魔王術の使いすぎで魔王になる?!


「オーバーロードだ」

ミラーカが言った。


「オーバーロード? 魔術回路の過負荷のこと?」

俺は聞き返す。


「あぁ。そうだ。キミも魔術師なら体内の魔術回路の過負荷によって起こる現象を知ってるね」

ミラーカが俺に聞いた。


「う……なんかミラーカ先生みたいだな」

俺は言う。


「からかうな。魔術回路の過負荷によってスペルが使えなくなったり筋肉痛のような症状が出ることは知ってるな。最悪魔術回路が焼き切れて死に至る」

ミラーカは言う。


「あっ……」

俺は初めて魔王術を使ったことを思い出した。全身筋肉痛になってたな。確か。


「ただ魔王術の場合事情が少し異なる。魔王術により魔術回路の過負荷を引き起こした場合、体が組み替えられる。魔王の体に」

ミラーカは言う。


「え? 要するに魔王術を使うと体が魔王になってしまうってこと?」

俺は聞いた。


「そうだ。だが、体だけじゃない。見も心もだ。精神も魔王の精神と同調して組み替えられる。その瞬間キミは完全な理性のないモンスターになるのだよ」

ミラーカが言う。


「……」

俺は無言になる。そしてブンブン自分の意志とか関係なく振られている尻尾を見る。


「ヤバいじゃん。それ」

俺が言う。


「ヤバいな。だから使うなと言った」

ミラーカは言う。


「いや! ヤバいじゃん! それ! もっと早めに言ってよ! 理由込みで! 尻尾生えてんじゃん! どうすんだよ! これ!」

俺はミラーカに詰め寄った。


「そんなもの知るか! 自分のした行為に責任をとれ! とれないなら魔術師やめろ!」

ミラーカは反論する。


ミラーカと睨み合う俺。


「ふぅ……」

俺はため息をついた。


「でも魔王術を使えば魔王になれるんでしょ? ミラーカは俺に魔王になって欲しいだよね? じゃあなんで魔王術を使うなって言うの?」

俺は聞いた。


「全く違う。私が求めているのは魔王術を使いこなす術者だ。それを私は魔王と読んでいる。魔術の王だから魔王だ。決してモンスターを求めているわけではない。そんな理性を欠いた化け物を姫様に紹介出来るか!」

ミラーカは言う。


なるほど。俺はミラーカの言い分に納得した。


「だからキミのその尻尾は危険信号だぞ。魔王術に支配されている証拠だ。今後はその尻尾が消えるまで魔王術は使ってはいけない。本当に戻れなくなるぞ」

ミラーカは言う。


「……」

俺はブンブン振っている尻尾の存在が急に恐ろしくなった。まるで俺という存在に狙いを定め食い殺そうとヨダレを垂らしているモンスターのように見えたり


「そう言えば故郷のヴァリュレーの村に向かわせたブラックドラゴンの使い魔ガヴォイセンはどうなったかな?」

俺は聞く。


「意識を集中させろ。ガヴォイセンとキミの意識は繋がっているハズだ。魔王術を使わなくても心の中のスイッチを切り替えるだけでガヴォイセンとコンタクトが取れるハズだ」

ミラーカはそう言う。


俺は深く意識を集中させた。


すると


「!」


外の景色が見えた。なんだこれ。木? 葉っぱ? ひょっとして木の上か? おーいガヴォイセン!


