ざまぁ展開 ④ カシムの意外な最後
「自分たちの肉を喰らい、回復し、また喰らうを延々と繰り返す。しかも人間の意識は保たれたままでな」
シドが言う。
「嫌だぁ! 自分の手なんて食べたくない!」
「なんで俺こんな……あぁ! 誰か助けてくれ!」
リーシャとカシムが叫ぶ。その声にドン引きするコルネリオ。
「俺の能力がお前のエリクサーがゾンビの能力と混ざり合い魔法の構成式が歪んだ形で固定化された。多分あいつらはあと100年間くらいあんな状態だ」
シドのその言葉に驚愕するサムソンたち。
ゾンビになったカシムはリーシャの頭を石を使って割り出した。まるで卵でも割るかのように。
ガンッ! ガンッ! そして砕けた頭蓋骨を取り外し中の脳みそを食べ始めるカシム。リーシャも自分の脳みそを食べ始めた。
「オエッ! なにやっでんだよぉ! おれは」
泣きながら叫ぶカシム。
「なまぐざいよぉ」
叫ぶリーシャ。
そしてドサッっと倒れる二人。するとみるみるうちに二人の肉体が元の人間の肉体に回復した。気がつく二人。直後、また自分で自分の体を食べ始めた。
あまりにも酷い光景。悲惨な光景だった。
シドはカシムたちを無視して棺桶の近くまで行った。そして掘り起こされた棺桶の中の遺体を見つめた。
「! ない……首飾りが……マジックタグが外されている」
シドは呟く。棺桶の遺体からはマジックタグがはずされていた。
マジックタグ……冒険者がよく付けているアクセサリーのこと。魔力を込めると遺族あての生前に残したメッセージのヴィジョンが流れる。
シドはよくクロードが目的の途中で亡くなった冒険者のマジックタグを拾っていたのを思い出した。
「いつか遺族に届けてあげなきゃ」
クロードはよくそう言って微笑んでいた。
まさか! クロードが生きている? あいつがこの墓を作ったというのか?! シドはそう考えた。いや、まさか……だがそうだとしたら……ひょっとしてガヴォイセンを討伐したのはクロード? あの神話の化け物を? 考えにくいがだがシドは直観した。クロード。あいつは生きている。
「よし! さっさとブラックドラゴンの所に行くぞ! 交渉を終わらせに! そしてその後、クロードの故郷ヴァリュレーの村に行くぞ!」
シドは言う。
「えっ? カシムはどうするんだ! シド」
サムソンは言う。
「見たら分かるだろ。あいつはもう駄目だ。ここに置いていく!」
シドがサムソンたち大声で告げた。
カシムがえっ? っといった表情でシドを見る。
「あ……そうだな」
サムソンは自分の足を食べているカシムを見てそう言った。
「なぜ、急にクロードの故郷に行くんだ?」
ジャムディはシドに聞いた。
「多分クロードは生きている」
シドは言う。
「!」
三人が驚く。
「アンシルヴァンドは自分の兄を捕まえた男を探していた。とにかくそいつを見つけなきゃ話にならない。街中から搔き集めたポーションを交渉材料としてドラゴンの怒りを鎮める。それで期日を延ばしてもらう。クロードを指名手配にしてあいつを探し出す! クロードがなにか知ってるハズだ!」
シドは言った。
「さぁ! 行くぞ! ドラゴンの巣穴に!」
シドはワイバーンの所に向かった。
「まっでぐれよ……みずでないでぐでよ」
カシムが血まみれになりながら言う。
「だずげでよ」
リーシャも泣きながら言う。
シドは墓穴の下にいるカシムを見下ろしながら言う。
「カシム。お前はクビだ。これから好きに生きろ」
シドはニヤリと笑って言った。
絶句した表情を浮かべるカシム。
そして
「行くぞ」
身をひるがえしてシドはワイバーンのところに向かった。シドについていくサムソンたち三人。
取り残されるカシムとリーシャ。リーシャは必死でカシムの足に噛み付いている。
「うそだろ……なぁ! ジド! うぞだろ! おいっ!」
カシムは墓穴の底から必死で叫ぶだがシドは帰ってこない。
「あ! あ! あ!! ジド!!」
カシムは墓穴の下から必死で地上に戻ろうとする。だが斜面が急過ぎて地上に戻れない。這い上がろうとするも足を斜面にかけた途端にズルズルと滑り落ちる。
なぁ! シド俺が悪いのかよ! 俺がお前になにをしたよ! なんで俺がこんな目に……カシムは這いつくばりながら考える。
……ひょっとして天罰だろうか。今まで散々悪いことをしてきた。ひょっとして今そのツケを精算してるのだろうか。カシムはそう考えた。
あぁ! バカか! 俺は! 神様などいない! 天罰なんてない! 全部自分の力だ!
