クロードのことが好きなんだ


「すいません。うちの店でもナジャバの実はきらしていて……あれナジャバの実を運ぶ馬車がゴブリンに襲われたそうなんですよ」

村の外れの店主がそう言う。


「ゴブリンに?」


「えぇ……ここらへんでナジャバの実を持ってるのは盗んだゴブリンだけですよ」


「……」

俺とミラーカは目を見合わせる。



「本気で行くつもりか? ゴブリンの巣に」

俺はミラーカに聞く。


「あぁ! 悪いゴブリンを成敗するいい機会だ。クロードなら大丈夫だろう?」

ミラーカは笑顔で聞く。


「まぁ……大丈夫だろうけど」

俺は言った。


「暗いな。灯りをつけよう」

そう言ってミラーカはトーチライトの魔法を唱えた。すると手のひらサイズの大きさの光の玉が俺たちを照らした。


「クロードのトーチライトの魔法も見てみたいな」

ミラーカがそう言う。


このレベルになってトーチライトの魔法。ちゃんと制御出来るのか。面白そうだな。やってみるか。俺は手のひらを広げた。

「トーチライト!」


すると俺の手のひらから凄まじい光が漏れ出した。プクーーーーっと光が膨らみだす! 


「うわぁ!」

ミラーカは思わず顔を隠す。


「うわっ! あっ!」

俺はトーチライトを消そうとするが制御出来ず消えない。するとその光がドンドン大きくなってまるで地上の太陽のように辺りを照らし出した。


「おい! なんだあれは!」

「誰だ! 一体!」

俺たちは村外れにいたのだが村にいた人があまりの眩しさに叫んだ。


ワンワンワン!!!

ワンワンワン!!!!!

非常事態に鳴き叫ぶ犬たち。


「うわっ! ちょっと! これっ!」

ドンドン膨らんで行くトーチライト。直径がもう俺の背の高さくらいになっている。


「クロード! ボクはヴァンパイアだぞ! このままじゃマズイ! 空に放り投げろ!」

ミラーカがそう言うと、俺は意を決してこのトーチライトを空に放つことにした。


勢いをつけて! よしっ! 俺は魔力を放出する要領で巨大なトーチライトを空に飛ばそうとする。ドクン! トーチライトはまるで水風船みたいに衝撃を受けた波打ち、その衝撃のまま空に飛んでいった。


第二の太陽に照らされていた地上もトーチライトが空に消えていくにつれてどんどん暗くなっていく。俺が作ってしまったトーチライトは夜空に消えた。


ワンワンワン!!!

ワンワンワン!!!!!


「一体なんだったんだ! あれは!」

村の人から怒鳴り声が聞こえる。


「すいません。魔法が暴発しました!!」

俺が弁解してると


ミラーカがクスクスと笑いだした。

最初はクスクス笑いだったが、最後には大きな声でアハハハと笑うようになった。


「そんなに可笑しいか? ミラーカ」

俺は言う。


「だって犬まで吠えだして……本当にご近所迷惑な奴だな。キミは」

ミラーカは腹を抱えて笑っている。


「もう行くよ」

俺はゴブリンの巣に向かって歩き出した。


「ハハ……ちょっとまってくれ」

ミラーカが俺に続く。



「あれがゴブリンの巣だな」

俺たちはゴブリンの巣の近くまで来ていた。ゴブリンたちが焚き火を囲んで宴会をしている。


「さぁ……クロードどうする?」

ミラーカが俺に聞いてくる。


「正々堂々と行こう」

俺は立ち上がりゴブリンの巣に向かった。

「ギギッ!!」

驚くゴブリンたち。槍を持ち武装して襲いかかるゴブリン!


「マテリアライズ!」

俺はそう唱えると焚き火から俺の手に炎が集中した。そしてその炎は燃え盛る弓と矢に変わった。


ファイアーボウ


攻撃力320


炎の矢が当たると爆発炎上の効果


ステータスウインドウが現れては消える。


俺はゴブリンめがけて炎の矢を放った!

ヒュン! ドゴッ! バグン!

爆発して吹き飛ぶゴブリン!


