え?俺が神父やれって?

「アーケイ神の加護の元にて。癒やされたまえ」

教会のシスターが祈りを捧げる。ここは教会にある治療用のベッドだった。そこに俺が吹っ飛ばしてしまったおじいさんが休んでいた。俺が体に痛みを抱えていたおじいちゃんを教会にまで連れてきていたのだ。


おじいさんはこの教会の神父だった。いつも働いている教会に向かう途中、俺とぶつかったらしい。


それで治癒も兼ねて仕事場である教会に連れて行って欲しいと頼まれたのだ。


「ほんっとにすいません」

俺は平謝りに謝った。こんなおじいさんを怪我させてしまうなんて一歩間違えれば大惨事だった。俺は自分の不甲斐なさと思慮の足りなさを後悔する。


「いえ……そんなに謝らないでください。済んだことです」

神父のおじいさんは疲れたような顔で笑う。こう言われると余計罪悪感が増す。もっと怒ってくれた方がマシだった。だって一歩間違えれば神父さん本気で死んでたんだから。


うわぁ……最悪だ。俺は本気で後悔する。

「治癒の処置が終わりました。怪我は治りましたがそれに伴い体力が急激に低下しています。神父さま。一週間ほど絶対安静です」

シスターが神父に言う。


教会……この世界では怪我の治癒は教会が一手に引き受けている。冒険者の中にもヒーラーがいるがそれはあくまで一時しのぎだ。


俺がいたギルドでは実はシドがヒーラーだった。あいつの持つ能力。ステータス固定化の能力によって、流血などのバッドステータスを悪化させずにそのまま教会まで持って行き教会で治癒してもらうことが出来た。


ただ、教会での治癒は自然治癒力をブーストさせるため治癒後にダルさなどの症状や、体力の低下が起こる。俺みたいな若い冒険者でも治癒後に3日ぐらいベッドで休んでたりするから、こんなおじいさんならそりゃ……あぁ。俺は本気で後悔する。


俺は俺の横でミラーカが呆れたような表情をしているのを見た。てかさっきからミラーカが俺と目を合わせてくれないんだけど。


「これは神様から私へのメッセージですかね。自分の体を大切にせよとアーケイ神が仰っているのでしょうか」

神父は独り言のようにつぶやく。


「本当にすいませんでした。なんでも仰ってください。僕が出来ることならなんでもしますから!」

俺は言った。


すると

「よっ」

っとその神父はベッドの上で上半身を起こして言った。


「では神父役をお願いしても良いですか?」

神父はそう言って慰めるように俺の肩に手を置いて言う。


「神父役?」


「ええ……ご覧の通り私は安静が必要な身。職務を全うすることが出来ません。ただ、私が休むと困る人がいます。そこであなたに神父の役割をお願いしたい」

神父はそう言う。


「いやでもちょっと! それは流石に無理ですよ。僕が神父役なんて!」

俺は慌てて断る。


神父は優しそうな表情を浮かべて俺を見た。そして言う。


「大丈夫です。人前に出たりはしませんから。冒険者の治癒もシスターがやってくれます。ただ」

神父が言う。


「ただ?」


「信者の方の告解を受け付けないといけません。大事な仕事です。告解室で信者の方の罪の告白を聞いてくれませんか?」


神父はそう言った。



俺は神父の格好に着替える。


「私の昔の法衣ですが、似合ってますよ」

神父がニコリと笑って言う。


「私が見た夢の通りですね」

神父が言う。


「夢?」


「そうです。ここ最近よく見る夢でしてね。夢の中で全く見ず知らずの男が私の法衣を着て神父の仕事をしていたんです。何故かなんとも心地よい夢でしてね。その見ず知らずの男というのが君なのなんです。ひょっとして君が私にぶつかったのは運命なのかもしれませんね」

神父が言う。


「……」


俺の言葉が出てこない。


「冒険者の方が来られました」

「大怪我です!」

「でもベッドが!」


口々にシスターが叫ぶ。慌てているようだ。大怪我をした冒険者が治癒を求めにやってきたようだ。


「おーい。ここのベッドを使いなさい」

神父がシスターにそう言う。


「ですが神父さま……」


「構わん。ワシは家でゆっくり休息を取ることにするよ」

そう言って神父さまはベッドから降りて床に立った。メイドに肩を抱かれて立ち上がる神父。ポンっと俺の肩に手を置いて神父は言った。


「大丈夫だ。君になら出来る。神父の仕事を全うすることによって君の心を突き刺す罪悪感も消えるだろう」

神父はそう言ってメイドに連れられながらヨロヨロと出ていった。



告解室の前に立つ俺。

ミラーカはさっきからずっと怒っているようだ。


「怒ってるの? ミラーカ?」

俺は聞いた。


「……」

ミラーカはさっきからずっと無言だ。


「まぁ色々言いたいことは分かるよ。ミラーカのアドバイスを実践しなかったからだろ? 能力をコントロール出来ていなかったから。まぁでもこれからはちゃんと能力をコントロール出来るようにするよ」


俺はそう言いながら告解室のドアを開けた。バキン! 告解室のドアは俺のバカ力でいきなり破壊された。蝶番のところが壊されて、俺は気がついたらドアノブごと壊れたドアを持ちあげていた。


「……」


俺は応急処置的にドアを直した。


そして告解室に入る。しばらく待っていると次々に信者の方たちが告解室で懺悔を始めてきた。


告解室はお互いがお互いの顔を見れない仕組みになっていた。つまり誰がどんな相談をしているのか分からないのだ。


「別の女と浮気をしてしまい……どうしたらいいか……」

「過去のつらい経験が頭から消えてくれないんです……」

「子育てが大変で……あと旦那が浮気しているかも」


俺は色んな人の相談を聞いていた。いやこれは罪の告白じゃなくて人生相談だろ。俺はそう思いながら黙って聞いていた。変なアドバイスをすると俺が神父じゃないってバレるから。ひたすら傾聴する。そして相談の最後に

「安心してください。あなたの罪は神の名のもとに許されました」


と俺が言うと信者たちはなんだか満足そうに帰っていった。


しかし……メチャクチャ疲れる。話を聞くってこれだけ疲れるのか。一方的に相手のネガティブな感情をぶつけられる。それが俺のメンタルをゴリゴリ削っていた。これは神父さん大変だわ。俺はそう思った。



同時刻。クロードが代理の神父を務めている教会の扉の前。二人の魔族の女性が立っていた。


「アレクサンドラ様。本当に人間が信仰する神に懺悔をしに行くのですか?」

付き人らしき女性が聞く。


「だからそうだって言ってるじゃないの。クロエ! さっきから」

アレクサンドラと呼ばれた女性はそう言う。


「アレクサンドラ様御身は魔界の姫君であらせますのにどうしてそのような軽率な真似を……」

クロエと呼ばれた付き人の女性は泣きそうになってる。


「あーもう! パッと行ってパッっと相談するだけじゃない! ほら早く行くわよ!」

アレクサンドラはそう言うと教会の扉を開け中に入った。


「おぉ。中々すごいわね」

とアレクサンドラが教会の建物の中の荘厳な飾り付けに驚く。


「あぁ。ニュクス様……お許しください。人間が信仰する神の教会に入ってしまいました」

クロエは魔界の神の名前を呼び人間の教会に入ったことへの赦しを求めた。


「ほら! あそこ! 告解室よ! 入るわよ」

アレクサンドラはそう言うとズカズカ告解室に入っていった。



魔界の姫君 登場!

フォロー★ハートレビューお願いします!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る