魔界の姫君との運命の出会い
「はぁ……疲れた」
俺は告解室で疲れ果てていた。かなりの人数が悩みを抱えているのを知った。みんな悩みなんてない様子で生きているが裏ではとんでもない悩みを抱えているんだな。俺はそう思った。
「よろしいですか?」
女性の声だ。女性らしき人物が告解室に入ってきた。
「はい。大丈夫ですよ」
俺は姿勢を正して聞く姿勢を整える。
「あの……相談したいことがあるんですが……よろしいですか?」
女性は話し始める。
「はい」
「私もうすぐ結婚する予定なんですよ。でもそれが実は嫌で」
女性は話し始める。
「はい」
俺は聞く。
「親が決めた結婚なんですけど、なんでも魔界の英雄を産んでほしいって……あっ! 今のは忘れてください」
女性は言う。
ん? なんの話だ? 俺は色んな人の悩み相談を聞いて疲れ果てていた。なので俺は聞き流した。
「でも、それって私の意思は? ってなるんですよね。私は自分が好きな男性と結婚したい! そう思ってるんですね!」
と女性は告解室の敷居の向こうで興奮気味に話す。
「なるほど」
俺は相槌をうつ。
「神父さまはどう思いますか?」
女性はいきなり俺に話を振ってくる。
「好きな方と結婚したい気持ちは分かります。最近ではそのような方も多いですからね」
俺の傾聴はほぼほぼこれだった。とにかく相手の価値観を否定しない。否定して自分の価値観を押し付けると面倒くさいことになる。それは今日の告解室の相談を聞いて思い知らされた。
正直俺の価値観ではお見合い結婚でも恋愛結婚でもどっちでもいい。そりゃその家とか人物の価値観によるだろ。としか思えない。
「そうですよね! じゃああたしの考え方間違ってなかったんですね」
納得したようにその女性は言う。
間違ってないとかは言ってないが相手が勝手に解釈してるだけなのでここはスルーしとく。
「しかもその結婚相手が人間だって言うんですよ。私魔族なんですよ。だから人間相手と結婚とか嫌で嫌で」
女性は言う。
なんだよその人間差別は。俺はそう思ったがグッと飲み込んだ。
「あっ! すいません。ここ人間の教会でしたね。神父様も人間でしたね。駄目だな。あたし」
告解室の向こうで女性が謝っている。
「ははは……」
俺は苦笑いするしかない。
「で! その人間が役立たずって言われてギルドを追放された人らしいんですよ! 名前はクロードっていうんですけど!」
ん? なんだ。これは。
「私その人の顔も見たことないですけど、分かるんですよ。表情も暗くて陰湿で人の悪口を言ってそうな感じの顔なんですよね。絶対」
女性が続ける。
ん? まさか。この相談している人がミラーカの言ってる魔界の姫君?
「人間と結婚するなんて絶対無理! 出来ません! だって人間と結婚すると周りの女の子から馬鹿にされるじゃないですか」
女性はまくし立てるように喋る。
俺は段々腹が立ってきた。なんで俺のことをよく知らないのにここまで言われないといけないんだよ! 人間と結婚って無理? 俺だって魔族と結婚なんて無理だわ。だが、ここでは俺は神父。グッとこらえないと。だが……あぁ! もう腹立つ!
「神父さま! 運命って信じます? 私信じてるんです。運命の人と出会ったら必ず分かるんです。出会った瞬間カミナリにに打たれて、あぁ私この人とこれから一緒の人生を生きていくんだって直感するんですね」
女性が言う。
まぁ正直これからの人生どころか今一緒にいる時間だけでお腹いっぱいだけどね。俺はそう思った。
「そう考えると出会いってロマンチックですよね。神父さん聞いてます?」
強制的に相槌を促してくる女性。
俺は苛立ちを飲み込んで話を聞くことに集中する。
「はい。大丈夫ですよ」
俺は笑顔でそう言った。
「あーどっかにいい男の人いないかなぁ。あっ神父さんって凄く良い声ですよね。渋くて好きですよ。そういう声」
女性が俺にちょっかいをかけてくる。
「すいませんがここは告解室なので……」
俺は苦笑いしながら言う。
「あっ! すいません! あたし女友だちに相談してるノリで相談しちゃって……ごめんなさい。でもありがとうございます。誰にも話せてなかったんです。付き人のクロエにも相談出来なくて。スッキリしました。あたし断ることにします! 人間と結婚するなんて無理です!」
「そうですか。それはそれは」
俺は当たり障りのない返事をした。断ってくれるならこっちも大歓迎だ。俺はそう思った。
「ありがとうございます。なにかお礼をしたいのですが」
女性は言う。
「そうですか。ではご寄付という形ならお受けします。教会に寄付箱がございますのでそちらをお使い下さい」
俺が言う。
「本当にありがとうございました」
「あっ! お待ち下さい」
「えっ?」
女性が立ち止まる。
「これを言う決まりになっています。神の名のもとにあなたの罪は許されました。では良い一日を」
俺は言う。
俺がそう言うと女性はクスッっと笑って
「ありがとうございます」
と言ったかと思ったらバコン! 変な音がした。
「ああああああ!!」
女性の叫び声が聞こえる。何事か! 俺は告解室から出た。すると女性が告解室の壊れたドアを持って慌てていた。
「すいません! 私魔族だから! ちょっとドアを押したらバコン! って壊れました! あぁ! もうあれだけ気をつけてたのに!」
女性が言う。
「お怪我はありませんでしたか?」
俺は聞く。
「大丈夫です。怪我は。この通りでもドアが……」
と言いながら女性は俺の方を振り返った。
ビリビリビリ!!