カシムは必死だった。
「ジド! まっでぐで!」
シドとは仲が良いつもりだった。一緒に酒を飲んだり、女の話をしたり。シドだけは俺を絶対に見捨てないと思ってた。まさか俺があのクロードと同じように見捨てられるとは。
「あ! あっ! あっ!! ジド!!」
カシムはリーシャを払い除けて必死に地上に出ようとする。許せなかったシドが。あんな奴を信じた自分自身も。復讐してやる! シドに復讐してやる! カシムはそう強く思いながら必死に地上に出ようとした。
ガッ! 地上の岩に手がかかる。やった! もう少しで出られる! カシムはそう思った。
「手伝いましょうか? カシムさん」
そこにはニヤニヤしながらしゃがみ込んでこっちを見ているコルネリオの顔があった。
「あっ……あっ!」
カシムは必死でコルネリオに手を伸ばそうとする。だが
ビシッ! コルネリオの指先から電撃の魔法が放たれる。それがカシムの目に直撃した。
「ごああああああ!!!!」
叫びながら斜面を落下するカシム。目を押さえて転げ回るカシム。それを見てコルネリオは腹を抱えて可笑しそうに笑った。
「あーいいですね。カシムさん。そのリアクション」
ニヤニヤ笑いながらコルネリオは言う。
コルネリオはしゃがんでカシムを見下ろしながら言った。コルネリオはニヤニヤしている。
「僕カシムさんのことが大嫌いなんですよ。いつもいつも僕のことをチビとか言って馬鹿にしてましたよね」
コルネリオは続けて言う。
「あれ本当に許せなくて。カシムさんの方はおふざけだって分かってたんですが、こっちは本気で嫌だったんですね。何度もやめてくれって言ったんですけどね……」
コルネリオがカシムを見つめながら言う。
「ちゃんと謝ってくれますか?」
コルネリオはカシムに聞いた。
「ごっ! ごめん! ゴルネリオが 傷づいでるごどに……きづかなぐで……ごめんなざい!」
カシムは謝った。助けてほしい一心だった。もちろん助けてもらえればコルネリオなどどうでもいい。カシムはそうやって生きてきた。
表向き謝れば許してくれる。そうやって要領良く世の中を渡っていけばいい。嘘嘘嘘! それでいい。自分の本性も本心も隠し通せばいい。強者に媚びたストレスを弱者で発散する。それのなにが悪い! カシムはそうやって生きてきた。
これからもそうやって生きてやる! なにが悪いんだよ! 強者に媚びて! 弱者を虐げて! みんなやってることだろ!!
今からお楽しみがあるんだよ! クロードの妹とお楽しみしないといけないんだよ! 俺は!
だから! 早く助けよ! コルネリオ! このチビ!
全部! 全部! 全部! 復讐してやる! お前もシドもクロードも! 俺の気に入らない奴ら全て!
復讐してやるからな! カシムはそう思った。
「え? ホントに謝ってます? カシムさん」
コルネリオは聞く。
「うん! うん!」
カシムはうなずいた。
「うん。でも許さないですよ。カシムさん」
コルネリオは非情に言い放った。
「えっ!」
カシムは驚く。そしてコルネリオの顔を見る。
コルネリオはカシムの顔を見てギャハハハハハハと笑った。
「いい! その顔! いい! うん。可愛いよ。カシムさん」
コルネリオは笑いながら言った。
カシムはコルネリオの言葉が耳に入ってこない。
「カシムさんってこれだけいい表情が出来るんですね。ビックリです。もっと早くイジメておけば良かった。あっ! そうだ良いことを思いついた!」
と言ってコルネリオは立ち上がり二本の試験管を取り出した。試験管の中身は空だ。
「カシムさんと彼女さんって半分ゾンビで半分人間の化け物ですよね。じゃあ僕の人体実験の道具にピッタリですね。さすがの僕も人体実験は非道徳って分かりますけど、人間じゃないカシムさんなら何してもいいと思うので」
コルネリオはニヤニヤしながら言う。
「えっ……あっ……」
カシムは呆然としている。
「だって、カシムさんメチャクチャ悪い人じゃないですか。だから死ぬときぐらい人類に貢献しましょうよ。今まで散々人に迷惑かけてきたんだから。そう思ったらカシムさんってモルモットに最適ですよね。どれだけ苦しめても僕の罪悪感ゼロなんで」
コルネリオはニコニコ笑いながら言う。
「あ……あ!」
カシムは文句を言おうとするが声にならない。
「それでは」
コルネリオは手に持った試験管のコルクの蓋をキュポっと取り外した。
ギュイン! なんと! カシムとリーシャが試験管に吸い込まれていく!
そしてギュン! とカシムとリーシャは試験管に閉じ込められた。小さくなって試験管の中にいるカシムたち。
キュッっとコルクをするコルネリオ。
「いやー。いい拾いものしたなぁ!」
コルネリオはそう言うとそのカシムとリーシャの入った試験管をかばんの中に入れた。
全てが遅かった。小さくなったカシムは呆然と外を眺める。
試験管から見えた景色。それがカシムが人生で最後に見た景色だった。
◇
次回から主人公目線です。
魔王術とはなにか? それと魔族の姫君が出てきます。
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