酒場で果たす運命の再開!

「クロード! 6番さんテーブルにこれ運んで!」

コックのエドガーから声がかかる。


「はい!」


俺は皿をお盆に乗せテーブルに持っていく。


俺は白銀の大盾亭にバイトに来ていた。


白銀の大盾亭……俺が黒龍団とエルダーアップルを使って力比べをした酒場。


バイトに来た理由はここで食べた食事代が払えなかったからだ。ポケットに入れていた金貨もドロドロに溶けていた。だから俺は無一文だった。


ここの女主人ミランダからはタダでいい。店員を助けて黒龍団を追っ払ってくれたから。と言われたが俺はそれを断った。代わりに黒龍団にツケを支払わせることに話がまとまった。だが、黒龍団は結構名うての盗賊団らしくどこにアジトがあるか分からなかった。


それで俺はミランダにバイトを申し出た。給仕として働くことを。ミランダは快く受け入れてくれた。


「お待たせいたしました。こちらシャウラスのバター焼きです」

俺はそう言ってテーブルに慎重に皿を置き……コトッ……よしっ! 丁寧に皿が置けた! 俺はこの給仕の仕事を筋力の微細なコントロールの場として捉えていた。


こうやって皿など薄いものを運ぶ際には力の微細なコントロールが必要だ。急激にレベルアップして力が馬鹿強くなったからな。上手いことコントロールしないと。他の人を傷つけてしまう。


「おい! 兄ちゃん! こっちにも」


「はい! 今行きます!」


俺は呼ばれた方に行く。


「はい! エール6つですね。かしこまりました!」

俺はオーダーを受け取るとすぐさま木でできたジョッキにエールを注いだ。


「おい! 注文まだか?」

「ちょっと早くしてよ!」


口々にお客が言う。


「はーーい! かしこまりました!」

と明るい口調で女主人のミランダが言う。


「ごめんね。クロードくん。今日いつも働いてる女の子たちが全員休んじゃって。でもお店はやらないと駄目だから。今日来てくれてありがとう!」

ミランダはそう言って俺に感謝をする。


「なんのなんのって……ここメチャクチャキツイですね!」

俺はミランダに言った。その俺の言葉を聞いてミランダケタケタ笑った。


「あと少しでピーク終わるから。一緒に頑張ろ!」

ミランダは言う。


確かに今は午後の8時。今が一番客が多い時間だろう。ここを乗り切れば……いやしかし、昨日の女の子も大変だな。ただでさえ給仕が大変なのにセクハラされたらそりゃ泣きたくなるわ。


「はい! エール6つ! お待たせしました」

と俺が勢いよくテーブルにエールを置くとバキン!! テーブルが真っ二つに真ん中から割れた。割れたテーブルはバランスを失い、食事は吸い込まれるようにしてガシャン! ガシャン! とテーブルの真ん中に落ちていった。


「あっ……」

俺はエールを片手に6つ持ちながら固まる。


「すいません! お客様!」


ミランダがすぐさま駆けつける。呆然としている俺。呆然としている客。その場で冷静に動いているのはミランダだけだった。


「ここはあたしに任せて別のテーブルの対応して!」

ミランダは言う。俺は俺が壊したテーブルの客を見た。客は6人くらいのドワーフの連中だった。そのドワーフ達は呆然と俺を見たかと思ったら


突然

「ワハハハハハハ!!!」

とドワーフたち全員で笑いだした。え? どういうこと?


「兄ちゃん力強いな!」

「ドンッ! っと置きすぎだ! 兄ちゃん」

「手品かと思ったわ。いきなり料理が目の前から消えて!」


ギャハハハハハハと笑うドワーフたち。



「クロードくん。ちょっと来て!

少し経った後、俺はバックヤードでミランダさんの説教を受けていた。

「本当! 気をつけてね! ただでさえ忙しいんだから」

「すいません」

ショボーンとする俺。


「でも、いいお客さんで良かった。笑って許してくれたから」

ミランダは新しいテーブルで酒を飲んで談笑しているドワーフたちを横目で見る。


「本当そうですよね。助かりました」

俺はしょぼくれながら言う。


「勘違いしちゃ駄目だよ。クロードくん。助かったんじゃなくて、助けてくれたんだよ! お客様が! そこ勘違いしちゃ駄目だよ! もちろん私もサポートしたけど」

ミランダは言う。


「はぁ。全く仰る通りで」

全くの正論なので俺はショボーンとする。


「でもあのお客様……本当に……あっ……」

とミランダはいきなり声を詰まらせて泣き出した。

「えっ? どうしたんですか? ミランダさん」

俺は言う。


「あっ……なんか急に涙が……出てきて……」

ミランダは手で涙を拭っている。


「……」


「ほんっとに良いお客様だなって思って。エドガーと二人でこの店をやって来て本当に良かったなって思ったら急に涙が……クスッ」

と泣きながらミランダは少し笑った。

言い忘れたが料理長のエドガーとミランダは結婚していた。ミランダを女主人としてエドガーが支える形だった。


「ミランダさん……」


「クロードくん。忘れちゃ駄目だよ。私達はお客様の笑顔を見るためにやってるんだから。儲けたいだけじゃない。お客さんにこの店で楽しい時間を味わって欲しい。私はそう思ってこの店を始めたんだ」

