大盾亭最後の夜を笑顔で!

俺が椅子に座ると

「音楽スタート!」

と誰かが叫び音楽が鳴り響いてまた店内でダンスが始まった。ええ……なにこれは。俺は店の客が楽しんでいるところを見渡せるみんなの和の中心の席に座らされていた。


踊っている様子を見てミランダが腹を抱えて笑っている。エドガーもミランダを後ろから抱きしめて笑っている。


「おっ……なにこれ」

俺はアレクサンドラに聞いた。

「なんかいつになく派手だけど」

アレクサンドラもなんだかこのハイテンションについていけてないようだ。


「今日はお祭りだ! クロードがバルドウィンを倒してくれたからな。あいつには困ってたんだ。お前はこの店を救ってくれた英雄だ! そしてここにいるお客さんもみんな英雄だ!」

と言いながらエドガーが酒に酔っているのが俺に抱きついてきた。


「エドガーさん」

えっ? エドガーさんこんな人だったっけ。酔って人に抱きつくような人だったっけ?


「そうじゃぞ! 全部お前のおかげじゃ。お前がバルドウィンを倒してくれてワシらの中で何かが変わった。流れが変わったんじゃ! お前みたいなそんなに体の大きくない奴でもバルドウィンを倒せる。あの勝利がワシらに勇気をくれたんじゃ!」

ドワーフのおじさんAが俺の肩をバンバン叩きながら言う。


「みんな! 今日がこのお店最後の日だからどんどん飲んでいって!」

ミランダが叫ぶ。


すると

「おおおおおおおおお!!!」

と常連客から返事があった。


「えっ? お店最後って?」

俺は聞いた。


「この店今日で終わりなんだ。実は資金面でカツカツなんだよ。だから今日は精一杯楽しむ! 精一杯踊る! 精一杯飲んで精一杯吐く! クロードも飲め!」

エドガーはそう言って俺に酒を勧めてきた。ビールジョッキを俺に渡すエドガーさん。


「うっ……はい」

俺は動揺しながらビールジョッキを受け取る。


「辛気臭い顔するな! 伝染るだろ? この店のことは気にすんな。俺もミランダも納得済みだ。俺らが笑ってるのにお前がしょぼくれてどうすんだよ!」

エドガーは言った。


「そうですね。じゃあ!」

俺はビールジョッキを一気飲みする。


「おっいくか?!」

エドガーは俺がノッキきたのを喜ぶ。


「無理すんなよ兄ちゃん」

ドワーフのおじさんAは俺にそう言った。


ゴクゴクゴクゴク……


「いけるか?」

「あともう少し」

俺の周りが少し静かになる。


ゴクゴク

「ぷはぁ!」

俺がビールを一気飲みすると

「うおおおおおおおお!!!!」

と歓声が起きた。


とりあえず騒ぎたいみたいだ。


それからは俺たちはもう酒を飲んで踊ってこの大盾亭最後の夜を楽しんだ。


「えっ? ダンスの相手ミラーカ?」

俺は聞いた。鳴り響く音楽。俺の前にはミラーカが居た。このままではミラーカとダンスを踊ることになる。いや別に嫌じゃないが……ミラーカがこんな激しいテンションの踊りを? 意外だ。


「なんだね。その顔は。せっかくボクが人間のノリに合わせようと努力しているのに。ボクの相手はイヤなのかね」

俺の表情を察したようにミラーカは言う。


「いや。嬉しいよ。ミラーカ。さぁ! 踊ろう!」

俺とミラーカは音楽に合わせて激しいダンスのを踊った。


「どうミラーカ。楽しい?」

俺は聞いた。

「あぁ。なるほどこれが人間のダンスか。これはなかなか面白いな」

ミラーカが言う。


「そうだ! ミランダさん! これ!」

俺はミランダさんに黒龍団のツケの分の金を渡した。

「えっ? なに? これ」

「黒龍団のツケの分。約束したじゃん! ツケを支払わせるって」


「あーーそうだった! そうだった! そっか! でもタイミングが悪かったね。もうお店潰しちゃうから。でもありがとうクロード。約束覚えててくれて」

ミランダさんは笑って金を受け取った。


「本当にお店今日で終わりなの?」

俺は聞いた。

「ん? そうだよ。だからクロードも呑んで! 呑んで!」

ミランダは気丈に振る舞っていた。


俺たちは散々酒を飲んで酒宴も佳境に差し掛かった。だんだん会話の流れがこの白銀の大盾亭の思い出話と女主人であるミランダへの感謝の言葉に変わっていった。


客の一人が話し始める。


「俺が初めてこの店来たとき実は彼女連れだったんですよ。安くていい店を知ってるんだぞって彼女に自慢したくて、そしたらその彼女。俺の話しより飯に夢中になってて。それでこりゃ駄目かもなって思ってたらその彼女から大盾亭でまた食べたいって言ってきて。お陰様でこの店で俺、彼女と結婚出来たんです」

客の一人がミランダとエドガーの前でそう言った。


するとそれを聞いていた客たちから拍手が起こった。


「おめでとう!」

「幸せになれよ!」

応援が起こった。


すると客の一人が入れ替わりでミランダの前に出る。

「あーこれ大盾亭の思い出を語る流れ? 俺のは……そうだな。とにかくこの店は店員の笑顔がいい。特にミランダさんの笑顔が最高だ!」

と客の一人がミランダに言った。恥ずかしそうに笑うミランダ。微笑むエドガー。


「料理も最高だった! とくに魚料理! この店に来たらいつも頼んでいた。ギルドの新人メンバーをこの店に連れてきたんだよ。俺だけが知ってる名店だって。そのメンバーとは微妙な感じになってしばらく経って別れたんだけど。ある日この店に来てみたらそいつがいて、新人っぽいメンバーに、この店は知る人ぞ知る名店だから。だから他の人に教えるなって講釈たれてるのを見て」

と言うと客たちからワハハハハハハハと笑いが起こった。


「ビックリしちゃったよ。まぁそのとき思ったね。あいつも成長したんだって」

と客の一人が言い終えた。


分割します!

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