お互いに片思いの二人

「クロード。どうしたのにゃ。さっきからため息をついて」


ネコ娘のミュゼルが俺に言う。俺とミラーカは神父の仕事を終え宿屋に帰っていた。俺は椅子に腰掛けながら窓辺から外を眺めていた。


「えっ? ため息ついていた」

俺はボーッっとしながらミュゼルを見る。


「ついてたにゃ。クロードボーッっとし過ぎだにゃ」

ミュゼルが言う。


「なんかさ。今日初めて出逢った人のことを思い出しててさ」

俺はアレクサンドラのことを思い出しながら言う。


「ふむふむ」


「メチャクチャ可愛かったんだよね。いや外見がというよりか……その全てが」

俺は言った。


「一目惚れだにゃ」

ミュゼルが言う。


「一目惚れなのかなぁ。うん。なんだろうなぁ。この感情。嬉しいような悲しいような。一瞬だけ自分が心の奥底から求めていたものを見せられて、その瞬間それは決して自分の手に入らないものだって分かる、そんな感情。決して手の届かないものになんとか手を伸ばそうとする。そんな感情。分かる?」

俺はミュゼルに聞いた。


「わかんにゃいにゃ」

ミュゼルが答えた。


「分かんないか。ミラーカも誰かを好きになれば分かるよ」

俺はミュゼルに言った。


「ミラーカ? 誰のことにゃ」

ミュゼルは言う。


「はぁ」

俺はため息をつく。


「なんだろうな。ずっとあの人のことばかり考えて……あの人も俺のことを考えてて欲しいって思ってて。いや俺キモイなぁ。なに言ってんだ。向こうは俺のことなんとも思ってないかも知れないのに。ミラーカ。俺もうどうしたら……」

俺はミュゼルに聞く。


「クロードは病気にかかってるにゃ。恋の病っていうヤバいやつに。このままだったら相手のことを思い出してポエムとか書き出しちゃうにゃ」

ミュゼルは言う。


「それを避けるためにも相手と話してちゃんと好きって大声で言うにゃ。すると口から菌が飛んで相手も恋の病に感染するにゃ。別の方法としてキスをして直接菌を相手に流し込む方法もあるにゃ。相手もクロードも一緒の恋の病になるにゃ。そしたら病人同士隔離されて二人だけの世界に行けるにゃ」

ミュゼルは言う。俺はため息をついた。そして窓から見える景色を見た。歩いている人々。楽しそうな笑い声が聞こえる。


「なぁ。ミラーカ。今まで何人の人が俺と同じようにこの窓の外を見つて好きな人のことを考えていたのかな」

俺は言う。


「うっ! これはポエム入ったにゃ。症状進みすぎにゃ!」

ミュゼルが言う。


「うわぁ! 俺もう好きだわ! あの人のことが好きだわ! どうすりゃいいんだよ!」

俺は頭を抱えて悩む。


俺はアレクサンドラのことが頭から離れなかった。一緒にいたいでも自分の駄目なところを見せてしまって嫌われたくない。俺はずっとそう考えていた。


俺はミュゼルのところにいった。そしておもむろにミュゼルの頭を撫でようとする。だがミュゼルの頭に触る直前!


「やめてほしいにゃ! セクハラにゃ!」

ミュゼルが言う。


「だめ? ミラーカの猫耳可愛いから撫でてみたいんだけど。優しくするから」

俺はボッーっとしながら聞いた。


「うっ……だめにゃ。ただでは触らせないにゃ」

ミュゼルが言う。


「うりうりうり」

俺は顎の下を撫でた。


「ゴロゴロゴロゴロ……はっ! 即落ち!? ヤバイにゃ! やめるにゃ!」


「やめにゃいにゃ! ゴロゴロゴロゴロ」


「あっふぅ……ゴロゴロゴロゴロ……ヤバイにゃ。撫でテクすごいにゃ……」


ガチャ!

「クロード。ただいま」

ミラーカが帰ってきた。


「おう! お帰り。ミラーカ。今ミラーカをナデナデしていたんだ」


「やば! 変なとこ見られたにゃ!」

と猫耳娘のミュゼルはそう言うと速攻で窓を開けそこから逃げ出した。


「おい。クロード。今の猫人誰だ?」

ミラーカが聞く。


「うん。わかんにゃい」

俺は答えた。


「ボーッっとしすぎだろ。お前さっき全然知らない奴を部屋に入れて普通に会話して撫でてたんだぞ。気づいてないのか?」

ミラーカは言う。


「気づいてたよ。さっきまでずっとミラーカと話してたじゃん」

俺は答える。


「!」

はぁ……とため息をつくミラーカ。


はぁ……ため息をつく俺。もはやミラーカのことも意識の外だった。


「まぁいずれにしても魔界の姫君アレクサンドラ様と相思相愛になってくれたのはありがたいことだ。これで国王のいるデスパレスにたどり着けばボクの出世は間違いなしだ」

ミラーカは言う。


「念には念を入れておくか」

と言ってミラーカは手のひらからカラスを召喚する。


「ちょっとごめんよ」

窓辺でボーッっとしているクロードにそう言ってミラーカはカラスを空に放った。



同時刻


魔界の姫君 アレクサンドラの泊まっている宿屋。姫君だけあって部屋は豪華なスイートルームだ。


「どうしたのですか? 姫様。さっきからずっとため息をついて」

侍女のクロエがアレクサンドラにそう言う。


「ん? あたしため息ついてた?」

アレクサンドラはクロエにそう聞いた。


「さっきからずっとですよ。あと神父と出会ってから。あぁ恐ろしい。異教徒の神父に恋をするなんて」

クロエは言う。


「恋……してるのかなぁ。あたし。分かんない」

そう言ってアレクサンドラは笑った。


「ただ……ずっと……あの人のことを考えていて。彼女はいるのかなとか。実はもう結婚してるのかなとか。はぁ〜」

アレクサンドラはため息をついた。


それを呆れた目で見つめるクロエ。


「一体何歳なんだろ。あの人。どんな食べ物食べてるんだろ。ねぇ! クロエ! あの人の好きなタイプの女の子ってどんな人だと思う?」


アレクサンドラはミラーカにそう聞いた。 


「そんなの私めが分かるわけないでしょ!」

クロエはアレクサンドラに怒った。


「あぁ! しまった! 私! 神父さまがあんなにカッコいいって知らなくて! 自分勝手なことばっかり言っちゃってた! 嫌われてたらどうしよう!」

頭を抱えるアレクサンドラ。


「……」

無言になるクロエ。


「ねぇ。クロエ」

と言いながらふぅっとため息をついてアレクサンドラは窓から空を眺めた。


「なんですか?」


「あの人もこうやって同じ空を眺めているのかなって。この青い空を。この空を見上げて同じように美しいって思っているのかな」

と言ってアレクサンドラはボーッっと空を見上げる。


「……」


すると空から黒いカラスがやってきた。そしてそのカラスはヌルリと液体のようになり窓の隙間から部屋に入ってきた。

そして再びカラスをの姿になる。それはクロエの前まで飛んでいった。


その様子に一切アレクサンドラは上の空で気づかなかった。


「これはミラーカの術……なになに」


カァーカァーと鳴くカラス。


「今晩白銀の大盾亭に来たれ。クロードがそこにいる」

クロエがそう言うとクロードという言葉に反応したのかアレクサンドラは


「え? クロード? どこ? クロード!」

と言いながら窓の外を見てクロードを探し始めた。


「……行くしかないか」

クロエはそう独り言をつぶやいた。



次回白銀の大盾亭でクロードと再開?


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