第02球 初めての夏
2014年 7月9日 18時7分
入部してから3ヶ月が経過した。僕たちは今、野球部専用グラウンドの近くで応援歌を歌い続けている。近所の方々や他の学生の帰り道などから見える場所なので、僕たちの姿を横目で見られるのでとても恥ずかしい。石川県の地方大会では、ベンチに入れる人数は最大20名。それ以外の部員はスタンドで応援をする。甲子園とかで映るアルプスの応援団などはそういったベンチに入れなかった部員が行なっている。今年の夏の大会において1年生ながらベンチ入りを果たしたのは捕手の
春の大会2回戦敗退後の僕たちは、1年生も全体の練習に混ざっていた。それでも、僕ら1年生は彼らの最低限のレベルにも到達していなかった。そのため、練習の途中ではノックやバッティング練習では指名が入らなかった場合、ボール回収などの雑用に回されたのだ。外野手として僕、内野手として
僕は身体の線が細く筋肉も当然無いため、筋力は全く無いといって良いだろう。それでも軟球なら90m近い距離を投げることは出来たし、外野手として捕殺した経験は何度もあったため、中学生の時はある程度チーム内で投げれた自信はあった。しかし、軟球は筋力が無くても身体を操る技術があれば、ある程度のボールを投げれることをここに来て知った。僕のメッキみたいに上辺だけ繕っていた中学時代からのプライドは1ヶ月も経たないうちに粉々に砕かれていた。
中学生から高校生になったばかりの僕たちには硬球をまともに扱うための身体は出来ていないため、同じように動こうとしても筋力が足りないことを実感させられる。その比較相手が毎年1回戦で負けるような弱小チームの選手たちだと頭の中で分かっていてもだ。僕はそのレベルの差をひどく痛感させられていたのだ。
監督とコーチは時代に反発するような熱血顧問だ。声を出し続けろ。根性を見せろ。そんな熱い指導者のことを僕は嫌いでは無いと思っていた。古くさい古典的な雰囲気は、時に僕たちが憧れたロマンを感じさせることがある。それでも僕は声を出すための腹筋も苦手なので、中学時代から声が出る方では無かった。
「声が出ないのは根性が無いからだ」
とある日に、監督が僕に言い捨てた言葉だ。そんなのは間違っている。根性で声量が変わるわけなんか無い。僕は両足に沿ってしっかりと伸ばしていた両手を強く握る。正面から反発してやりたかったが、内気で臆病だった僕には到底不可能だった。僕は声の小ささを理由に練習から除外されるときもあったし、未だにあの理論について理解出来るようになるのは到底不可能だ。
あの時、そうあの時に僕は根性とかそうゆう古くさいやり方に嫌悪感を覚え始めていた。
ただただひたすら声を出し続け、2時間以上経っただろうか。学校の下校時間に差し掛かったため、後片付けをして今日の練習は終了した。僕たち1年生には野球部の部室を使うことは出来なかったが、雨よけと建物で死角が出来る場所である部室棟近くの物陰で制服に着替える。半分ぐらいの部員が着替え終えていたあたりだろうか、ジャージを着た女子が3人、僕たちの元へ近づいてきた。
「あの!
そういえば、今日は少し距離を置いた位置から2年生のマネージャーと練習を見ているジャージ姿の子がいるとは気づいていた。まさか、マネージャーになるとは思っていなかった。
僕よりは小さいだろう160cmなかばだろうか、少々つり目でやや面長というのだろうか、前髪を左右に分けておでこを全開にしたセミロングほどの長さの髪型。多分、美人系とか第一印象はそんな感じだった。先ほどの挨拶は緊張した様子が覗えたが、普段からの元気な様子も覗えるような挨拶をされた。そう、僕たち1年生にも1人マネージャーが入部したのだ。
「あんたたち! ちゃんと仲良くしなさいよ!」
春休みに野球部の練習に参加した僕たちを校門まで迎えに来てくれた2年生のマネージャーに一喝される。お調子者の
家に帰宅すると、近くの公園まで歩いて行き、素振りと10mダッシュを満足するまで行なう。僕は持久力には自信があった。だけども瞬発力がどうしても苦手だ。よく弄ってくるお調子者を追いかけるも捕まえたことはほぼほぼ無い。恐らく、僕は速筋と遅筋の割合は遅筋の方が大きいのだろう。少しでも自分の苦手な分野に対応しなければ中学時代の二の前になってしまう。
もう、あんなことはうんざりだ。僕の目的を達成させるためにも
公園のベンチに置いておいた自分のスマホで時刻を確認すると、21時を回りかけており、家から閉め出されてしまうのを恐れて急いで2度目の帰宅をした。
2014年 7月14日 15時34分
相手は去年、ベスト4のチーム。序盤は投手戦となり、7回までバックスクリーンに0の数字がきれいに並ぶ。8回になると疲労の様子が両チームの投手に見られ、僕たちは4点、相手に5点取られてしまった。
9回表 二死 1ボール2ストライク
打席に立つのは3年生の主将。僕たち3塁側アルプスからは背中に大きく書かれた数字「2」がはっきりと見える。諦めないと言わんばかりに僕たちも必死に声を出し続ける。相手投手の右腕から放たれたボールは真っ直ぐにキャッチャーミットに届きそうな勢い。ボール半個分ほど離れてバットの上を通過した。バチッと良い音を響かせキャッチャーミットにボールが収まる。
1年生の夏、1回戦で僕たちの夏は終わった
――――――――――――――――――――――
登場人物Profile(2014年 4月時点)
大沢高校 1年E組
身 長 :158.1 cm
体 重 :57.2 kg
投 打 :右投げ右打ち
守備位置:捕手
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます