せんせーしあわせになってね

「ベアトリス。このアジャストメントソードの仕組みを知っているか?」

俺は聞いた。


「知ってるって! 攻撃力を0にするんだろ?」

ベアトリスが言う。


「それは普通の冒険者だけに通用する魔法効果だよ。悪いが俺レベルになると」

俺は魔王術を使い左手で机を召喚する。


パキィッ! 目の前に召喚される立派は木の机。俺はそこにアジャストメントソードを振り下ろす! するとバゴーーーン!!!


机は真っ二つに割れた。それを見て青ざめるベアトリス。


「えっ? 攻撃力を全て消してくれるんじゃ……」

ベアトリスが言う。


「消してくれるのは並の冒険者の攻撃だ。一流の冒険者には通用しない」

と言うと、俺はゆっくりとベアトリスの方に行く。


「ひっ!」

俺はゆっくりと近づく。ベアトリスは恐怖に怯えている。


「やめっ……」

腰が引けたようになるベアトリス。自分の頭を手で防ごうとしている。


俺はアジャストメントソードを振り下ろした!


ポコン。軽くベアトリスの頭にヒットするアジャストメントソード。もちろん。殺さないように軽めにだ。


すると

「うわあああああああ!!!!」

とベアトリスは泣き出した。殺されると思ったのだろう。


すると園長のアルベルトがやってきた。

「どうも申し訳ございません! 本当に失礼しました!」

謝るアルベルト。


「うわあああああ!!!!」

泣くベアトリス。


「なんてみっともないんだ。自ら騎士の勝負を仕掛けて置きながら最後は泣いて逃げようとするのか!」

アルベルトは怒る。


「ばっかじゃねーの?」

「なんでお前が泣いてんだよ」

「あぁ! もうウッザ」

と自分より歳下の子供たちに散々に文句を言われるベアトリス。


「ベアトリス! ちゃんとクロードさんに謝りなさい!」

アルベルトは言う。


「うわああああああ!!!」

と言いながらベアトリスは俺に背を向けて逃げ出した。


一体なんだったんだ。流石に驚かせすぎたか。


「本当に申し訳ありません。あの子はいつもあぁなんです。自分が追い詰められると泣き出して誤魔化そうとする。さっきのはワザと泣いてクロード様を悪者にしようとしてたのです。なんと卑怯な人間でしょう。それで自分の否を一切認めないのです。本当に困ってまして」

アルベルトはため息をつく。


「こちらこそ。ちょっと驚かせすぎましたか?」

俺は言った。


「いえ。あれくらいが丁度いいです。ベアトリスにお灸をすえて下さってありがとうございました」

アルベルトが言う。


「お姫様! クロード様! こんなところにいらっしゃったのですね!」

アレクサンドラの侍女であるクロエの声だ。


「もうよろしいですか? 帰りますよ。お二人とも」

クロエがそう言う。


「ではここらへんで」

俺はアルベルトに言う

「えぇ」

アルベルトが言った。


俺とアレクサンドラとミラーカは帰ることにした。


「じゃあ! センセーばいばーーい!」

「クロードせんせーーまたきてねーー!!」

「ありがとう! 魔法を教えてくれて!」

コレットが叫ぶ。


「じゃあみんな元気で! 君たちなら立派な魔法使いになれるよ!」

俺は言った。


アルベルトも微笑んで見守っていた。


「じゃあみんな。元気で」

俺が別れを告げると俺たちの乗った馬車は走り出した。手を振る子供たち。段々距離を開ける馬車。するとコレットが俺たちの乗る馬車を追いかけてきた。

「せんせーー!!」

叫ぶコレット。


「危ないぞ! コレット! 走ってる馬車に近づくな!」

俺は言う。コレットは構わず俺のところに近づいてくる。


「せんせーーこれ!」

と言って荷台に乗っていた俺に何かを投げた。それは折り畳まれた手紙のようだった。


それを受け取る俺。


「じゃあな! コレット! もうそろそろ危ないぞ!」

俺は言う。

「せんせーーまたきてね!」

コレットはそう言って立ち止まった。コレットは、はぁ……はぁ……と息を切らせている。


そして

「せんせーー!!」

と大きな声で最後に俺を呼んだ。


「じゃあな! コレット! 元気でな!」

俺は立ち上がり大きく手を振った。やがて見えなくなるコレット。


「随分な懐かれようですね。クロード様」

クロエが言う。


「あぁ。クロエも大変だっただろう。よく俺たちの居場所が分かったな」

俺が言う。


「それはもう……メチャクチャ大変でしたけどね」

クロエが言う。


「ねぇ! クロード。それ何を渡されたの?」

アレクサンドラが聞く。


「手紙みたい」

俺は折り畳まれた紙を拡げた。


そこには

クロードせんせー。けっこんするならしあわせになってください 


と書かれていた。それを見て笑い合うアレクサンドラと俺。


「えっ? なんですか? それは」

ミラーカが言う。


「結婚するなら幸せになってくれってさ」

俺は笑って言った。


「クロード楽しそうでしたね。あの学校で」


ミラーカが言う。ただ、俺は少しだけ気がかりだった。あのベアトリスという女の子。大丈夫だろうか。俺はふとあの子のことを思い出した。


だが俺は

「そうだな。子供たちから一杯元気を貰ったよ」

と言って笑った。



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