お願い誰かクロードを助けて!
「よーし! 全員牢屋にぶち込め!」
ガイウスやバルドウィンたちは衛兵たちに捕まり黒龍団全員は逮捕された。
衛兵たちに連れて行かれる黒龍団たち。
「大丈夫ですか?」
衛兵がミランダに言う。
「え? 今ごろどうして衛兵さんたちが……今まで相談しても取り合ってくれなかったのに」
へたり込んでいるミランダが言った。
「今まで黒龍団の悪事の証拠集めをしてたんですよ。あいつらが盗んだものがどこにあるのか。エリック隊長が潜入捜査してそれを突き止めるまで下手に手出し出来なかったんです」
衛兵の一人がミランダに言う。
「そうですか……」
なんだか納得いかないがミランダはそれ以上追求しなかった。
「あれ? クロードは?」
ミランダは荒れ果てた店内を見回した。壁にはクロードがつけた大穴があり、店内の酒や食器などもメチャクチャ割られていた。
テーブルもひっくり返されて、粉々割れていた。これでは……もう営業できない。どうしたら。ミランダは考えた。店員にも給与を払わないといけない。でもこの店の有様じゃ……もうこの店をたたむしかないな。ミランダはそう思った。これだけ常連客の人たちが黒龍団相手に大立ち回りしてくれても、結局黒龍団の嫌がらせによって店は閉店に追い込まれてしまった。
ミランダは頭を振る。それでも自分のために、この店のために戦ってくれた人たちに感謝しないと。
「クロード?」
ミランダはクロードを探し始めた。
「人間たちの争いが終わったようですね。モグモグ……」
ミラーカは荒れ果てた店内で冷静に片手で皿を持ち片手でフォークを使う立食スタイルで食事をしていた。
「ミラーカ。よくこんな店の状況で食事が出来るな」
チビリとワインを傾けながらクロエは言う。
「クロエさんに言われたくないですけどね。モグモグ……」
こんな状況でも食事が出来るなんてある意味ミラーカは肝が据わっているのだろうか。
「クロード!」
ミランダが店の外に出て叫ぶ!
「えっ? クロード?」
アレクサンドラもその声を聞いて店の外に出た。そのアレクサンドラの様子を見て、ミラーカとクロエも飲食をやめ着いていった。
「クロード!」
ミランダが叫ぶ。外には連れて行かれる黒龍団が見えた。常連客は勝利の美酒に酔いしれているのか互いに健闘を称え合い笑い合っている。
「クロード!」
ミランダはクロードを見つけた。うつ伏せに倒れているクロードを見つける。
「クロード!」
「クロード!」
ミランダとアレクサンドラはほぼ同時くらいにクロードに駆け寄る。クロードの頭には怪我したのか布が巻かれていた。その布が痛々しく血で染まっている。
「お願いクロード! 返事をして!」
ミランダはクロードの体を揺する。
「ちょっとすいません」
と言いながらミラーカが割って入った。そしてミラーカはクロードの首を触り脈を確かめる。
「死んではいないです。ただ脈が弱いですね。至急教会に運んで治癒してもらいましょう」
ミラーカが言う。
ミランダはその言葉を聞いて思った。クロードを運ぶ。私達には到底無理! 誰かに頼まなきゃ。と。ミランダはふとアレクサンドラを見た。アレクサンドラ様は魔界の姫君。到底そんなこと頼めない。
するとミランダはこの騒動はなにごとかと見に来ていた街の人に頼み始めた。
「お願いです! 倒れている人が居るんです! お願いです! 助けてください!」
ミランダは必死に街の人に頭を下げる。
「えー私たちが手伝うのー?」
「いや、無理だって危ないって」
街の人はそう言った。
「お願いです! 誰か! 助けてください! 店を救ってくれた人なんです! その人が危ないんです!」
ミランダは別の街の人に声をかける。
「いやぁ……厄介事には関わりたくないので」
「見てるだけなんです」
街の人の反応は冷たかった。
◇
「私一人でもクロード運べるんだけどな」
つまらなそうにアレクサンドラは言う。
「おやめください。お嬢様がそのようなことなさらないでください。争い事に下手に関わったら」
クロエは言う。
「人間と魔族の争いに発展する。そうでしょ」
アレクサンドラは言った。
「そうです」
クロエは答える。
アレクサンドラはそっとクロードの頬に手を当てる。
◇
「ミランダ! どうした!」
大盾亭の料理長エドガーがミランダに声かける。ミランダはグショグショに泣きながらエドガーを見た。するとミランダはエドガーのところに駆け寄り胸にガバッっと顔をうずめた。
「クロードが……クロードが……今なら助かるのに……」
ミランダがエドガーの胸の中で言う。
「よし! 俺も手伝う! クロードを教会に運ぼう!」
エドガーが言った。
