先生!私と戦ってください!
「私と勝負してくれますか? クロードさん」
決意を秘めた目でベアトリスは俺を睨んだ。なんで俺が睨まれているんだ。ベアトリスはこのアルケイン魔法学校の18歳くらいの女子生徒だ。
「せんせー。ベアトリスは相手にしないほうがいいよ」
「ベアは構ってほしいだけだよね」
と小さい子が口々に言う。ベアトリスはそれを聞くとチィッ! っと舌打ちをした。
するとその舌打ちを聞いて黙る子供たち。
「クロードさん。剣は使えますか? レベル6の冒険者の方なら使えるハズですよね」
ベアトリスは言う。レベル6なら剣は使えるって完全に意味不明だが……まぁ嗜む程度には使えた。
「てか、なんで勝負するの? 勝負しなくても教えられるよ?」
俺は聞いた。
「っっ!! いいから勝負してください!」
と俺に怒鳴るベアトリス。
いやいやこれはとんだ問題児のようだ。
「アルベルト先生。練習用のアジャストメントソードをお借りしますね」
と言ってベアトリスは倉庫の方に行った。
「あの……ベアトリス。お客様だよ」
アルベルトは苦笑いしている。
「どうしたんですか? あの子」
俺は聞いた。
「クロードさんが来てくださったら子供たちの刺激になると思ったのです。ですが、どうやら刺激が強すぎたようで」
アルベルトは困ったように笑う。って言われてもな。
ベアトリスは倉庫からアジャストメントソードを持ってきた。
アジャストメントソードとはいわゆる練習用の剣の別称だ。魔法効果が剣に付与されていてその効果は剣の攻撃力を0にするというものだった。だからいくら強く叩いても相手にダメージが入らない。練習には最適な剣だった。剣と言ってもアジャストメントソードは木刀が多い。あと普通の木刀と間違えないように緑色や水色などの色付けがしてあるのが普通だ。
「ではクロードさん」
ベアトリスは俺に水色のアジャストメントソードを手渡した。ベアトリスは緑色だ。
「えっ? ベアトリスがせんせーと戦うって?」
「うそっ!」
「なんで戦うの?」
「せんせーの方を応援するぞ!」
子供たちの声が聞こえる。いや俺は一度も戦うなんて言ってないんだが。
「せんせーー!!! 頑張れーー!!」
子供たちが声を一つに合わせて応援する。しかし同じ学校なのに応援されないってどれだけ
「ベアトリス。やめよう。戦う意味が分からない」
俺はアジャストメントソードを地面に置いた。
「あなたになくても……私にあるんだよ!!」
と言いながらベアトリスはいきなり俺を切りつけてきた。横薙ぎに俺の顔めがけて剣が迫る!
「!」
俺は反射的に後ろに飛び退き避けた!!
「おおおおおおおおおおお!!!!」
と叫ぶ子供たち。危なかった。今顔面スレスレだったぞ。
「うわぁぁぁ!!!!」
と言いながら俺に迫ってくるベアトリス。
俺はゾーンに入った。ゾーンというのは俺が勝手にそう呼んでいる過集中状態のことだ。この状態に入ると周りの動きがゆっくりに動く。
俺はひょい。ひょいとベアトリスの攻撃を避ける。
「うわあああああ!!!」
っ!
「あっ!」
「!!」
駄目だ! 目に何かが入った? ベアトリスが砂を使って目つぶしをしたのか? 目が痛い! しかし俺はなんとか目を開ける!
するとベアトリスの蹴りが俺の顔に迫っていた! えっ? これはアジャストメントソードを使った練習試合じゃないのかよ……
ボコン! 俺の顔にベアトリスの蹴りが当たる!
「クロードさん!」
アルベルトの声がする。
一瞬吹き飛ばされて、すぐさま体制を整える俺。
え? 俺は切れそうになった。これは練習試合のハズ。打撃は攻撃力0のアジャストメントソードのみだ。怪我させないための剣を使うんだから怪我させたら駄目なのだ。だからベアトリスの攻撃は明らかにルール違反だった。
俺は親切心で、そこまで望むならと試合に応じたがこんな仕打ちをされるとは……
「よしっ! 当たった!」
ベアトリスはガッツポーズをする。
「おい! どういうことだよ。ベアトリス」
俺は怒気をはらんでいった。俺は顔についていた泥を拭った。
「これは真剣勝負だ! だからなんでもありだ!」
とベアトリスは言う。
「ベアトリス! もうやめなさい! お前どれだけ失礼なことをしてるのか分かってるのか!」
アルベルトが怒鳴る。
「そうだよ! ベアひきょーだよ!」
「せんせー。大丈夫?」
子供たちが俺の心配をしている。
ブチギレていた俺はアルベルトを手で制した。
「ではベアトリス。俺も本気で行っていいんだな。真剣勝負なら死んでも文句言うなよ」
俺は言った。
「あぁ! もちろんだ!」
ベアトリスは言った。俺は自分の体から殺気を放つ。本気で殺す。その覚悟だった。それくらい俺はキレていた。
俺はアジャストメントソードを拾い上げる。
◇
まだまだ続きます。
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