アレクサンドラが俺の部屋にやってきた

「ボクと一緒に行ってほしいところがあるんだ」

ミラーカが言う。俺は振り返りそうになるがミラーカは裸だった。振り返るわけにはいかない。

「どこに?」

俺は言った。


「クロエを助けたくはないか? クロエの病気にナジャバの実が効くらしいぞ。で、どうやらその実はこの屋敷には置いてないらしい」


ナジャバの実……クロエを診察した医師が言っていた熱中症によく効く果物か。


「一緒に街の市場まで行こう。クロエをびっくりさせるんだ」

とミラーカは提案した。なかなか良い提案だと思った。そのプレゼントでクロエに対して俺たちの感謝の思いが伝わるかもしれない。


「いい案だと思う。じゃあ俺も服を着替えるからミラーカも服を着替えて欲しい」

俺はミラーカの方を全く見れない。


「分かった。でもこれは姫様に内緒で頼む」


「ん? どうして?」


「姫様に伝えると姫様も一緒に行きたいと言うだろう。クロードも知っての通りここらへんの治安は良くないからな。姫様を守りきれない」

ミラーカが説明した。


なるほど。確かにアレクサンドラの「夜の街を見てみたい!」

と言って目を輝かせている姿が思い浮かんだ。それに昼間みたいなリザードマンに囲まれても厄介だ。倒すのは簡単だが怪我をさせたら面倒くさいことになる。


「分かった。内緒にする」


「そうか。服を着替えたらクロードの部屋をノックするよ」

ミラーカが言う。


「分かった。じゃあ着替えてくる」

俺はミラーカの部屋を後にした。


俺は自分の部屋に入り着替える。今まではゆるりとした屋敷で用意された部屋着だったが冒険用の外着に着替える。


コンコン。ノックがした。ミラーカだ。


「はい。ミラー……」

俺はそう言いながらドアを開けるとそこにはアレクサンドラが上目遣いでこちらを見ていた。


「アレク……」

「入るね。クロード」

と言ってアレクサンドラは俺の部屋に入ってくる。そしてガチャリと扉を閉めた。部屋にふたりきりになる俺たち。


「やっとふたりきりになれたね」

いたずらっぽく微笑んで見上げるアレクサンドラ。


「あぁ……」


「クロード。ぎゅーーーってして」

とアレクサンドラは両手を広げて甘えてくる。


俺はそれに応えてアレクサンドラを抱きしめた。


アレクサンドラも俺の体を抱きしめてくる。


「このクロードの体温も私だけのものだからね」

アレクサンドラが耳元で囁いた。ズキリと胸が痛んだ。俺はアレクサンドラに隠し事をしている。今からミラーカと一緒に夜の街に出るということを。別にやましくもないことだが、自分がアレクサンドラに秘密を隠していることが妙に俺の胸を痛めつけた。


