クロード。お姫様抱っこで運んで欲しい


「クロエ大丈夫?」

アレクサンドラはクロエのところに駆け寄った。


「大丈夫です」

倒れていたクロエが立ち上がろうとする。


「だいぶお疲れのようですね。部下に屋敷まで運ばせます」

ここの首長バー・シェキが俺たちに近づき言った。


「ありがとうございます」

俺はお礼をする。


「皆様も長旅でお疲れでしょう。我が屋敷にておもてなしします」

バー・シェキは手を叩いた。すると屋敷の召使いたちがクロエを運ぼうとする。が、召使いは女性が多いためクロエをなかなか運べず、まごついている。


「俺が運ぶよ」

と言うとクロエは

「いけません!」

とハッとしたように言う。


「大丈夫だよ。軽いもんだ。俺に任せてくれ」

俺はクロエをお姫様抱っこで持ち上げる。

「申し訳ありません……こんな……こんな」

クロエの恥ずかしそうな声が聞こえる。


「構わないよ。行こう」

「いいなー。クロエ」

アレクサンドラの拗ねたような声が聞こえる。


俺は首長の家の離れにある屋敷にクロエを運んだ。


その屋敷はなんというか南国チックで壁や柱床などに多く木材が使われている屋敷だった。


俺はクロエをベッドに寝かせた。

「なんというか……クロード様に運んで頂いて……本当に申し訳ありません」

クロエは顔を赤らめている。

「クロエの体調が大事なんだ。気にするな」

「クロード様……」


ミラーカは俺たちのその様子を見て下を向き落ち込んでいた。


するとリザードマンの医師らしき人が現れた。すぐにクロエの診察を始めた。医師はクロエに問診をする。


「体の痺れは?」

「ありません」

「体がフワフワした感じは?」

「ベッドで寝てもまだフワフワした感じがあります」


問診を続ける医師。


「おそらく熱中症でしょう。こまめな水分補給とナジャバの果実を与えてください」

医師は診断結果を俺たちに伝えた。


「ナジャバの果実?」


「ナジャバの果実とはここの名産品です。大変栄養があります」

とバー・シェキの女召使いが俺たちに教えてくれた。


「熱が収まるまで休ませてください。栄養のある食事と水分補給が一番の薬です。それでは」

リザードマンの医師は部屋から出ていった。


「クロエ様は大事なお客様です。私めが付きっきりで看病しますので、皆様もどうかおくつろぎください」

女召使いがニコリと笑いかける。


「アレクサンドラ様……申し訳ございません。私のせいでここに足止めになってしまって」

クロエが弱々しい声を上げた。


「クロエ! ここでゆっくり休んで。無理させてゴメンね。私こそ気づかなくてごめん」

アレクサンドラがクロエに言った。


「謝らなくていいよ。クロエ。色々大変だったんだね。気苦労もあったんだろう。ゆっくり休んで」

俺はクロエに微笑みかける。


「クロード様。アレクサンドラ様。ありがとうございます。皆様もゆっくり休んでください」

クロエが俺たちを見つめて言う。


俺たちはクロエの部屋を出た。そして廊下を歩き出す。


「熱中症かー。そっかずっと馬車の御者をやってもらってたもんね」

アレクサンドラが歩きながら言う。


「日中太陽がキツかったもんな。クロエに色々押し付けてたってのもあるのかもな」

俺はアレクサンドラに言った。


「ねぇ! クロードかわりばんこで御者やろうよ。モントレイユの街に着くまで!」

アレクサンドラがバッと俺の前に出て俺を見つめる。


「そうだな。それもいいかもしれないな」

俺はアレクサンドラに微笑みかけた。


「私は御者なんて出来ませんよ。日差しは苦手なので」

ミラーカがボソリと呟いた。


「まぁそれはこれから話し合うか」

俺は言った。


「お客様。お風呂の準備が出来ております」

召使いが俺に話しかける。


「あぁ入るよ」

俺は答えた。


「ふぅ」

俺は風呂に入った。こんな砂漠だというのに大浴場が備えられていた。これだけでこの屋敷の首長の権力がいかほどか分かる。実は俺はこうやって足を伸ばして風呂に入るのが初めてだった。今までは桶にお湯を入れてそこで体を洗ったりしていた。使う水も少なく最小限で洗っていたが……それが当たり前だっただけにこれだけのお湯を使えるこの屋敷に驚かされるばかりだ。


