姫様に最高のおもてなしを!

「エドガーさん!」

俺はコックのエドガーさんに声をかける。


「おう! なんだ?」

エドガーは料理を作りながら俺に言う。


「神々がテーブルにお越しです! 最高級の食事をお願いします」

と俺はエドガーさんに言った。


「は? なに言ってんだ。お前は」

エドガーさんは言う。


「魔界の姫君がこちらに来ているのです。最高級の料理をお願いします!」

俺は言う。


「一体なんの話だよ! 魔界の姫君?……ちょっと待て。見せろ」

と言ってエドガーは厨房から客の方を見た。


「あの美人たちか!」

エドガーは言う。


「えぇそうです。魔界の姫君です」

俺は言った。エドガーは俺とアレクサンドラを交互に見る。


「なんでこんな店に……いやしかしこれはチャンスか! 姫君の舌を喜ばせたらこの店が大繁盛するきっかけを作れるかもしれん。お前そのことをミランダさんに言ったか?」

エドガーは俺に聞いた。


「いえ、言ってませんけど」


「早くミランダさんに言うんだ! 全力であの姫君と付き人の方のもてなしをするぞ!」

エドガーは言った。


「はいっ!」

俺は返事をする。


俺はミランダに事情を話した。


「えぇ! 魔界の姫君? お忍びでこの店に?!」

ビックリするミランダ。


「そっか……じゃあいやでも特別扱いは逆に失礼なのか。あぁ! でも姫様にうちの店が気に入ってもらったら……ゆくゆくは姫君ご愛用の店として大繁盛を?……クロード! 特別扱いしないように特別扱いするよ!」

ミランダは言った。


「はい! よく分からないですが、分かりました!」

俺は言う。



ミランダはアレクサンドラの座る席に食事を運んだ。


「こちら前菜のマッドクラブの冷製スープでございます」

ミランダは丁寧な接客で冷製スープをテーブルに置いた。


「なるほど。これはいい香りだ」

ミラーカは言う。


「思ったよりもいいものが出てきましたね」

クロエは褒めた。


さぁ! どうだ! そう思ってミランダはアレクサンドラを見た。


「はうっ!」

ミランダは思わず叫んだ。


アレクサンドラは心底つまらなさそうにしている。頬杖をつき人差し指でテーブルをイライラしながら叩いている。


「クロード様が運んでくれると思ったのに……」

拗ねたように小声でつぶやくアレクサンドラ。


「しっ失礼いたしました!」

ミランダはそのテーブルから離れた。


「ちょっとクロードくん!」

ミランダは他の客の食事を提供していた俺に声をかけバックヤードに連れて行く。


「姫様! あなたにゾッコンじゃないの! なんで早く言わなかったの! クロードくんは他のお客様の接客はいいならあのアレクサンドラ様の接客に集中して!」

ミランダは俺にそう言う。


「はいっ! 分かりました」



「こちらホワイトクラブと芽キャベツの絶品ピラフです」

俺はアレクサンドラのテーブルにピラフを置いた。


「ほう。中々いいなこれは。クラブが入っているのか」

ミラーカは言う。

「このようなジャンキーなものもこの店ならではですね。変に気取ってないところが素敵でございますね」

クロエが言う。


「それでは……失礼……」

俺がテーブルを去ろうとすると


「お待ち下さい! クロード様!」

背後から声がかかる。俺がアレクサンドラを見るとアレクサンドラは潤んだ瞳で俺を見つめている。


「このような食事。私。食べたことがございません。ですのでどうか……ご教授を」

アレクサンドラが俺をうっとりと見上げて言う。


ドキッ! 俺の胸が高まる。ご教授? 一体どうすればいいんだ。しかし、あの懇願するようなアレクサンドラの瞳……

俺は胸の高まりを抑えながら言う。


「このレンゲを使って、すくうように食べていただきます」

俺は言った。


「レンゲ? そのようなものの使い方分かりません!」

アレクサンドラは言った。


「えっ?」

困ったな。すぐ分かりそうなもんだが……


「どうぞ。クロード様が私に食べさせてくださいませ。このレンゲの使い方を私に教えてください」

アレクサンドラは俺に言う。


「えっ? 私がアレクサンドラ様にレンゲを使ってまるで赤子に食事を食べさせるように……要するにあーん。をしろと?」

俺は聞いた。


アレクサンドラは人差し指を唇に当てコクリと甘えたようにうなずく。


「はっ! はい! それではっ!」

俺はレンゲを用いピラフをすくう。そして


「アレクサンドラ様。どうぞお口をお開けください」

俺はアレクサンドラに言った。


アレクサンドラは目を瞑って口をあーんと開ける。


ゴクリ。俺はレンゲを使いピラフをアレクサンドラの口の中に入れた。


「あふっ! あふっ!」

アレクサンドラは熱かったのか苦しそうに叫ぶ。


「申し訳ありません。アレクサンドラ様!」

俺は言う。


「大丈夫です」

そう言うとアレクサンドラはピラフをゴクリと飲み干した。


「空腹が最大の調味料と言いますがこの店の最大の調味料はクロード様の丁寧な給仕なのですね」

アレクサンドラは言う。


「ありがたきお言葉。アレクサンドラ様」

俺はうやうやしくお礼を言う。


「様ではありません。アレクサンドラ。そう呼んでください」

アレクサンドラはそう言った。


「アレクサンドラ様!」

クロエはピラフを口に含みながら叫ぶ。


「分かりました。アレクサンドラ」

俺は言った。


「クロード……」


俺たちは見つめ合う。まるで時が止まったように二人だけの世界に俺たちは入った。


すると店内が騒がしい。


「おい! 黒龍団だぞ!」

「ガイウス! あいつまた来たのか!」

ざわつく店内。


「おい! 繁盛してるじゃないか! この店は! ワシが来た! 接客を頼む! まるでこの世の王に仕えるようにな!」

とバルドウィンが店内に下品な声を撒き散らしながら入ってきた!



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