「クロードお風呂入った?」


「入ったよ」


「大浴場だって聞いてたけど。広かった?」


「あぁ。あれくらいだと何人も入れる」


「じゃあ二人で一緒に入ろうよ」

アレクサンドラがいたずらっぽく笑って俺を見る。


「二人で?」


「うん。だってそんなに広いお風呂に一人って寂しいじゃん。恋人同士なんだから良いでしょ?」

アレクサンドラが俺の首筋を撫でながら言った。刺激が静電気のように全身に走る。


「あぁそうだな……」

熱に浮かされたように俺は答える。


「もーー! クロード!」

アレクサンドラは俺の胸に顔を左右にこすりつける。


「ちゃんと私のこと好きって言ってよ」

とアレクサンドラはすねたように俺を見上げる。


「好きだよ。アレクサンドラ」


「本当?」


「あぁ。本当だ。アレクサンドラは?」


「んーー……ちょっと恥ずかしくて言えない」

と俺の胸にポンっと額をつけるアレクサンドラ。


「なんでだよ。ちゃんと言ってよ」

俺はアレクサンドラの髪を撫でる。


「だって恥ずかしいから……」

唇に人差し指を当てて赤面するアレクサンドラ。


「言ってくれないと、俺ももう二度と好きって言わないよ」

俺は意地悪っぽく言う。


「えーー!! ヤダ! ヤダ! ヤダ!」

と言って涙目で首を横に振るアレクサンドラ。その子供みたいな仕草に俺は思わずドキリとする。あぁ俺はやっぱりアレクサンドラが好きなんだ。全ての行動が愛おしい。


「ほら言えるでしょ?」

俺は優しく言う。


「ヤダ! クロードが先に言って!」

まだ駄々をこねるアレクサンドラ。


「さっき言ったじゃん。でもまぁ良いか。好きだよ。アレクサンドラ」

俺はアレクサンドラの目を見つめて言う。


「どれくらい好き?」

アレクサンドラは約束を破り聞いてくる。


「アレクサンドラの番だぞ? ちょっと! 俺がいつまで……」

と言うとアレクサンドラはキャハハと笑いだした。


アレクサンドラが俺の目を見つめて言った。


「クロード。だい……」


コンコンコン。ノックが鳴らされる。


「!」


思わぬ客にハッっとドアの方を見る俺たち。あっ! そう言えばミラーカと約束してたんだ。で、ミラーカがオレの部屋にくるって。


「はーーい」

ノックに反応してそっちの方に向かうアレクサンドラ。

! 俺は思わずアレクサンドラの手を取る。


「え? どうしたの? クロード」

不思議そうに俺の方を見るアレクサンドラ。


「いや、あの……もう少しイチャイチャしてたいって思って」

俺は挙動不審になる。


「どうしたの? クロード。目が泳いでるよ」

アレクサンドラが俺に尋ねる。


「いやぁ……あの」

内心バクバクだ。しかしなぜ俺はアレクサンドラを引き止めたのか。別に俺たちが好きあってるってミラーカも知ってるハズなのに。


「えいっ!」

ドアを開けようとするアレクサンドラ。


「ちょっとちょっと!」

俺はアレクサンドラを引き止め……そのままギュッっと抱きしめた。


「クロード……」

ウットリとしたアレクサンドラの声。

「ずっとそばにいてくれ」

俺はアレクサンドラの耳元で囁く。


「うん。クロード大好き。ずっと一緒だよ」

アレクサンドラも俺にそう言った。


するのカチャリの扉が開かれた。


「!」

ミラーカが抱きしめ合っている俺たちを見てビックリしている。だが、アレクサンドラは俺の方を見てミラーカに気づいて居なかった。


俺はミラーカと目が合うとアイコンタクトをして首を横に振った。するとミラーカはそっと扉をしめた。


「クロード……」

アレクサンドラは俺の胸の中でウットリと呟く。



「それじゃあ」

とアレクサンドラは俺に手を振り部屋から出ていった。ミラーカとの約束がある。俺はミラーカの部屋まで向かった。


コンコン。誰もいない。俺は屋敷を探すことにした。


居間にミラーカが座っていた。


「ミラーカ。おまたせ」


「あっ……うん。行こうか」


ミラーカと俺は連れ添って首長の屋敷を出た。なんだか気まずい空気が流れる。


「仲いいんだな」

ミラーカがボソリと呟いた。


「あぁ。まぁ」


するとミラーカが俺の左腕に腕を絡ませてきた。俺の左手の指とミラーカの指が絡み合う。丁度恋人繋ぎのような形になる。


「こんなことだったらもう少し早くボクのモノにしておけば良かったな」

ミラーカがボソリを呟く。


「えっ? それは……」

どういう意味だろう。


「まぁいいさ。今からボクと一緒にデートしてくれるんだろう?」

ミラーカが俺を見上げる。


ん? デート? 一緒に買い物行くだけなんだが……あっ! デートじゃんこれ! デートじゃん!


「あはは……」

俺はとぼけたように笑って頬を掻く。


「まぁしっかりとエスコートしてくれ。頼んだぞ。クロード」


そう言うとミラーカは俺に体を預けてもたれかかって来た。押し付けられるミラーカの体重。俺はその重さとぬくもりを体で感じながら夜の街に出かけた。



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