硬式野球部 18期生の始まり

第01球 僕らの始まり

          2014年 3月21日 9時42分


 前日に合格発表で自分の番号があるのを確認し終えていた僕は中学校の学ランを身に纏い、今日の高校入学説明会に参加する。入学説明会では学校の昇降口から校舎に入り、下駄箱を抜けたその先に大きな黒板が設置されていた。その黒板には張り紙が数枚ほど張られていて、合格者の受験番号がそれぞれの教室に指定されており、そこまでの経路も同時に記されていた。そのため、番号を確認した僕は自分が指定されている教室に入ると教室の黒板に貼られた紙に記された受験番号を確認しながら自分の席に座る。その日は入学式や一年間のスケジュール、制服の採寸などを行い、12時過ぎには帰宅することができた。席に到着した時には机の上に部活動の勧誘チラシがまとまって置いてあった。僕は制服の採寸などで空いた時間ができていた時に、チラシをめくりながら一通り目を通していた。


(バスケ部、サッカー部、テニス部、卓球部、ボーリング部。……変わった部活もあるもんだな)


 チアリーディング部に吹奏楽部。僕の中学校には無かったが、学生生活にとって定番の部活動のチラシもいっぱいあったことで、僕は4月から高校生になるということを強く実感した。それにしても運動部より文化部のチラシの方が多い印象があり、女子サッカー部など女子が主役の部活動が多い印象だった。


 家に着くと二階の自室に向かい、学ランの上着を脱ぎ捨てる。ワイシャツの第二ボタンまでを開けて窓を開けると適温の風が部屋に入る。配布されていた部活動勧誘のチラシを古い勉強机に投げ捨てると、最低限の提出する書類を鞄から取り出し、簡単に目を通しながら記入をする。一通り書き終えると、リクライニング可能な椅子を軽く倒し、背もたれに寄りかかりながら投げ捨てたチラシを持ちあげてパラパラとめくる。


(うん、やっぱりこの部活に入ろう)


 小学校からずっと続けてきたこのスポーツ。もちろん、この高校にもあることは分かっていた。この部活動があること。僕はこの部活に入ってやるんだって決めていたんだ。入部を決めたその部活動のチラシには、春休みの部活動のスケジュールが裏に記載されており、書類を持ちながら急いで階段を下ると提出書類を見せる前に母親に練習参加の確認をとった。






          2014年 4月1日 8時44分


 僕は白の靴下、紺色のアンダーシャツにアンダーソックス、真っ白でダボダボな練習用ユニフォームを上下に着て、中学時代に愛用していた黒がメインの白いエナメルバッグを左肩にかける。帽子は中学のユニフォームのものを被った。その中には、硬式用のまだ硬く黒い外野手用のグローブ、スパイク。保温効果のある弁当、2Lの水筒も一緒に入っている。雪国の古い家ならではの広い玄関。そこで、持ち物の最後の確認をすると、玄関の戸をガラガラと音をたてながら右にスライドさせる。家を出て目の前の道路に出ると東側にすでに見える校庭。でも、ここじゃない。校庭が面している西側から大きく迂回して東側へ向かうことで、川沿いの道路から高校の正門に到着する。僕の家からは徒歩10分もあれば着く。僕がこの高校を選んだ理由だ。


     石川県立 大沢おおさわ高等学校

 まだまだ歴史の浅い公立高校なので、他校と比べるとその歴史の差は歴然である。後々になって知ったのだが、僕は18期生となる。創部18年目の硬式野球部に僕は入部するのだ。


 正門を抜けた目の前にある校舎の昇降口前には、真っ白のユニフォームを全身にまとった男子が既に4人いた。その集団に近づくと、首だけ曲げて簡単に会釈をした。どこのクラスなのかなどといった、いかにも初対面らしい当たり障りのない雑談を少々していた。9時になる直前に真っ白なユニフォームを着た男子が4人、正門を抜け僕らの元まで走ってきた。とても息が上がっている。初日から遅刻をしそうになっていたらしい。そんな彼らが到着してから恐らく、1分も経っていないだろう。南側から走ってくるジャージ姿のマネージャーらしき女性が一人、僕たちの元に来る。僕ら9名は声をかけられると、練習をしているグラウンドへと向かった。


 この高校のグラウンドはとても小さいため試合はできないが、南側に野球部専用のグラウンドを有している。そのため、先ほどの女性に道案内をしてもらい、グラウンドへとたどり着く。すでに練習を開始していたらしく、僕たちは案内されたところに鞄を並べて置き、野球道具をそれぞれ準備して、急いでグラウンドへと向かった。


 グラウンドのベンチには二人、男性が座ってキャッチボール姿を眺めている。僕の第一印象としては二人とも、高校野球の指導者としてはとても若い印象に見えた。

 僕たちはグラウンドに入るや否や、男性に声をかけられる。互いに簡単な自己紹介をした。やはり、座っていた男性は監督とコーチだった。監督は170cmほどであろう僕より明らかに身長が大きい訳では無かったが、まさしく体育大学を出たと言わんばかりの太さ。威圧感がすごかった。コーチは監督より少しだけ背が高かったが、僕たち1年生のように線が太くは無かった。実際に年齢を聞かされて、27と22と言われても納得できるほど二人の雰囲気は若かしかった。


 春休み期間は僕たちが怪我をした時の責任が取れないとのことで、ボールに触れる機会自体はそこまで多くは無かった。それでも、キャッチボールなど硬球に触れながら僕たち同級生の顔合わせとしては絶好の機会となり、8人の顔と名前を一致させるための時間は他に必要なかった。






          2014年 4月16日 15時41分


 6限目の授業も終わり、ローテーションで行なわれる掃除を終えた部員がぞろぞろ教室に入る。仮入部期間を終了した本日、入部届を提出した部活動に僕らは入部する。見たことない顔も、ちらほらあった。

 主将が部員が揃ったのを確認すると、一度教室を出る。その後、監督とコーチと一緒に帰ってきた。

 簡単な話を終えると、僕たちは入部届を監督に手渡しし、グラウンドへと向かった。




     僕の高校野球生活は今、始まったのだ


3年生:11名(マネージャー:2名)

2年生:15名(マネージャー:2名)

1年生:10名(マネージャー:0名)

合計:36名(マネージャー:4名)


――――――――――――――――――――――

登場人物Profile(2014年 4月時点)

野崎 信一のざき しんいち

大沢高校 1年A組

身 長 :168.4 cm 

体 重 :53.4 kg

投 打 :右投げ右打ち

守備位置:中堅手、右翼手、左翼手、一塁手

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