取り調べも頑張ります!
民主主義国家ファーレンの台所、貿易都市モンペルグを守護する組織にしてはどこかたよりなく古めかしい建物が僕たちの職場だ。
首都アルダートまでを結ぶ魔動列車駅から徒歩15分。広い通りに面した一等地に大支社と呼ばれる我らがモンペルグ詰所は建てられた。
築18年の4階建て木造建築のL字型に並ぶ白を基調とした二棟。屋上から赤い旗が垂れ下がり、悪人近寄るなかれの空気が漂う。
今では魔法工業が発達し独立した地位を築いたファーレンだが、過去を辿ると周りの国々では戦争が絶えず、現在に至るまでの道は決して平坦ではなかった。
島国のファーレンはそういった争いの火の粉を被ることはあっても、自ら首をつっこまないように一歩引いた位置で中立を保つことで難を逃れてきた。
当時、優秀な人材を求め
国の運営で治安維持隊を設置していたものの、多角化する犯罪に人手が回らず、また技術の発展に力を注ぎたい方針も人手不足に拍車をかけた。
そこで武力と組織力を持ったいくつかの傭兵団に白羽の矢が立ったのだ。
もちろん犯罪者崩れのイメージが強い傭兵団に治安維持を委託するなんて、と反発も凄まじかったようだが、背に腹は代えられぬということで慎重に委託先を吟味し試験的に二年運営の契約更新制に最終的には落ち着いた。
その背景から、強力な魔法を用いた誓約に基づいて契約をしているので僕たち傭兵は縛りが多い。
僕らが所属するマズール・ポーンは最初に契約を結んだ二つの傭兵団の一つであり、いまや最大の治安維持組織である。
現在はファーレン全体で五つの傭兵団によって治安保全省を構成しており、犯罪者崩れという風評はどこへ行ったのか首都の本部はエリートの巣窟だ。
現総団長(みんなは社長と呼ぶ)の父、グスタヴォ・マズールが出身国のファーレンで落ち着いた仕事がしたい、命が軽い時代は終わった、と死に物狂いで取ってきた契約だったらしい。
もともとルトガル大陸でも前線での仕事より王族・貴族の警護によって身を立てていたマズール・ポーンはお試しにはぴったりだったのだろう。
試験的に始まったこの制度で当初は混乱も大きかったようだが、今となっては当たり前に受け入れられており、傭兵=魔ッポ、というのがファーレンでの共通認識だろう。
本部をのぞいて僕らの支部は三つ。
テロなどの大規模犯罪が多い荒くれものの街、南のペテロサイス支部。
秘匿任務の多い首都アルダート支部。
そして小さいものから大きいものまで事件の大問屋、東のモンペルグ支部。
悪いことならなんでもござれの僕の街は今日も眠らず事件を生み落とし続けている。
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「あー…。思ったよりホンモノだなアンタ!」
詰所の取調室は地獄と化した。
「だから私のだって、そう言ったじゃないか!じ、自分で買ったものなんだ!もう帰してくれ!!」
刺激的な赤い制服に身を包んだたくましい肉体の老け顔傭兵と、一回り小さいながらもガタイの良い新米傭兵。
机を挟んだ向かいには顔を両手で覆い、くねくねと身をよじり筋肉質な上半身を赤裸々に晒すおじさん42歳。
なぜかその上半身には胸部に女性用の下着を着用している。その下着はご丁寧に乳首部分を切り取って通気性の改善を試みた逸品だ。
チンピラ傭兵と変態紳士が出会ってしまったか……。
背を向けて調書を取る僕にも鏡の魔法で全て見えている。見たくもないが、業務だ。
「まずねまずね、その下着の乳首から乳輪にかけてピッタリ直径5㎝ほどの穴。それはどういった用途で使うの?」
好奇心を抑えられない様子で前のめりにデルーマン先輩が尋ねる。
察してあげてほしい。
「くっ……。もう、殺せ……」
そう言いながら下半身がお元気な様子なのは気のせいだろうか。なんだか品のない熱を感じる。
「よし、おじさん。念のため下も脱いでおこうか!危険物、持ってるかもしれないし」
凄い絵面なので上半身のソレも脱いでなにか羽織ってからにしてくださいね、と言いたい。
「勘弁してくれ!こんなむさ苦しいやつ相手に興奮したら空しいじゃないか。……でも、君みたいな若い子ならいいかも。こっち向いてみてもらえる?」
見えてる見えてる、ズボンの腰の部分に紐っぽいの見えてるよ。っていうか指名すんな。
「いえ、僕は豊かなお胸が好みなので」
おじさん、この状況で何を興奮してるんだよ、と思いつつ、調書を書く手は動かす。
職質時の上気した頬や息切れは露出しようとしていたところでの声掛けによる高揚からだった模様、と。
「私にピッタリじゃないか。強がっちゃって…。可愛いなぁ。」
バリトンセクシーボイスで囁くおじさん。豊かなって筋肉って意味じゃねぇよ。
「いいじゃないか、俺ら色気のある機会なんてそうそうねぇし、見せてもらえよ。おじさまの立派なブツ」
げへげへと笑いが止まらない様子で嬉しそうに乗ってくるクソ上司。
女性団員でなくともハラスメントの申請は可能だろうか…。
あー、腹いてぇ、とひとしきり笑ったあと、先輩は取り調べに戻った。
「あぁ、そんなまじまじ見なくても…。悔しいのに…イイッ!」
「ほらぁ、危険物所持じゃないのおじさん。ってか下もこの部分ぱっくりいってるけどこれどうなってんの?」
全然取り調べに戻っていなかった。プレイが始まっただけだった。
しゃがみ込みながら股間部を覗き込み、おじさんには実用性ないでしょこの穴、いやこれが解放感がまたすごくてですね…と、もはや聴取そっちのけの猥談が発展していた。
転職しようかな…
下の変態御用達穴あき布切れをも脱ぎ去り、下半身をむき出しにした紳士と語り合う先輩。
僕は乾いた笑いと共にこみ上げる涙を抑えるために目をそっと閉じ、業務を放棄した。
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