しかもこんな広い浴室を独り占めできるなんて。俺は伸びをした。あぁー癒やされる。


するとガチャリと扉が開けられ誰が入ってきた。俺はそちらの方を振り返る。


「!」

ミラーカ! それは自分の胸や局部をタオルで隠したヴァンパイアロードのミラーカだった。


「クロード先に入っていたのか」

ミラーカはそう言ってかけ湯をして湯船に入った。クロエがお湯に入ったためかさざ波のようにお湯の波紋がこっちに届く。


そう言えばお風呂は一つしかなかったな。流石にこのレベルの入浴施設を男女別では作れなかったのだろう。ただ、ミラーカとの距離は離れているので湯けむりで見えにくいが。しかし、なんでこうミラーカは俺と一緒に風呂に入ることが多いのだろう。


「ミラーカ。馬車に揺られて疲れたか?」

俺は下をうつむきながら言った。


「ていうか基本的にボクは夜行性なんですよね。昼間歩いている時点でだいぶつらいんですよ。本当は」

ミラーカの声が水音に混じり聞こえた。


バチャバチャバチャとお湯の流れる音が二人の間に響く。俺たちは無言になった。気まずい。なにか話さないと。


「で、ナジャバの実って一体何だったんですかね」

ミラーカがボソリと呟く。


「えっ? あのお医者さんが言ってた実のこと?」


「えぇ。なぜか妙に気になって」

と言いながらミラーカは湯船から出る。俺はミラーカと話すためにミラーカの方をチラ見していたので思わず目をそらした。


すると

「ぱたり」

と言ってミラーカは浴室の床に倒れた。え? 今のなんだ。ミラーカが自分の口で「ぱたり」と言ったが……


「クロード。申し訳ない。ボクもお姫様抱っこで運んでくれないか?」

ミラーカが言う。


「えっ? ミラーカそんなに湯船に浸かって無かったのに」

俺はミラーカの方を見ないようにして答えた。


「実はボクも昼間体力を使いすぎたんだ。それとどうも湯船に浸かるのが苦手なようだ。クロード緊急事態だ。頼む。歩けそうにない」

ミラーカが床に寝そべりながら言う。


いや……それは流石に……ミラーカは俺よりはるか年上のヴァンパイアロードとはいえ見た目は少女の女の子なのに……


「クロード頼む! 床が冷たくて凍えそうだ!」

ミラーカが叫んだ。


「……! 分かった」


俺は脱衣場に行きバスタオルを取った。そしてミラーカのところに戻りバスタオルを体にかける。


「クロード……早くしてくれ!」

ミラーカは懇願した。


「分かった。今持ち上げるからな」

俺はミラーカの裸を見ないようにミラーカを持ち上げる。


「クロード……」

ミラーカの手俺の首に絡みついた。俺はお姫様抱っこの形でミラーカを持ち上げようとした……その瞬間!


「痛っ!」

首筋に痛みが走る。


「あっ。ごめん。つい噛んじゃった」

ミラーカが口に手を当てて申し訳無さそうに驚いている。


「はぁああああああああ!!!! 何してんだよ! ミラーカ! 俺までヴァンパイアになるだろうが!!!!」

俺はミラーカに叫ぶ。するとミラーカはケラケラ笑った。


「いや、済まない。抱かせてやるから勘弁してくれ」

ミラーカが普通のテンションで言った。


「はぁ! なにを言ってるんだ!! からかうのも大概にしてくれ!」

俺はそう言うとミラーカをお姫様抱っこしながら運ぶ。


「耳まで真っ赤にして可愛いなぁ」

ミラーカが可笑しそうに言う。ミラーカはいつもそうだ。なにが本気かおふざけなのか分からない。


俺はミラーカをベッドに降ろす。


「今水を持ってきてやるからな」

俺はそう言って水を食堂より汲んできてミラーカに渡した。


「口移しで飲ませてくれるのか? ひょっとして」

ミラーカがベッドに寝ながらまたからかってくる。ミラーカの体はバスタオル一枚で隠れているのみだった。


「自分で飲めるだろ?」

俺は言うとミラーカの体をゆっくりと起こし水を飲ませた。


「ふぅ……クロードの血が飲みたいなぁ」

ミラーカはベッドに倒れながら言った。


「あのさぁ……」


「ん! じゃあ俺はこれで行くから」

俺は立ち去ろうとした。


「えっ? ちょっとまってくれ! 本当にこれで終わりなのか?」

ミラーカがガバッっと起き上がり俺を見つめる。バスタオルはもう剥がれ落ちていた。


「! だから……」

俺はミラーカを見たがすぐに目をそらした。……!! ミラーカの裸を見てしまった。俺は目をそらす。


「ベッドに運んだ。水を飲ませた。俺にはもうなにも出来ないよ」

このままじゃミラーカと変な関係になってしまう。俺はミラーカに背を向けて立ち去ろうとした。

「ちょっと待って! クロード!」

ミラーカが叫ぶ。


「ちょっとボクと一緒に行ってほしいところがあるんだ」

ミラーカのか細い声が俺を引き止めた。



少しでも面白かったら


フォロー



ハート


お願いします!


モチベーションになりまふ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る