勝利! そして鳴り止まない歓声!
前回までのあらすじ
俺は食事代を返すために白銀の大盾亭に給仕として働くことになった。そんな中、魔族の姫君アレクサンドラが俺の仕事をしている姿を見に来た。更に黒龍団のバルドウィンらも白銀の大鷲亭に来た。下品な言葉でアレクサンドラを中傷する黒龍団のガイウス。俺が怒りのあまり少し押すと吹っ飛んで壁を突き抜けて外まで飛んでいった。
バルドウィンは外で叫んでいる。
「早くこんかい! 臆病者! ワシが相手じゃ! そのオナゴどももワシの勇姿を観戦せんかい!」
バルドウィンがまたもやアレクサンドラたちを侮辱した。俺の中で何かがブチブチと千切れる音がした。俺は外に出てバルドウィンをタコ殴りにしようとする。
「クロード! どこに行くのですか!」
アレクサンドラが言う。
「バルドウィンは姫様を侮辱しました。姫様をまるであいつの隠れファン的な扱いをしました。ちょっと軽めにボコにしてきます」
俺は言う。
「そっそんな……でも私クロードさんがもし怪我でもされたら……あのような人間がどんな卑怯な手段を使ってくるとも限りませんから!」
アレクサンドラは言う。
俺とアレクサンドラはお互いの顔を見合わせる。
「それではこの勝利をアレクサンドラ。あなたに捧げます」
俺は言う。
「分かりました。ではこの勝負。勝った男には私から口づけをプレゼントしましょう。クロード。私の口づけをあんな男に奪われたくないのなら絶対に私に勝利をプレゼントしてください。必ず無傷で」
アレクサンドラは俺に言う。
「あの……ホントいつまでお二人この喋り方なんですか?」
ミラーカは言う。
「イチャイチャしやがってよチクショー」
外でガイウスがボソッっと叫んだ。
「ひっ姫様! ご自身の口づけを贈り物扱いするとは……」
クロエが驚いている。
俺が外に出ようとすると目の前にミランダとエドガーが立ち塞がった。
「あっ」
俺はつぶやく。
「壁壊してゴメンなさい」
俺は言った。
「やめなさい。喧嘩なんて。あたしたちのために危ない橋を渡らないで!」
ミランダは言う。
「あんな危ないやつと喧嘩はしなくていい! 俺たちのことは気にするな!」
ミランダを支えているエドガーもそう言う。
「ですが……」
「いいのもう。姫様に最高のおもてなしをしようとしたけど……これじゃあもう……なんだかバカみたいで……この店の恥ずかしいところも見られちゃったからね。もう良いんだ。この店のことは」
ミランダは悲しそうに笑って言う。
「悪いのはミランダさんじゃない。恥ずかしいのはこの店の方じゃない! ミランダさんは頑張ってたじゃん! あいつらが悪いんだよ! あの黒龍団! 俺がここから永久に出禁にさせる! この店からも! この街からも!」
俺は言う。
「クロード……」
ミランダは泣きそうになりながら俺を見つめる。
「早くこんかい! ここで逃げたらこの白銀の大盾亭! ワシら全員の力で潰しちゃうよぉ」
煽るようにバルドウィンが言う。
ギャハハハハハハと笑う黒龍団たち。
「この店を、ミランダさんとお客さん。みんなの笑顔が満ち溢れた店にするために俺は戦ってきます」
俺はミランダに言った。
「クロード……」
ミランダさんは俺に言う。
俺は外に出た。バルドウィンと対峙する。バルドウィンの大声と俺がガイウスを突き飛ばし壁をバキンとぶち破った時の大きな音に反応したのか、多くの人が俺たちの勝負を観戦していた。その中には
「大盾亭から逃げ出した人も見てるのか……」
白銀の大盾亭から黒龍団が怖くて逃げ出した人たちも興味があったのか俺たちの殴り合いを観戦している。あの俺がテーブルを壊したドワーフたちも俺たちを見ていた。
「さぁ! この大勢の観客の前で恥をかく心の準備は出来たかな?」
バルドウィンはニヤリと笑って言う。
「そんな準備はしていない。ならず者には永久退店していただく。ツケを全部払った後でな!」
俺は言った。
観客の町娘から
「キャーーーー!!」
っと黄色い声援が響いた。
アレクサンドラがギュッと自分の胸を抑える。
「さぁ! 貴様クロードとか言ったな」
バルドウィンが言う。
「あぁ! そうだ」
「貴様筋力が210らしいな……嘘つきもここまでいくと清々しいわい」
ニヤリと笑うバルドウィン。
「だが……ワシの本当の力は筋力ではない。素早さだ」
バルドウィンが言う。
「おい! エリック! あいつの素早さを教えろ!」
バルドウィンが怒鳴った。するとヒョロヒョロのエリックと呼ばれる男性が俺たちの前まで出てきた!
