シド目線。破滅の前兆

「申し訳ございません。コンスタンツ卿」

シドがコンスタンツ卿にそう言う。コンスタンツ卿は貴族であり、摂政だった。その地位と権力はシドより上だった。


「まったく! よくあんな非人道的なことを思いつくもんだ! 冒険者をドラゴンに食わせようなどとは! だから私が言ったのだ! ブラックドラゴンと戦うべきだったと! あんなモンスターに我が国を守ってもらおうなど最初からおかしかったのだ!」

コンスタンツ卿はそう言った。


確かにコンスタンツ卿はそう言った。だが最終的にドラゴンに国の防衛を任せることに渋々ながらも賛成したのに……シドはなんともやりきれない思いがする。


「こうなれば神器である人工神ミラ・ヴェルディウムを再起動させるのだ。我々が生き残る手段はそれしかない!」

コンスタンツ卿はそう言った。国王であるオイゲンもうなずく。


なにを言ってるんだこいつは。シドは心の中でそう思う。あれを起動させる? あの1000年間動かない巨大な観光名所になっているあの鉄くずでどうにかなると思ってるのか? シドは思った。この国も終わりだな。こんな世襲でそのポストについたのに調子に乗っているバカに権力を握らせているんだから。


今一つの辛抱だ。俺が権力を握ったらお前ら残らず地下牢に押し込め糞尿を食わせたあとジワリジワリと殺してやる。シドは内心そう思いながらあくまで笑顔を絶やさない。


「1000年も動かなかったあの巨大アーティファクトが戦闘で役に立つとは思えませんが……」

シドは笑いながらそう言う。


「何を言う! では貴様に策があるのか! あるなら言ってみろ」

コンスタンツ卿は言った。


「分かりました。お答えしましょう。その前にお聞きしたい。コンスタンツ卿。あのミラ・ヴェルディウム。動かすためには適応者が必要です。適応者のあてはあるのですか? あとあの人工神には動力であるフォーカスクリスタルが魔力切れになってます。それの魔力の充填はどうされるおつもりですか?」

シドはコンスタンツ卿に聞いた。


「そっそれは、我が国の優秀な兵士や学者たちがなんとか解決してくれるハズだ」

コンスタンツ卿はしどろもどろで答える。


つまり人任せということか。シドは冷たい目でコンスタンツ卿を睨む。まるで駄々をこねる子供だな。シドはそう思った。子供じみた夢ばかり垂れ流して現実を見ようとせず、現実的なことは自分の部下たちに任せて自分は知らぬ存ぜぬ。部下の優秀さが逆にこのバカをここまで増長させてきたんだろう。シドはそう思ったがその怒りは胸に秘めておいた。


シドはニコリと笑った。

「ではこうしましょう。コンスタンツ卿は人工神を再起動してドラゴンを討伐する。私はブラックドラゴンとギアスを結び再び良好な関係を構築する。この二本柱で行きましょう。お互いがお互いの考えのもと、ただ一つ国家のために協力する。それでいいですね?」

シドは有無を言わさない感じでコンスタンツ卿に聞いた。


「あっ! あぁ! それで構わない」

コンスタンツ卿は汗をかきながら言う。


「ではお互いがお互いの計画に全責任を負う。それでよろしいですね?」

シドが聞く。


「あっ! あぁ! もちろんだ!」

コンスタンツ卿は言う。コンスタンツ卿はシドにもうすっかり飲まれていた。


「では、私めは私の計画が失敗したときに、国家を愛する一人の愛国者として喜んでこの首を切り落とし、この首を国王陛下に献上いたします。それで……コンスタンツ卿はどのように責任を果たされるおつもりですか?」

シドは聞く。


周囲がザワついた。カシムや天空の大鷲団のメンバーもお互いに顔を見合わせる。

「そっ……それは。分かった。では私は摂政の地位を辞する。それでいいなっ! 私もこう見えてかつては戦場を駆け抜けた騎士だ。舐めるなよ!」

コンスタンツ卿は逆ギレしたように言う。すると更に周囲がザワついた。


「なるほど。それは素晴らしい。ですが、国家の一大事に命もかけられない人間になにが出来るのでしょうか。私には甚だ不安ですが……良いでしょう。では、ギアスにて契約をしましょう」


また周囲がザワつく。


「ギアス?」

「人間同士がギアスなど……そんな」

「使い魔と主人の契約で使うものじゃ……」


「なっ! お前そこまで……」

コンスタンツ卿は驚く。


「やめよ! やめよ! 二人とも争うな! お互いに協力すれば良いだろう! どうして一つにまとまることが出来ん!」

国王がシドたちを止めた。


「お言葉ですが国王。我々はお互いの解決方法がまるで違います。あえて、協力しない方がよろしいかと。世の中には競い合った方がより多くの成果が獲得できる。そういう状況もございます」