俺とその女性の間に電流が走った! 俺とその女性は目を見合わせる。俺は一歩も動けない。その女性も一歩も動けず俺の顔を見ている。
言葉が出てこない。目の前にいたのはメチャクチャ美人な女性だった。今までに見たことないくらい。いや、違う。ただの美人なら結構見てきたが目の前にいる女性は全てが美しかった。髪、肌の色、瞳、唇そして彼女を取り巻くその仕草。その全てに輝きがあった。
まるで星の輝きを散りばめたような輝きを彼女は持っていた。
「あの……お怪我は……」
俺がなんとか言葉に出して言う。
「あ、あの……ドアが」
その女性もやっとのこと言葉に出して言う。
ゴーーン!! ゴーーン!!
教会の鐘が鳴った。お互いビクッとする二人。
「あの……お名前を……」
俺はなぜだが名前を聞いていた。
「アレクサンドラです。あっあの……神父様のお名前は?」
震える声でアレクサンドラは俺の名前を聞く。
「クロードです」
俺は言った。
「姫様! どうしたんですか? そろそろ行きますよ。さぁこちらに」
付き人のクロエがアレクサンドラに声をかけそして手を取った。だがアレクサンドラはクロエのことを気にすることなく俺の方をじっと見つめている。
「また会えますか?……」
俺は聞いた。
「明日! 絶対にここに来ます! 神父さま! 会えますよね?」
アレクサンドラはクロエに引きずられながらそう言う。
「はっはい……明日もお待ちしてます……」
俺は呆然としながらそう言った。
アレクサンドラはクロエに連れられて教会の扉から外に出た。俺は微動だにせずにアレクサンドラが出ていった扉を見ていた。
「あれが魔界の姫君ですよ。ここに来ていたんですね。どうして知り合ったんですか? クロード」
ミラーカは俺に聞いてきた。俺はその言葉が耳に入らなかった。
「クロードぉ。無視ですか?」
ミラーカは俺の前に立ち再び声をかける。
そして俺の目の前で指を鳴らしたり手を振ったりした。
「ふぅ。駄目ですね。アレクサンドラ様に魂を抜かれてしまったようですね」
ミラーカは呆れたように言う。
「ミラーカ」
俺は言った。
「は! はい」
「俺あの人のことが好きだ」
俺は言った。
◇
「アレクサンドラ様! どうしたんですか! さっきからボーッっとして!」
クロエがアレクサンドラに言う。二人は馬車の中だ。アレクサンドラはさっきからずっと黙っている。
「クロエ……」
アレクサンドラはクロエに言った。
「はい」
「私見つけたかも知れない。運命の人」
アレクサンドラはそう言った。
◇
場面変わって
盗賊である黒龍団のアジト。
黒龍団は酒場で店員の女の子相手にセクハラをし、それを主人公のクロードにとがめられたら逆ギレをしてクロードたちに恥をかかされた盗賊団だ。
そしてその団長。ガイウスが誰かと話していた。
「俺らがいつも行く酒場に見慣れない男がいたんです。ヴァンパイア連れの……そいつが俺らが日課である店員のケツ触りをしてたら!……あいつが注意してきやがって! 俺たちは何にも悪いことしてないのに! 俺は……団員の前であいつに恥をかかされたんです! お願いです! 裏団長! 俺の仇を取ってください」
ガイウスが頭を下げる。
「あーなんだそいつは」
ガイウスよりも一回り体がデッカい男が返事をする。裏団長と呼ばれた男だ。
「そいつエルダーアップルを粉々にして……とにかくとんでもなく力が強いんです!」
ガイウスは訴える。
「馬鹿だな。お前騙されてんぞ。筋力210なんて嘘に決まってんだろうが」
裏団長が言う。
「で、ですが! この目で! 見たんです!」
「おい! バカガイウス! お前の筋力はどれくらいだ?」
裏団長が言う。
「筋力30ですが」
「筋力30? プッくははははは!!」
裏団長は笑いだした。
「裏団長! バルドウィン様!」
ガイウスが叫ぶ。
「いいだろう。そのクロードという男。このワシが潰してやろう!」
「黒龍団の裏団長にして、剛腕の異名を持つこのワシ! この筋力32のバルドウィン様がな!」
筋骨隆々のバルドウィンはそう言ってニヤリと笑った。
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