ミランダは俺に言う。なんだか感極まったようだ。


「はい……」

俺は相槌をうつ。


「でも悪いお客様もいるからね。お客様は神様だってやっぱり嘘! 黒龍団みたいな自分のことしか考えてない連中は駄目! 悪いけどあぁいう奴らは追い出さないと! 女の子もセクハラされてどんどん辞めていくし……全部のお客様に同じ料理は提供出来るけど、同じ笑顔は提供出来ないよ。だって私達人間と人間だからね」

ミランダは言う。


「はい……そうですね」

俺は深くうなづいた。ミランダもこの店に対して深い思い入れがあるのだろう。そりゃそうだ。こんな若さで女主人やってるんだから。今まで辛い経験もしてきたのだろう。


「じゃあ! 気を取り直して頑張ろう!」

ミランダは言った。


「はいっ!」

俺は元気よく挨拶をした。



「ミラーカ。あの白銀の大盾亭に本当にクロード様が働いているの?」

アレクサンドラはミラーカに聞いた。

「はい。そうです。お嬢様」

ミラーカは答える。


魔界の姫君であるアレクサンドラ。付き人のクロエ。そしてヴァンパイアのミラーカの3人は白銀の大盾亭が見える位置で話し合っていた。


「ねぇ! クロエ。私のこの服可愛いかな?」

アレクサンドラがクロエに聞く。


「はぁ……大変お似合いですよ。アレクサンドラ様……」

クロエが呆れながら言う。


「ねぇ! ミラーカはどう思う? ちょっと地味すぎかな?」

アレクサンドラはまるで舞踏会にダンスを踊りに来るような格好だ。


「逆にちょっとハデすぎかもですね。大衆向けの店なのでもう少し地味でもよろしいかと」

ミラーカは言う。


すると、アレクサンドラは驚いた顔でミラーカを見た。ミラーカは嫌な予感がする。すると


「えっ? 嘘っ! 私浮いてる?」

とアレクサンドラは周りをキョロキョロと見回した。


周りの人間は地味な服装ばかりだった。


「しまった!! 私これが一番可愛いと思って!! クロエ早めに言ってよ! 私宿に帰ってもう一度着替えてくる!」

とアレクサンドラは言った。


侍女のクロエはキッっとミラーカを睨んだ。余計なことを言って! といったような表情だ。ミラーカはそのクロエの鋭い眼光に思わず目をそらす。


「お嬢様。申し訳ありませんが……宿を出て気に入らないすぐに仰って服を着替えに宿に戻る。また宿を出て着替えに戻る。そのようなことを何度も繰り返していらっしゃいますね。もうそろそろいいでしょう。その服がお嬢様にとって最高の一着です。このままですとお嬢様のお陰で私の円形脱毛症がますます広がって私の婚期が遅れます! 早く大盾亭に行きましょう」

クロエが言う。


「大丈夫だよ。クロエは可愛いから!」

アレクサンドラは言う。

「でも……クロードさん。この服素敵だね! って言ってくれるかな……」

アレクサンドラはボソリと言う。


「言ってくれますとも! これだけ着せ替え人形のように着ては脱ぎ着ては脱ぎを繰り返したのにですから。言わない男は私が成敗します!」

クロエは言う。もうアレクサンドラのワガママに付き合うのももう疲れたといった表情だ。

そんなクロエとアレクサンドラのやり取りに流石のミラーカも苦笑いしている。



「かしこまりました! エール4つですね!」

俺がオーダーを取る。そして大樽からジョッキにエールを注いでいた。すると店内がざわつき出した。


「おい! なんだあのぺっぴんさんは」

「貴族の令嬢か……」

「見たことない顔だな。来る店間違えてんじゃないのか……」

「いやぁーあんな美人たち初めてみたぜ」


店内の男どもが口々につぶやく。俺はエールを注ぎながらふと入り口の方を見た。


「あっ!」

俺は驚いた。そして手が止まる。そこには美しい服に身をまとったアレクサンドラが居た。



まだまだ続きます。


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