エドガーとミランダがクロードのところに駆け寄る。
クロードのそばにはアレクサンドラ達がいた。
「今からクロードさんを教会まで運びます! 手伝ってくれますか?」
エドガーが言う。
「いえ! 私たちは」
とクロエは言ったかと思ったら
「はいっ!」
とアレクサンドラが返事をした。
「お嬢様!」
クロエが驚く。
「みんなも手伝って! クロードを助けなくちゃ!」
アレクサンドラはミラーカとクロエに言った。
「あ……う……」
クロエは動揺している。
「クロエ!」
アレクサンドラは言った。
「はい。分かりました。仰せの通りに」
クロエは返事をした。
「よーしじゃあ。まずは俺がクロードの体を起こしますから」
と言ってエドガーはクロードの上半身を起こしてその下に手を入れ。
「両側から挟むようにクロードの体を持ち上げましょう。いいですか? せーのっ!」
エドガーはそう指示して
アレクサンドラ。ミラーカ。クロエ。エドガーとミランダの五人で持ち上げた! ガバッっと持ち上がるクロードの体。
「えっ? 軽い……」
思わずつぶやくエドガー。
確かにこの人数で運べば一人当たりの負担は減るが……それでも軽すぎる。まるでクロードにまるで体重がないみたいだった。
ミラーカたちは考えていた。いや、そりゃこっち魔族だから力強いですけど。そんな意外な顔されても……なんかこっちが化け物みたいじゃないですか。
ミラーカは微妙な表情だ。
「では! 運びましょう!」
エドガーたちはそう言うとクロードの体を運んだ。クロードの頭を持ちながらミランダは強く思った。お願い。クロード。生きていて。と。
エドガーたちは教会まできた。エドガーは大声で門の前から声をかける。
「急病人です! お願いです! 助けてください!」
すると教会の中からシスターがやってきて言った。
「さぁ。こちらに。ベッドに寝かせてください」
クロードは教会のベッド寝かせられた。
「全力を尽くします。皆様はこのまま一旦お引取りください」
シスターたちはそう言うとクロードを取り囲んで魔法の詠唱を始めた。
「クロード! お願い! 帰ってきて!」
ミランダはそう言った。
◇
「ここにいても仕方ない。帰ろう」
エドガーは言った。
するとミランダは魔界の姫君。アレクサンドラたちに向かって
「本当にありがとうございました!」
とお礼をした。
エドガーもお辞儀をする。
「お気になさらず。好きでしたことですから」
アレクサンドラは言った。
ミランダはもう一度深々とお礼をした。
◇
ミランダたちは白銀の大盾亭に戻ってきていた。すると店内は教会に行く前よりだいぶ片付けられていた。
「えっ?」
驚くミランダ。
「おう! 帰ったか! ワシらが散らかった店を片付けておいたぞ」
ドワーフのおじさんが言う。
「まぁ穴の開いた壁や壊された食器、割られた窓ガラスなどはどうしようもないがの」
ドワーフおじさんBが言う。
ミランダは店内を見る。
確かに大分片付けられていたが……壁に出来た穴や……割られた陶器の食器類。そしてワインの瓶も。ハッキリ言って壊滅的な状況には変わらなかった。
「あのっ! ケガ大丈夫ですか?」
ミランダはドワーフおじさんのケガを心配した。
「大丈夫だ。これくらい大したことないわ」
と言ってドワーフおじさんAは笑った。
「……なにからなにまで。ありがとうございます。みなさん。本当に。言葉がありません」
ミランダは言った。
「気にするな。ワシらもこの店が無くなったら困るんじゃ。ワシラにとってもこの店は憩いの場じゃからのぉ」
ドワーフのおじさんCが言う。
ミランダは思った。もし資金が潤沢にあるならこの店は新しくやり直すことが出来ただろう。だが、そうじゃなかった。壊された椅子とテーブル。それを新しく準備するだけでどれくらいの金がかかるか。
食器だって。あれは結構高いものだった。駄目にされた食材も。あれがもし、駄目にされてなくて普通にお客さんに提供できたらなんとかなったかも知れない。
これではもうジリ貧だ。じゃあいっそのことこのまま。ミランダは思った。
「みなさん。本当にありがとうございます。でも皆さんにどうしても言わないといけないことがあります」
ミランダは切り出した。店内の全員がミランダの方を見る。
「大変言いにくいのですが……
大盾亭は今日で閉店です。みなさん。今まで……本当に……本当にありがとうございました!」
ミランダは声を詰まらせながら言った。
◇
次回!
と思わせてからのぉ? ハッピーエンドで。
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