ざまぁ展開⑥ 過去の罪の精算
「はい。こちらモントレイユ行の船ですよーー。運賃は1000クローネになります」
船着き場の係員がそう言う。シドは自分の修道服を気にしながら神父から渡された金を確認した。1万クローネある。これでモントレイユに行ける。
「あれ? あなたシドくん」
女性から声がかかる。シドはふと横を見るとボロボロの服を着た女性がこっちを見ている。腕に赤ちゃんを抱いている。
なんだこの乞食みたいなボロボロの服の女は……
シドは目をそらす。
「シドくんだよね。覚えてる。リュカのこと」
とそのボロボロの服の女から声がかかる。
「!」
リュカ? あの俺が子供の頃イジメて自殺させた。あのリュカ? 俺が生死の境を彷徨っていたときに思い出したあのリュカ?
「私。リュカの母親だよ。修道士になったんだね。シドくん」
恨めしそうな目でシドを見つめるリュカの母親。
シドは生死の境を彷徨ったときに誓った。今までの人生を償うと。とくにリュカ。あいつには本当に申し訳ないことをしたと。これからはあいつのために生きると。罪を精算する人生を歩むと。あいつの両親や兄弟に謝ると。
「なんでウチの子供をイジメて殺したあんたが神父なんてやってるの? なんの罪もないあたしの息子を殺して! あたしも日々神に祈りを捧げてきたのに! なんであれだけのことをしたあんたが神の使いで、あたしがこんなに見下されボロボロの格好をしてるの? ねぇ! あんた修道士になったんでしょ? 教えてよ!」
リュカの母親が俺に恨みをぶつけてくる。
「そんなこと……」
知るわけがない。俺に言われても困るシドはそう思った。
「ねぇ。シドさん。お願い! あなたに人の心があるから。少しでもリュカのことが申し訳ないと思っているのなら、お金を恵んでちょうだい!」
リュカの母親は懇願する。
そして腕に抱いている顔色の悪そうな赤ん坊をシドに見せて言った。
「この子私の赤ちゃんなの。お願いこの子病気で死にそうなの! 教会で今すぐ見てもらわないといけないの! お願いシドさん! 私の赤ちゃんを救ってください! お願いします!」
リュカの母親は赤ちゃんを抱きしめながら俺にひざまずいて懇願する。
「救ってって……なにを?」
シドが言う。
「お願いです! 教会の治療費が一万クローネかかるんです! お願いです。シドさん。お願いします!」
母親はそう言って必死に俺にしがみつく。赤ん坊の無垢な瞳が俺を捉える。
俺は神父の言葉を思い出していた。この旅は贖罪の旅だと。罪を精算する旅だと。だが1万クローネ。これをこの親子に渡したら俺は船に乗れない。俺はほぼ間違いなく10日後に死ぬ。モントレイユは遠い。この船に乗らないと……
カランカランカラン
「まもなく出港します! モントレイユ行きの船にお乗りのお客様はお急ぎください!」
船着き場の係員はベルを鳴らしながらそう言う。
駄目だ。時間がない! このままじゃ乗り遅れる!
「お願いです! シドさん! どうかこの赤ちゃんを救ってください」
リュカの母親が必死に懇願する。
俺は
ボソっと
「なにやってんだよ。お前。うぜぇなぁ」
と答えた。リュカの母親はえっ? っといった表情で俺を見る。
「てか意味不明なんだよ。そうやって貧乏人なのにガキ作りやがって! いつもいつもそうやって人の同情を引こうとしてんじゃねぇよ!」
シドはリュカの母親に向かって叫んだ。リュカの母親は呆然とシドを見ている。
「その服装もわざとだろう! わざわざ服をみすぼらしく汚しやがって! てかお前の息子のリュカもそうだったな。自殺なんてしやがって。被害者は俺の方なんだよ! あれで俺が悪者みたいになったじゃねぇか! それで俺がイジメられて自殺したらどうすんだよ! お前のガキが死んで俺がイジメられるのは良いのかよ!」
シドは感情が爆発したかのように言う。
「俺はお前らより何倍も努力してんだよ! 社会の役に立ってるのは俺の方なんだよ! 貧乏人のガキ一人か二人見捨てたり、イジメて自殺に追い込んでも神様だって許してくれるわ!」
リュカの母親は泣いている。そしてその赤ん坊も俺のあまりの剣幕に
「ああああああ!!!」
と泣いていた。
「ほら、それな! 泣いてこっちを悪者にする! お前らってすぐそれだよな。自己責任だろ! 貧乏になったお前らが悪い! 俺は悪くない! 社会に貢献してない奴が文句言ってんじゃねぇよ! 自分の責任を棚に上げて俺のせいにするんじゃねぇ!」
俺は怒鳴った。
「あ……あなたには……罪の意識というものがないんですか」
母親が言う。
「あるよ。リュカには申し訳ないと思ってるよ。じゃあ謝るよ。ゴメンね。リュカくん。イジメて。はいっ! これで終わり! これで良いだろ?」
シドは言う
リュカの母親は泣いている。
すると首につけた円環から
「悪事を検知しました。まもなく爆発します」
と声が聞こえた。すると円環からピッ……ピッ……と音が聞こえる。
あっ……しまった。忘れていた……これは悪事を行うと爆発する……
ピッ……ピッ……
◇
まだまだざまぁ展開続きます!
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