ヒュン! ボコン! ゴブリンたちは自分の仲間たちが爆発しているのに恐怖してそのまま俺の前から逃げ去る。


ヒュン! 俺は容赦なく逃げるゴブリンめがけて矢を放った! ボコン! 爆発するゴブリンたち。


「あらかた片したか」

俺はそう呟く。目についたゴブリンたちは全員矢で爆殺した。


「本当に容赦ないな……」

ミラーカが呟く。


「そりゃそうだろ。生き残りがいたら村人に報復するかも知れないからな」

俺は言う。


俺は荷馬車を見つけた。赤い果実が大量にあった。

「これがナジャバの実か。クロエのために持って帰るか」


俺はカバンに5〜6個いれた。


「これでクロエが元気になるといいな」

俺は言う。するとミラーカとふと目が合った。ミラーカはなんだか暗く沈んでいるようだった。


「さぁ! 帰るか!」

俺はそう言うとミラーカはビクッっとしたように反応した。


「あぁ……そうだな」

ミラーカは呟いた。


俺はハックダートの村まで戻ることにした。途中ミラーカはずっと無言だった。どうしたんだろう。なにかあったのだろうか……俺は心配する。


「クロード……」

ミラーカは潤んだ瞳で俺を見つめる。

「クロード。空を見てほしい」

俺は空を見上げると


「うおっ!」

俺は思わず声が出た。空は一面の星空だった。

「気づかなかった……」

俺は呟く。


「よし! ここでゴロンだ!」

ミラーカは笑って地面に寝っ転がった。


俺がミラーカを見ていると

「なにをしてるんだ。キミも横にならないか」

と俺に言ってきた。


「あ……あぁ」

俺とミラーカは寝転がり星空を見上げる。


そらにはまるで太陽を粉々に砕いたかのような星空が広がる。

「なぁ。ボクと一緒に来て良かっただろ?」

ミラーカがいたずらっぽく言った。


「そうだな。最高だ」

俺はミラーカと一緒に泊まった日の夜を思い出した。確かあの時は露天風呂でお湯に浮かびながら一緒に星を見たっけ。


「ミラーカと出会ってからだ。俺の運命が変わったのは」

俺はミラーカに言う。


「うん……」


「そうかあの時ミラーカは俺を見つけに来てくれたんだな。俺が覚醒するところを見つけるために」


「そうだ」


「ありがとう。あの日俺は死にかけたけど、新しい人生を手に入れることが出来た。今は昔から考えられないほど幸せだ」

俺はそう言う。


ミラーカが俺の手を握ってきた。俺はそれを握り返し答えた。



「じゃあお休み」

俺はミラーカに挨拶をする。俺たちはハックダートの首長の屋敷まで戻ってきていた。

「じゃあな。クロード。クロエには私から渡しておく。もちろんクロードと一緒に苦労して取ってきたって伝えるよ」

ミラーカはナジャバの実を持ってそう言った。


「頼んだよ。あーーねむーー」

そう言って俺は自分の部屋に入りベッドで寝た。



コンコン。


「はーーい!」


「ボクだ。入っていいか?」

ミラーカの声だ。


「ミラーカ! いいよ。入って!」

クロエが返事をした。


「どうしたの? わぁ! なにそれ!」

クロエがビックリする。


「クロエの症状にナジャバの実が良いと聞いていたからな」


「凄い! こんなに!」

クロエは驚く。


「へーナジャバの実ってこんな形をしてるんだ!」

クロエは驚いたようだ。ナジャバの実はリンゴくらいの大きさで形は洋梨のような形をしていた。


「今剥いてやるからな。病人は病人らしくしていてくれ」

ミラーカはそう言うとナイフを使い行にナジャバの実を剥いていく。


「これお医者さんが効くって言ってたけど、この屋敷にないって言われて。どこにあったの?」


「クロードと一緒に市場まで行ってきたんだ。クロエに元気になって欲しくて。でも市場には置いてなかった。ゴブリンがナジャバの実を盗んだって村の人から聞いた。それでゴブリンの巣まで行ってゴブリンを退治して取ってきたんだ」

ミラーカは器用にナジャバの実を剥きながら言う。


「あ! そうなんだ! ありがとう! 私のためにワザワザそんなゴブリンの巣まで! 大変だったでしょ?」

クロエが聞いた。


「まぁ結構大変だったよ。途中でなクロードがトーチライトの魔法を使ったんだけど、それが制御できなくてね。太陽くらい眩しい光を作ってしまってね。それで近所の人がビックリして出てきて」

ミラーカは思い出し笑いをする。


「そっか! そんなことがあったんだ。あーそれ近くで見たかったな」


「本当クロードってバカだな……」

と言うとミラーカは感情が抑えきれなくなったのか急に泣き出した。


「えっ? どうしたの? ミラーカ」

クロエが聞く。


「なんでも……あ……」

涙を流すミラーカ。


「ミラーカなにがあったの? ひょっとしてクロードがなにかした?」

クロエが心配そうに聞く。


「大丈夫……! そんなんじゃない!」

ミラーカは泣きながら否定した。


「じゃあなんで……」

クロエが聞くとミラーカは言った。


「クロエ……私今日分かったんだ。私、クロードのことが好きなんだ」

と。


「えっ?」

クロエが聞く。


「ずっと胸が痛かった。でもクロードの笑顔をみるとその胸の痛みが和らぐんだ。好きなんだ。クロードのことが」


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