牽制球 第2球 冬練習の後で -後編-
2015年 1月某日 19時21分
部室を出た僕はマネージャーたちに声をかける。
「手伝いますよ」
マネージャー2人がドリンクを入れる容器を洗っていたので、先輩のマネージャーに変わるように声をかけた。
「ありがとう!
場所を交代してヤンキー座りのように僕はしゃがむ。水道から出る水に制服が濡れないように腕まくりをして準備をしたらスポンジで洗い始める。
「さっきさ、なんか部室の中すごく盛り上がっとったね! 何の話しとったん?」
全身ジャージ姿の
「
と
「そーなんや! 和馬は凄いね! そんなこと堂々と皆の前で話せるなんて!」
と南山のことを素直に褒める宮永。
「うん」
そっけない返事をする。僕もそんな南山の純粋な部分は尊敬していた。まぁ、調子に乗るので絶対に本人には言わなかったが。
「野崎君は彼女とか好きな子はおらんの?」
来てしまった。まさかこの話題が僕に来るとは思っていなかった。
「んー、どっちもいないんだよねー」
へラッとした顔をしながら宮永に返事をした。正直には僕は答えなかった。僕にはクラスメイトに気になっている子がいた。宮永とはクラスが違うし、つながりもなさそうだから話しても良いと思う部分もあった。それでも僕は女子の情報網が怖かったのだ。つながりがなさそうな女子同士でも案外、顔見知りの可能性がある。そういった場面を何度も校内で見てしまったから確信もしている。それに、無駄に情報網が広い
僕にはクラスメイトに学生番号が近く、仲が良い女子が気になっている子の他にいた。仲の良い女の子は明るい子で学年内でも結構有名な子だった。一年の野球部員全員はその子のことを把握していたのだ。そのため、仲が良いことを知った
「じゃあ、タイプの子とかは? こんな見た目が好きとか」
そういった女の子を僕の口からは確かに話したことはなかったので、宮永が僕に追加で質問してくる。
「んー、好きになった人が好きだしねー」
僕はつまらない返しをする。変に見た目のタイプとか言ってしまうと、やはり裏で探られたりとか他の子に迷惑をかけてしまう可能性があるため、僕はこういった話もあまり具体的に話さないのだ。こんな話をしていると、宮永も僕が仲の良い女子の名前でイジられているのを知っているはずなのに、何故そんなことを改めて聞いてくるのか不思議だった。
「そっかー、今の1年生に彼女がおるのって和馬と
あまりにも自分のことを話さない僕に対して、これ以上聞いても無駄だって事を多分理解したのであろう。宮永は話題を切り替え始める。
「そうだね。たしか2人だけじゃないかな」
そういえば、彼女や好きな女子がいない部員やバレていない部員も僕のように誰かしら仲の良い女子などでイジられているので、僕たちは何となく全員の彼女の有無を把握している。それにしても僕は東条に誰かしらの名前が上がった記憶が無いな。今度、誰かに聞いてみようと思った。その後、誰かに聞いた覚えは無い。
「2人とも長く続いとるし羨ましいよね~」
宮永が本心から言っているのは何となく分かった。
「まぁ、和馬はよく分からないけどね」
僕は南山のことに対しては少しだけ否定をしておいた。
「あれでしょ、別れるのと復縁を繰り返しとるからでしょ? 結局、同じ人と付き合っとるんだから変わらんでしょ」
宮永は二人の交際を詳細に知っているらしい。僕たち一年生も南山の交際について少しは知っていたのでそのことも知っているのだが、南山にも意見がある。
「それで良いと思うんだけど、なんか頑なに認めんじゃん? ずっと続いているってことに対して」
僕たちは南山の現在の彼女との交際をまとめて交際期間でも良いのではないかと全員思っているのだが、南山は頑なに認めないのだ。
「確かに、ちょっと和馬は頑固やからね」
宮永は部員全員と仲が良いからそのあたりも僕より把握しているのだろう。
「いいなー、私も彼氏欲しいんよねー」
宮永が唐突に言い出す。
「宮永ならすぐできるんじゃない?」
藪下は女子の顔に対して文句をよくつけているのだが、宮永のことをけなしている姿を僕は見たことが無い。恐らく、可愛い分類に入るだろうから僕は素直に答えた。
「本当に? ありがとう~野崎君も彼女できたら教えてよ?」
そんな会話をしながら洗い物をしていたが、全て洗い終わったのでマネージャーが利用している部室に洗い物を運ぼうとする。すると、突然一年が利用している部室の方から
「おい! ザッキー! なに抜け駆けしとん!」
藪下が僕に向かって急に声を荒げてきた。あまりにも理不尽なセリフについビクッとしてしまう。
「っえ? んなつもりはなかったんだけど」
「っざけんな! 宮永! 俺が運ぶ!」
部室から飛んで来ると僕が持っていた洗い物を奪い取る。
(いや、お前らが猥談で盛り上がってただろ)
と内心イラッと思ったが、運ぶのも面倒だったので僕は手の水分をお尻の右ポケットに入れているハンカチを取り出し拭きとると部室に戻る。すると全員の着替えが終わっていたため帰宅の準備もほとんどが終わっている。部員数人がエナメルバックを肩にかけながら部室から出ると集団に追従するように僕もエナメルを左肩にかけて部室を出る。藪下がちょうど部室に帰ってきていたため、少し待つと全員で学校の正門を抜ける。自転車や電車通学など通学方法でバラバラになるが僕たちは基本的に校門までは一緒に行動をするのだ。僕は鞄にしまっていた携帯を取り出してまた通知を確認する。メッセージアプリのアイコン右上に緑の枠、白い数字「1」が点いていた。
弱小公立野球部 ~甲子園までの道のり~ カツマタキ @Katsu_Mataki
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