良い医者
ひろおたか
第1話
転々と行き先を決めずに旅をしている僕は、先月この町に流れ着いた。そしてこの町のB級料理のレパートリーが豊富な、この飲み屋が僕の最近のお気に入りで、酒を奢るなどして常連客や店主と仲良くなり、この町の料理について色々と教えてもらい堪能していた。
「タロウ、どうした? 顔色が悪いぞ」
店主らが心配そうに僕を見ていた。
「さっきからみぞおちあたりが痛く、むかつきがあるんだ。多分食べ慣れない料理で体がびっくりしたんだと思う。どこか良い病院を知らないか」
と僕は訊いてみたところ、
「なら町外れにあるコン先生の病院がいい」
と皆口々に言い合った。
店主達の話では、この町には病院が二つあり、一つはコン先生の病院、もう一つはバオ先生の病院で、バオ先生は金にがめつく、先に大金を支払わないと診てくれないが、コン先生は金のない人間に対してもいつも親身に、格安で診てくれるとのことであり、常連客の皆には酒を奢って感謝を示し、夜も遅いがこれからコン先生の病院へ行くこととした。
コン先生の病院は町の外れにポツンと建っていた。建物は古く壁には蔦が這っていた。
暗い周囲や草木が擦れる音が不気味に感じさせた。
窓からは薄らと明かりが見えたので、ドアを叩いたところ、白衣を着た痩せ細った男が出てきたので、事情を説明したところ、笑顔で中に入れてくれた。
診察室に案内され、そこには手動の血圧計や所々皮が破れ綿が見えるベッドがあり、机の上には調合中と思われる薬の入った瓶が置かれていた。町の個人病院という感じだった。
「おそらく食べ慣れないものを食べたことによる腹痛でしょう」
とコン先生は触診を終えて言い、棚から薬を紙に包んで手渡した。僕は、お金を支払おうとしたところ、コン先生はこの程度の診察の場合はお金は取らないと言って、やんわりと断ったのでその理由を尋ねたところ、
「私が医者を志したのは、できる限り救える命を救いたいと思ったからです。でも、多くの人にとって病院は高い治療費が取られると思っているし、実際その通りです。お金がなかったために、救えない命があるのは悔しく感じたので、この病院を開いたのです」
とコン先生は笑って答えた。
「町の人の言う通り、あなたは良い医者だ」
と僕は言い、支払うつもりであったお金を、新機材の購入に役立ててほしいと寄付したところ、コン先生は快く受け取ってくれた。
宿に戻り薬を飲んだところ、心なしか痛みが和らいだ。しかし数日後、行きつけの飲み屋へ向かう途中に再び右の脇腹あたりが激痛に襲われ、コン先生の病院へと行く余裕もなかったので、街の中心地にあるバオ先生の病院を訪れた。
バオ先生の病院の敷地は広く、高い塀に囲まれていた。入口から中を覗くと、綺麗に整備された庭があり今の季節に咲く花が色付いていた。庭の先にはコン先生の建物とは比べ物にならないほど大きく、そして綺麗に白く塗られた建物があった。
僕は中に入ろうとしたところ、警備員に止められた。事前に予約がない者は一切いれられないとのことだった。僕は、痛みもあって腹が立ち、警備員に文句を言っていたところ、白衣を着た男が現れ、金はあるのかと訊いてきた。僕は、今の手持ちはこの財布の中にあるものしかないと答え、財布の中身を見せたところ、男は、話にならない、コンのところで診てもらえと立ち去ろうとした。僕は、万が一の時に持っていたダイヤを男に投げつけ、これなら足りるだろと言い、気を失った。
目覚めたら、ベッドの上にいた。周囲を見渡したところ、他にベッドはなく個室があてがわれていた。ちょうどその時に、気を失う前に話をしていた男が入ってきた。名札を見ると、この人がバオ先生らしい。
「虫垂炎ですね。虫垂に穴が空いていたので手術で一旦取り除いております」
会った時と打って変わってバオ先生は丁寧に答えてくれた。その変化に戸惑っている僕の様子見て
「俺は、できる限り多くの命を救いたくて医者になった。そのためには常に研究し、良い設備、良いスタッフが必要だが、これらには金がいる。金がないために命が救えないなんて嫌だろ? だから、金のある患者しか診るしかないんだ。時間も設備も人も有限なのだから」
と自虐的に笑った。
「町の人の噂と違い、あなたも良い医者だ」
と僕は伝えたところ、
「で、どうします? このまま虫垂炎を切除したままにしても良いですが、その場合にはガンのリスクが高まるかもしれません。もしくは、穴の空いた虫垂炎の細胞を培養して虫垂炎の穴を閉じ、再接合もできますが、その時はさらに追加の料金が必要です」
と僕の答えを確信しているかのようにバオ先生は営業トークで訊いてきた。
僕は、家から執事を呼び寄せ追加料金を支払った。そしてバオ先生に支払った金額と同じ金額をコウ先生にも支払うよう執事に指示した。
良い医者 ひろおたか @konburi
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