「ん? なんだ! オイラを呼んだか!」

脳内で声がする。


「あぁ俺だクロードだ」

俺は言葉に出して言った。それが伝わったようでガヴォイセンが反応する。


「……」

ガヴォイセンは無視してまた木の上で寝る。


「おーーい」


「……」

返事がない。あいつ無視してるな。


ミラーカが話しかけてきた。

「ガヴォイセンが言うことを聞かないのならいい方法がある。レイド。この言葉で相手を支配出来るハズだ」


「レイド」

俺は言った。すると


「うぎゃああああああ!!」

とガヴォイセンが叫んだ。


「おーーい。無視すんな。村まで着いたのか?」

俺は聞く。


「……」

無視するガヴォイセン。


「レイド」


「うぎゃあああああ!!!」


こんなやり取りを繰り返してガヴォイセンの今の位置を把握した。今のガヴォイセンは俺がいるこの街とヴァリュレーの村の中間地点にいるらしい。


途中で、なんで村まで行かないといけないか馬鹿馬鹿しくなってふて寝したとのことだ。


俺はガヴォイセンに早く妹の所に向かうよう命令する。するとしぶしぶガヴォイセンは従った。


「ふぅ」

パチリの目を開けて現実世界に戻る。

「?」

ふと見ると窓の外にこちらを眺めている猫耳娘の姿が見えた。窓の外と言っても窓のすぐ外だ。窓ガラスのメチャ近くだ。その猫耳娘は頭を下にした逆さまな態勢でこっちをニヤッっと笑った。


「あっ!」

俺は思わずその猫耳娘を指差す。するとミラーカも振り返る。するとその猫耳娘は素早く身を隠し見えなくなった。


「どうした? クロード」

ミラーカは言う。

「猫耳娘がこっちを見て笑ってたんだ」

俺は見たままを答える。


「いや、いないが。お前幻覚でも見てるのか?」

ミラーカは聞く。いや本気であの子誰なんだ。


「そろそろ宿を出る時間だな」

ミラーカが言う。


「あぁ……そうだな」

そう言うと俺は立ち上がり部屋のドアを開けようとする。


「あっ! 言っておきたいことがある。キミの力はレベルアップして大分上がってるから」

ミラーカはなにか言いかける。

「えっ?」


俺はドアを開けようとドアノブを回したらドアノブがバキン! と千切れた。


「あっ!」

俺の右手にはねじ切れたドアノブだけが残される。


「キミの力が大分上がってるから……色々と気をつけてくれって言いかけたのに……」

ミラーカは言う。


「いやぁ! そんなそんな! 建付けが悪いのかな? このドア」

俺がそう言いながらドアを軽く押すとバゴン! ドアがいきなり吹っ飛んだ。


「あ」

俺はつぶやく。部屋のドアは廊下にふっ飛ばされていた。


「能力のコントロールが出来てない。これ日常生活では困るだろ? これもなんとかしないとな」

ミラーカは呆れたように言った。



街を歩きながらミラーカと俺は話す。


「つまり、キミの敏捷性や体力、筋力が凄まじく上がっているのだ。それこそ日常生活に支障をきたすレベルにな」

ミラーカが言う。


「マジか……実感ないけど」

俺はつぶやく。


すると街のどこからか女性の悲鳴が聞こえた。

「キャーーー!! あたしの財布! 返して!」

女性から財布を奪い取って逃げていく男の姿が見えた。


どんどんどんどん俺から遠ざかる犯人。

「なぁ。ミラーカ。俺の敏捷性も上がってるって言ったな」

「あぁ。言ったが」

ミラーカは答える。


「じゃあ今が使い時だ!」

俺はそう言うとダッシュで犯人を追いかけた!

「おい! 待て!」

ミラーカの声が後ろから聞こえる。が俺は気にすることなく犯人を追いかける。


凄まじく速さで駆け抜ける俺。街の景色が一気に俺の後ろに下がるようだった。まるで飛んでいるような……これが……レベル32の走力……俺は自分の力に驚く。


すぐさま俺は犯人に追いついた。そしてすれ違い様に犯人から財布をバシッ! っと取り上げた。

「うゎぁ!」

俺に驚いて転げる犯人。俺はそれを見て思わずぷっっと笑う。そして前に視線を戻すと……

「うわぁ!」

俺は叫んだ。目の前には老人が立っていた! 急いで止まろうとするが間に合わない! 俺は走った勢いのままその老人にドシーーンとぶつかった。


ぶつかってふっ飛ばされる俺と老人。ドガドカ……ゴロン! 転がるように地面に何度も叩きつけられる俺。


「いてててて……」

俺は体に痛みを感じながら起きる。ハッ! 俺はぶつかった老人のところに駆け寄った。


「大丈夫ですか?」

俺は老人に聞く。


「あああああ……痛い……どうか教会に……連れて行って」

倒れている老人は苦悶の表情を浮かべ体を押さえながら俺に教会に連れて行くよう頼んだ。



まだまだ続きます。

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