確かこの人は……俺がガイウスとやり合った時も俺の能力鑑定をしてくれた人だ。たしかガイウスに正直に俺の筋力210ってことを伝えて理不尽にクビになった……復帰したのか。
エリックが水晶玉を宙に浮かせて俺の鑑定をする。
「エリックが鑑定をしている間に教えてやろう。ワシの素早さを……ワシは素早さ40じゃ!」
「えっ? 素早さ40?」
「あの巨体で?」
「ヤバいだろ。あいつ」
口々に観衆が驚く。バルドウィンの素早さがヤバいようだ。
「鑑定出ました!」
エリックが言う。
「ほう。教えろ」
バルドウィンはエリックにそう言った。
ふと俺は自分のステータスが気になって自分のステータスを自分で調べた。ピコン!
目の前にステータスウィンドウが現れる。そこには……
クロード・シャリエ 魔王 レベル32
最大HP……420
最大MP……388
筋力……210
体力……285
素早……320
魔力……532
幸運……450
スキル
パッシブスキル
『自動回復レベル2』
『光・火炎耐性レベル4』
『マジカライズレベル2』
アクティブスキル
『マテリアライズレベル2』
と表記されていた。素早さ320か……
エリックさんは言う。
「クロード・シャリエ 素早さ32です」
魚の死んだような目をしてエリックさんは言う。ニヤリと笑うバルドウィン。
そしてニチャァっと笑いながらバルドウィンは言った。
「正解……!」
忖度した? エリックさん? 嘘をついたのか? 俺の素早さは320だぞ。一桁足りないぞ。確かに前回正直に俺の筋力をガイウスに伝えて理不尽にクビになってたからな。世渡りの仕方を覚えたというのか。エリックさん。俺はバルドウィンを睨んだ。エリックさんに嘘をつかせるなんて。こいつは許せない!
「なるほど。素早さ32か。ではワシには一度もお前の攻撃が当たらんな。まぁこれは弱い者いじめになるが……勘弁してくれや……兄ちゃん」
バルドウィンはそう言うと殺気を身にまとった。来る!
「さぁ! 死ぬがいい!」
そう言うとバルドウィンはダッシュで俺まで距離を詰めてきた!
「速い!」
観衆の一人が叫んだ!
「ふっ飛ばされるぞ! 兄ちゃん!」
また別の観衆が叫ぶ!
え? いやいや。俺はバルドウィンの動きがメチャクチャスローに見えるんだが。てか……いやメチャクチャ遅いんだけど。
意識を集中させていただけあるのか。バルドウィンはアクビが出るくらいの速度で俺に襲いかかってくる。
これ、いつまで待てば……顔を歪ませて必死に俺に突撃しようとするバルドウィン。
バルドウィンはゆっくりと俺に右ストレートで殴ろうとしてきた。俺はその右腕を左手の人差し指を出して優しくそっと払った。ボキボキボキと嫌な音が鳴るバルドウィンの右腕。軽くやったつもりだがボキボキに折れてしまったようだ。
俺はガイウスを吹き飛ばしたことを思い出した。あと今日の皿を割らないように頑張った微細な動きも。加減しなくちゃ……こんな奴でも殺すのは気が引ける。
最小限の力で……相手を行動不能にさせる! 俺は右手をデコピンの形にする。そして右手を前に突き出して意識を集中させる。最低限の力で……最低限の力で……
バルドウィンがゆっくりと襲いかかる。俺はピンっ! っとバルドウィンの腹にデコピンをかました!
バグン! バルドウィンの腹から嫌な音がする。バルドウィンの腹が水面に小石を落とした時のように円形に衝撃が内側から外側に広がる! すると俺の集中が切れたのか一気にスローモーションの世界から普通の時間が流れる世界に戻る!
バコーーーン!! 吹き飛ばされるバルドウィン!
2〜3度バウンドして地面に倒れた。動かないバルドウィン。まさかデコピンで殺したか?
静まり返る観衆。
するとバルドウィンはゆっくり……ゆっくり……膝に手をついてゆっくり立ち上がった。フラフラするバルドウィン。息を呑む観衆。
「お前……」
バルドウィンはそう言うと目をグリンとさせ白目を剥いて地面にドシンと倒れた。
その瞬間!
「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
とすさまじい歓声が観衆から起こった!
「おおおおおおおおおお!!!!」
鳴り止まない歓声。
俺は手を振ってそれに答える。勝った。間違いなく。アレクサンドラは俺を見てコクリとうなずいている。ミランダは俺を見て涙目だ。
「おおおおおおおおおおお!!!!!」
と鳴り止まない歓声! 俺はそれに手を振って答える。
すると……
この喜びの歓声を引き裂く下品な声が響いた。
「いや! まだだ! この黒龍団は負けちゃいねぇ! 野郎ども! 店をぶっ潰すぞ!」
黒龍団のナンバー2。ガイウスが叫んでいた。そして
「オーーーー!」
と一緒になって叫ぶ取り巻きたち。
ふざけるな! 店を壊させてたまるか!
◇
次回ラストバトル!
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