エンディング 街の人々との別れ

俺はエドガーに言う。

「エドガー……あの……俺見たんだ。申し訳ないけど鍋に入った金じゃ到底足りないんだ」


「ん? だから! それはお前が気にすることじゃねーだろ? 俺とミランダで金はなんとかする。お前も聞いてただろ。これはお前の金だろ? 早く取りに来い」

エドガーは言う。


「違うって! それはバルドウィンを倒した賞金で、ちゃんとしたお金だよ。気にせず受け取って……」


「そういうこと言ってるんじゃねーよ。何いってんだお前」

エドガーは言った。


「……」


「クロードお前。この街から出ていくつもりか?」


「……」

もうバレてる。なんと言えば良いのか……正直に俺は指名手配されてるって言ったほうがいいのか。


黙って受け取ってくれたらいいのに……なんで止めるんだよ。


「クロード。お前さ。優しさを履き違えんなよ」

エドガーが言った。


「えっ?」


「こんな大金は貰えない。お前だってそんな金持ちじゃねーだろ。こんなのはただの自己犠牲だ。つまんねーことしてんじゃねぇよ。俺がこれを黙って受け取って、それでお前が野垂れ死んだら、それで俺らが喜ぶとでも思ってんのか? なわけねーだろ。舐めてんのか」

エドガーは怒っている。


俺は下をうつむく。そしてエドガーの思いやりに泣きそうになる。もう事実を話すしかなさそうだ。


「エドガー。話したいことがあるんだ」


俺とエドガーは他の人に聞かれない場所まで行った。そこで俺はエドガーに全てを話した。


俺がガヴォイセンに殺されかけたことも。ガヴォイセンと国王の密約のことも。俺がいわれなき罪で指名手配になっていることも。俺に秘められた能力のことも。全部話した。


「そんなことが……酷え話だな。まったく、どいつもこいつも……」

エドガーはショックを受けているようだ。


「だったらなおのこと、逃亡資金として金が必要なんじゃねーのか?」

エドガーは俺に言った。


「いや、金を持っていると逆に怪しまれるんだ。特に金貨なんて、ボロボロの格好で使っていたらそれだけで怪しまれる。交換も中々出来ないし……実は使い道がないんだ」

俺は言う。

「んーーーー」

エドガーは頭を悩ませる。


「よしっ! この店の地下でとりあえずお前を匿おう。それで俺らがお前に食事を……」

「エドガー! 分かってくれ。エドガーに迷惑をかけたくないんだ。俺のためにミランダやエドガーがいわれもない罪を着せられるのが一番嫌なんだ」

「お前……」


「だから金は受け取ってくれ。俺はこのままこの街を出る。二度と戻らない」


「そんな……お前ミランダにそのこと話したのか?」

エドガーが言う。


「話してない。言いたくないんだ」

俺は言った。


「なんでだよ」


「ミランダさんの悲しい顔を見たくない」


「んーーーー」

エドガーは苦しそうだ。


「ミランダにはワシらから話す。それでいいじゃろ?」

「!」

とギルロスだった。


「すまんの。途中から話を聞こえておってのう……クロード。もし逃げるのなら南のモントレイユの街まで行くがよい。あそこには中央政権の支配が及びにくい土地じゃからのう。潜伏するには最適じゃ」

ギルロスが言う。


「ありがとうございます。ギルロスさん」


「クロード……お前……」

と言ってエドガーは泣き出した。一体どうしたんだ。


「んっ……は……お前がこの街に来てくれて良かったよ。お前のお陰で俺とミランダの運命は確実に変わった。もちろんいい方向にな。黒龍団に虐げられていた運命から、自分達の力で運命を切り開こうと思えた。お前のお陰だ」

エドガーは言う。


「ワシからも感謝する。黒龍団と立ち向かう力を与えてくれたのは間違いなくお前じゃ」

ギルロスは言った。


「クロード!」

エドガーさんは俺を抱きしめてきた。

「絶対生きろよ! どんなことがあってもな。それで必ず帰ってこい。大繁盛したこの店を見せてやる!」

エドガーは泣いていた。


俺はエドガーから離れるとすぐさまギルロスが俺を抱きしめてきた。


「クロード! お前はワシの息子じゃ。必ず生き延びてくれ!」


と言ってギルロスは俺を抱きしめた。


「じゃあそろそろ行くよ。もうすぐ夜が開ける」

俺は言った。


「クロード。お前が開けたあの壁の大穴は別の形で残すつもりだ。クロード。生きて英雄になれ。そしたらお前が開けたあの大穴も英雄クロードが開けた大穴になる。それで客引き出来るからな。だから英雄になって俺を儲けさせてくれ。つまんねぇ死に方するなよ」

エドガーは言う。


俺はクスッっと笑った。


「分かったよ」


「面白いこというのお。なるほど。これからはこの大盾亭は英雄クロードウィッグ様の大盾と英雄クロードの開けた大穴が守り神になるということじゃな」

ギルロスがそう言うと俺たち三人は笑いあった。


そして俺は言った。

「行くよ」


俺は店から出て歩き出した。しばらく歩いて後ろを振り返る。そして見る。もう二度と訪れないかも知れない街を。


そしてそのまま振り返らずに歩き続けた。


「クロード様! どこにいかれるんですか?」

背後から声がかかる。ギクっとする俺。


背後を振り返るとそこにはアレクサンドラが怒った顔で立っていた。


「アレクサンドラ……」


「そうだぞ。格好をつけすぎだぞ。クロード。キミが指名手配犯だってことはボクから姫様に話してある。それくらい予想がつくだろ」

ミラーカが言う。


「私には分かります。クロード様は姫様に気を使われたのです。大変不器用だと思いますが」


「あーーもう! クロード! 気の使い方がおかしいって! 私朝起きたらクロードが居なかったんだよ! 寂しかったんだから! どうしてくれんよの! もう!」

アレクサンドラは言う。


「ご、ごめん。色々と……」


「それに一人で街から出ていくなんて寂しい真似すんな! 全然格好よくないからね! それ」

アレクサンドラは俺に詰め寄る。


「あ……はは……ごめん」

俺は苦笑いしながら謝る。


「辛いことを一人で抱え込もうとすんな! 私たち結婚するんでしょ? だったら二人で抱えようよ! 辛いこと楽しいことも一緒の時間を共有するのが夫婦でしょ? だから! これから一人で寂しい顔をするのは絶対に許さないからね!」

アレクサンドラは言った。


「うん。そうだね……」

俺は応える。


「なるほど。ではイチャイチャもこれくらいにして行きましょう」

ミラーカはそう言ってスタスタ歩き出した。


「ミラーカ?」

アレクサンドラは突っ込む。


「良いもの見せてもらいました。いやぁ若いってなんでもありですね。もうそろそろ良いですか? お嬢様」

とクロエがそう言ってスタスタと歩き出した。


「あっ……みんな……」

アレクサンドラが慌てている。


「行こうか。アレクサンドラ」

俺はアレクサンドラに手を差し伸べた。


するとアレクサンドラは顔を赤くしながら

「ん……はい!」

と俺の手を取った。



次回からシド編。ざまぁ編に行きます。


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