心配したよ!クロード!大丈夫だった?


「白銀の大盾亭は本日にて終了です。みなさんどうもありがとうございました」

そう言ってミランダは深々とお辞儀をした。


「ちょ! ちょっと待ってくれ! どういうことじゃ? 大盾亭は今日で終わりって。ワシらはなんのために……」

ドワーフのおじさんAは言う。


「実はですね……この店……どの店もそうかもしれないですけど、経営がギリギリでやってたんです。赤字になったり黒字になったり。今までも何度も閉めようと思ったことがあって……でもなかなか踏ん切りがつかなくて」

ミランダは言う。


「でも今日のことがあってやっと踏ん切りがつきました。こんな風に店をメチャクチャにされちゃ……店を修繕する費用もいくらかかることやら。色々考えたんですけど、閉めるしかないなって」

ミランダは言った。


「嘘じゃろ。そこまで……苦しい状況じゃったのか?」

ドワーフのおじさんBが言う。


その問いにミランダはコクリとうなずいた。


「そうじゃ! ワシらがみんなから寄付を募ろう! この大盾亭が無くなったら困る奴が沢山いる。ビールなんて薄めて出せばいい! な、頼む!」

ドワーフのおじさんBが言う。


「ありがとうございます。でも決めたことなんです。実はずっと前から頭の片隅にありました。いつか閉めなきゃって。私って商売上手くないんです。きっと。皆さんから寄付を募って一時的に乗り越えたとしても、すぐに行き詰まると思うんです。同情だけで商売はやっていけませんから」

ミランダは言った。


「うむぅ……」

ドワーフのおじさんAは困り顔だ。


「今日みなさんがこの店を守るために戦ってくれて。その時あたしこう思ったんです。あぁあたしこれで十分だって。こんな風にこの店を愛してくれてる人たちがいる。自分が今までやってきたことは間違ってなかったんだ。そう思えたんです。ですから……」

ミランダは言葉を詰まらせる。


「……ですから……今日この日で店を終わりにしたいんです。この店が一番幸せだった日に。みんなの笑顔をギュッと閉じ込めてこの店を終わりにしたいんです」

ミランダは言った。


「……」

もはやどんな説得も通用しないと思ったのか無言になる常連客たち。


「ごめん。ミランダ。そばにいたのに全く気づかなくて……ずっと苦しんでたんだな……」

エドガーがそう言う。


「うん……こっちこそ上手く相談出来なくてゴメンね」

ミランダが言う。


「で、はい!」

ピシャン!


とミランダがピシャリと手のひらを叩いた。


「湿っぽいのはここまで! みんなこの大盾亭を笑って見送ってください。お通夜みたいな終わり方は嫌ですよ。この大盾亭はみんなの笑顔がいっぱいだった。そんな思い出でこの店を閉じたいんです!」

ミランダは言う。


「ですのでぇーー! みんなで最後にパーーっと騒ぎましょう! お酒も食事も全部タダです! みんなで騒いで! 飲んで! 踊って! あたしにこの店のそんな姿を見せてください!! 見せてくれますか!?」

ミランダがそう言うと常連客のおじさんたちから


「うおおおおおおおおお!!!!」

と歓声が上がった。


ミランダは少し涙目でその様子を満足気に見ていた。



「うっ……ここは……どこに……」

辺りを見回す俺。ステンドグラスから溢れる月光。ここは教会か……俺は石のベッドの上で寝ていた。


俺はムクリと起き上がる。どうしてこんなところに。俺は頭を触る。ん? 包帯? あっ! そうか。俺はだんだん思い出してきた。黒龍団のバルドウィンと戦ったんだ。俺の圧倒的な勝利だったが……だがその後俺は自分自身のスピードがコントロール出来なくて転んでそれでなぜか怪我をした。


しかし誰がここに運んでくれたんだ?


俺はムクリと起き上がる。帰らなくちゃ。大盾亭が心配だ。


「大丈夫ですか?」

シスターから声がかかる。


「はい……ここは……」

ここは良くある教会の医務室ではなくて、明らかに礼拝所だった。


「傷が思ったよりも深くて一番神の祝福に満ちているこの石のベッドで治療しました」

シスターはそう言う。


「そうですか。いてて」

俺は全身が痛い。それにガクッっと疲労している。教会の治療後によくある倦怠感だ。ひょっとしたら石のベッドが固すぎたからかも知れないが。


「お付きの方が教会の外で待たれています。治療代はそちらの方から頂いております」


「お付きの方?……」


俺は教会から外に出た。夜中だ。寒い空気が急激に襲う。するとふと教会の外壁の方をチラリと見ると人影が見えた。


するとその人影は急に俺に襲いかかってきた。


「うおっ!」

焦る俺。


どすん! 俺の胸に飛び込んでくるもの……それは

「クロード! クロード!」

アレクサンドラだった。


「アレクサンドラ?」

俺は聞く。


「うん! メチャクチャ心配したんだよ! クロード!」

俺の胸で子供みたいに泣き出すアレクサンドラ。


「こんな寒いのに……教会の外で待ってたのか?」

俺は聞いた。


「うん! だって私魔族だから教会の中に入ったら治療の邪魔になるかなって思って!」

と言ってアレクサンドラは顔をグシャグシャにして泣いている。


「まぁ……信じている神が違うからな……」


これは聞いたことがある。教会の治療は主に神の奇跡に頼っている。その奇跡を甘受するためにはその教会が信じる神と同じ神を信仰しないといけない。


ここではアーケイ神。アレクサンドラのいる魔族はおそらくアスラ神を信仰しているのだろう。だからそこに気を使ったのだろう。


なぜならアスラ神はこの人間界ではいわゆる邪神だからだ。なぜかって? とにかくそういうことになっている。どこの世界でも神々と宗教は喧嘩の種だ。


「だから最初は大丈夫だと思ったけど、クロード半分魔族みたいなもんだから、急に不安になって。治療出来てないんじゃないかって!」

泣きながらアレクサンドラは言う。


「大丈夫だったみたい。アーケイ神は心が広かったみたいで」

俺は笑う。


「私は心配してませんでしたけどね」

ミラーカが言う。


「ミラーカ! 無事だったんだな!」

するとミラーカが顔を急に赤くする。


「べっ……別に貴様を喜ばすために無事でいたわけじゃないからな!」

なんだかよく分からないツンデレをミラーカはかました。


「クロード様! ご無事でなによりです」

クロエもそう言った。


「ありがとう! 名前よく知らないけど、とにかく一般人の人!」


「ふざけるな! 私をオチに使うな! 私はクロエだ! アレクサンドラ様の侍女! クロエだ!」

クロエは怒る。


その激怒を聞いて俺たちはプッっと笑いあった。アレクサンドラも泣きながら笑っている。


「無事だったんだね。クロード」

アレクサンドラは言う。

「うん。大丈夫だよ。この世界にはアレクサンドラがいるからね。そりゃあの世に行きそうになってもすぐに戻ってくるよ。アレクサンドラに会いに」

俺は言った。


「クロード……」

見つめ合う二人。


「またすぐに二人だけの固有結界が形成されましたね」

ミラーカが呆れたように言う。


「クロード様! よろしいですか?」

クロエが言う。


「ん? なに?」


「衛兵隊長のエリック様がクロード様を探しておいででした。なんでもクロード様の身の危険に関わることだと。エリック様。大変心配なご様子でした」

クロエが言う。


「身の危険に関わること?」

俺は聞いた。クロエはうなずいた。



まだまだ続きます!


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