宴のあと 夜が明ける前にここから逃げ出そう


多くの人が鍋にお金を入れていく! どんどん……どんどん。するとあれだけデカかった鍋にお金が集まり鍋がパンパンになった。


ギルロスはよろけながらミランダのそばに金をドンッっと置いた。

「これでどうじゃ! 大分足しになったじゃろ!」

ギルロスは言う。


「ありがとう! ギルロスさん!」

ミランダはギルロスを抱きしめる。


「ありがとう! ギルロスさん」

エドガーもギルロスを抱きしめた。三人とも泣いている。その光景を見て俺もつい貰い泣きをしてしまう。


「さぁ! みんな! 宴の続きじゃ! こんなめでたい日はないぞ! 今日この日! 大盾亭は復活する! その最初の日じゃ!」

とギルロスが言うと


「うおおおおおおおおお!!!!」

と観客から声が上がった。


それを抱きしめ合いながら涙目で見るエドガーとミランダ。



そこからまた盛り上がる酒宴! まだ飲み足りないのかと思うぐらいグイグイ飲む人々。


「なぁ。クロード。これから行くあてはあるのか?」

エドガーが俺に聞いてきた。ギクリと俺はする。


「クロード。お金ないんでしょ? だったらこのお店手伝ってよ! いつまでもここに居ていいから」

ミランダはそう言って俺に微笑みかける。


「ありがとうございます」

俺はミランダに微笑む。だが、俺はもうすぐこの街を出ないといけなかった。夜明け前までに

。夜明けになると俺の手配書が貼り出されて俺が凶悪犯だとみんなにバレる。まぁバレると言ってもでっち上げられた罪だが。だが、それを説明しても恐らく分かってくれないだろう。


エドガーもミランダも善良な市民だからだ。今の司法や国王がどれだけ腐敗してるか知らない。だから手配書が出されたらエドガーたちは手配書に書いてあることを信じるだろう。クロードは国家の敵だと。


ミランダたちに自分が指名手配犯だと言おうか。いや言えない。ミランダやエドガーたちは幸せそうに笑っている。


俺はこの楽しい時間を壊したくない。そう思った。


このミランダとエドガーの幸せそうな表情を壊すようなことは言えなかった。


「明後日からだな! 人を呼んでこの大盾亭を改修しよう! クロードお前も手伝ってくれ! 給料はもちろん払う」

エドガーが言う。

「じゃあ厨房は無事だから私がみんなのお弁当作るね。クロードくん。楽しみにしてて!」

ミランダが俺に微笑みかけながら言う。


俺は思わずミランダのその視線から目をそらした。嘘をついていることがバレると思ったからだ。


「?」

ミランダは不思議そうに俺を眺めていたがやがて酒を飲みエドガーと笑いあった。


明日になれば全てが変わる。エドガーもミランダも俺に騙されていたと怒るだろう。自分たちの直ぐ側に凶悪犯がいたと恐怖するだろう。

だから、キレイな思い出のまま、ここを逃げよう。流石にエドガーやミランダの恐怖と嫌悪に歪んだ顔は見たくない。


そして夜はふけていった。



朝。夜明け前。俺は起き上がる。身体中が痛い。どうやら床で寝ていたようだ。ふと周りを見回すと客たちが酔いつぶれて雑魚寝していた。アレクサンドラが俺にしがみつくように寝ている。俺はそっとアレクサンドラの腕を引き剥がす。俺は寝ているアレクサンドラの頬にそっと手を当てた。


アレクサンドラに伝えるべきか。最後まで答えが出なかった。だが、この子に迷惑をかけるわけにはいかない。


さぁ。出ていかないといけない。俺は立ち上がる。ふと荷物の中にある金のことを思い出した。50万クローネ。バルドウィンを討伐した賞金だ。これだけあったら逃亡生活も楽になるかも知れない。


だが……俺はギルロスが鍋に集めた金を見た。やはり……銅貨ばかりだ。銅貨ばかりが大量に入っていて合わせても二束三文にしかならないだろう。


元々そんな金を持ってない客から集めたものだ。そりゃそうか。俺は改めて店内を見た。穴の空いた壁。割れた窓ガラス。壊されてテーブル。椅子。底の抜けた床。家具も食器もメチャクチャに壊されて、改めて見ると酷い有り様だ。そしてもちろん壁には俺がガイウスをちょっと押してぶち破った大穴も開いていた。


ミランダがなんとかする! と言っていたが到底この金ではなんとも出来ないだろう。


俺は50万クローネから当面の逃亡資金1万クローネほどを手に取り、残り49万クローネをその鍋に入れた。ズシッ! 名残惜しいが仕方ない。それにもし俺が捕まったら持ってる金なんて全部没収だ。だったら本当に必要なところに渡した方がいい。


俺は音を鳴らさないようにそっーーっと、扉まで向かう。大勢の客が雑魚寝していたので踏まないように気をつけながら。


「おい。どこにいくんだ」


背後から声がかかった。あっ! やばっ! 見つかった。俺はゆっくりと背後を振り返る。エドガーだった。エドガーが眠気まなこでこちらを見ている。そしてエドガーはアクビをした。


「ションベンか? そっちじゃないぞ」

エドガーは俺に言う。


「……」

俺はなにも言えない。


「てかお前なにを鍋に……」

エドガーが立ち上がり鍋のところまで行き、俺が置いた金貨の入った革袋を見た。


「えっ! なにこれ。メチャクチャ大金じゃん!」

エドガーが言う。



「俺壁に穴を開けたから……そのお詫びと思って」

俺は振り返り言った。


「いいよ。大金すぎるわ。返す」

エドガーはそう言って俺に革袋を差し出してきた。



次回ラストです。そのままざまぁ編に移行します。

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