に行ったの!? お気楽ニートライフを謳歌するっていう目標は!? そもそも、何故シャーロット様のお茶会に私が招待されたのよ!
(本当に面識なんてないし、共通の知り合いもいない……はず!)
あの管理人は私のことが気に入らないみたいだから、紹介するわけがない。ハリエットやモナは私の専属だから、シャーロット様とお会いする機会などない。可能性があるとすれば……たった一人。
(……ノエル様)
家庭菜園を手伝ってくださっている、あののほほんとした男性。まさか、まさかだけれど……ノエル様は、シャーロット様とお知り合いだったとか? それで、面白い輩がやってきたと紹介してしまったとか?
(あー、もうっ! どっちでもいいから、次に会ったら絶対に問い詰めてやる!)
確率的には、ノエル様が一番高い。こうなったら、次にお会いした時に絶対に問い詰めてやる。私はそう思いながら、ハリエットに髪の毛を弄られるのだった。
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