シドは言う。


「うっ……」

国王はシドに言われ言葉を失う。


「陛下! ここは引けぬ男と男の戦いです。いわばここはもう戰場なのです。良いだろう。シド。そのギアスを受けよう」

コンスタンツ卿はそう言った。


周囲が更にザワつく。


「おい! ジャムディ!」

シドがそう言うとリザードマンの戦士が前に出た。


「なんでしょうか。シド様」

ジャムディは天空の大鷲団にいる冒険者だ。強い肉体の耐久力、そして強い火炎耐性などからシドたちから重宝されていた。そしてジャムディのユニークスキルは……


「おい! ジャムディ! ギアスを作成しろ!」

シドはそう言った。ジャムディのユニークスキルはギアス作成。魔力を持つもの同士を縛り付ける呪い。それを作り出すことができる能力だ。


ジャムディは一枚の羊皮紙を取り出しそれをテーブルの上に置いた。そして自らの手首を噛み切る! 滴り落ちる血液! その羊皮紙に垂らされたジャムディの血液が蛇のように動き出し文字となった。


「これは血の契約書です。さぁ我々の血でサインしこの契約書を完成させましょう。見届人は国王陛下です。ですので陛下もサインをお願いします」

シドがそう言うと国王はコクリとうなずいた。そして、シドは腰に当てた剣に自分の親指を滑らせ傷をつけた。シドの親指から血が出る。


そしてシドはその傷ついて血が出た親指で羊皮紙にサインをした。続いて摂政であるコンスタンツ卿も親指をナイフで切ってサインをした。続いて国王も自らの血でサインをする。


するとボッ! っとその羊皮紙から3つの火の玉が生まれた。するとその火の玉はシド、コンスタンツ卿、国王の3名の胸に直撃した。

「ぐっ!」

苦しみに顔をゆがめるシド。胸に刻印が押された。ギアス成立だ。シドはニヤリと笑った。


「さぁ! これで契約成立です。ではお互いこの国を守るために頑張りましょう! 道は違えども心は一つです!」

シドはコンスタンツ卿に声をかけた。

コンスタンツ卿もうなずく。


「さぁ! 契約成立の握手をしましょう」

シドがそう言うとコンスタンツ卿はシドと握手をした。周囲から巻き起こるまばらな拍手。それを聞きながらシドはほくそ笑んだ。



「なぁ! 良いからヤラせてくれよ!」

同時刻、天空の大鷲団のカシムが城の侍女に覆いかぶさっていた。

ここは城の一室。誰も入ってくることがない物置だ。


「駄目だよ。カシム。妊娠したらどうするの? 私たち恋人同士でもないのに」

侍女が言う。


「バカか。もう国が滅ぶかもって状況でなに心配してんだ。俺もう興奮して仕方ないんだよ。早くケツ出せよ」

カシムがズボンを脱いで自分の股間を侍女に見せながら言う。


「そうだね。良いよ。カシムおいで」

侍女はそう言って笑うとカシムを受け入れた。狭い城の一室。二人の男女の吐息だけが聞こえていた。


死ぬ前に本性を剥き出しにして性行為をする二人。


「ねえっ……カシム! あっ……あっ……子供出来たら……結婚してくれるって」

侍女がカシムを抱きしめながら言う。


「ハァ!……分かってるよ! ちゃんと結婚するから! だからちゃんと喘いでろって」

カシムは言う。


「あっ……はっ……ちゃちゃんと私たち……生き残ったら……ぜ、絶対幸せになろうね。カシム」


「あぁ! 結婚でもなんでもしてやるから! 」


お互いのこれからの運命を知らない二人は一時の快楽に身を震わせていた。



リザードマンのジャムディは一人城の廊下を歩いていた。ジャムディはコンスタンツ卿とシドのギアスを契約させた天空の大鷲団の術者だ。廊下にコンスタンツ卿がいた。コンスタンツ卿はジャムディに目配せをする。


ジャムディとコンスタンツ卿は小さな小部屋に入る。そして小声で話し始めた。

「お前の言った通りだったな。まさかシドの方からギアスを提案するとは思わなかったぞ。よくやった。ジャムディ」

ヒソヒソ声でコンスタンツ卿は言う。


「はっ! もったいないお言葉……」

ジャムディは答える。


「やはりあのシドという男。この王宮に存在してはならぬ癌よ。至急取り除かなければならない。それには汚い手段も使うしかあるまいて」

コンスタンツ卿は言う。


「おっしゃる通りです」

ジャムディは応える。


「で、ギアスの契約書に細工は施したか?」

コンスタンツ卿は聞く。


「はい。ご安心を。間もなくシドは破滅します」

ジャムディは答えた。



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