使い魔にギアスをかける?
俺がミラーカを追いかけていくと……そこには露天風呂があった。暗闇の中松明の火だけが周りを照らしている。というか大分暗い。
「ふむ。なかなか雰囲気があるな」
ミラーカは言う。
「あぁそうだな」
俺は答える。
すると躊躇なくミラーカは服を脱ぎだした。俺は思わず目をそらす。
「キミも脱げ」
ミラーカは一糸まとわぬ姿で俺に言う。
「あ……あぁ」
俺は目をそらしながらうなずいた。露天風呂は手頃な狭さで壁に囲まれており、美しい庭園があった。
俺はミラーカがかけ湯をしているのを見た。見たと言っても暗すぎてほとんどなにも見えなかったが、音と動きだけでなんとなくだ。
「緊張するな。この暗闇だ。少し離れたら見えない」
ミラーカはそう言って露天風呂に入った。
確かにこの露天風呂は暗すぎてお湯の中に体を入れるとミラーカの体はもう全然見えなくなった。
まるで墨汁のお湯の中に体を入れているように見えた。
「遠慮するな。キミも入れ」
ミラーカはそう言うと俺に入浴を促した。
「あぁ。分かった」
俺はそう言うと一歩足を前に出した……と思いきや、うおっ! ヌルッっとしたものに足をとられて滑り俺は転んでしまった。
バチャーーン。思いっきりすっ転んでしまう。
「いたたたた……」
俺のその姿を見てミラーカはケラケラ笑っている。
「はずっ……」
俺は立ち上がるとお湯の方まで歩く。確かに暗すぎてお湯の中に入っているミラーカの体はほぼ見えない。顔と肩だけがかろうじて見えている。すると脳内から
「暗闇による視界不良のため、安全に支障が出ています。スキル『夜目レベル1』を獲得します」
するとスッっと視界が広がる。暗闇がまるで昼間くらいとまではいかないが大分周りが見えるくらいになった。夜目のスキルでちょうど日が昇る前くらいの視界になっている。
「あぁこりゃいいや……うおっ!」
視界が良好になったせいか、お湯に入っているミラーカの体がさっきより鮮明に見えてしまう。
「ヤバイ……ヤバイ……」
俺は目をそらした。するとミラーカはお湯の中で泳ぎだした。背泳ぎのような格好で空を見上げて泳いでいる。
「うおっ! ヤバイヤバイ……見える」
俺は目をそらす。
「クロード。この位置から星がよく見えるぞ。こうやってプカプカ浮いていると最高だぞ」
ミラーカは露天風呂の比較的暗いところで背泳ぎの要領で浮かんでいる。俺がこの謎タイミングで夜目スキルを獲得したとも知らずに。正直そっち側に目を向けると丸見えだったが、俺は恥ずかしさのあまり目をそらした。
「いや……俺は流石に……」
俺は横を向く。
「良いから来い。これを見ないともったいないぞ」
ミラーカは俺に声をかけてくる。
「ああ……」
俺はそう言いながら手で視界を隠しながらミラーカの元までザブザブとお湯の中を歩いていく。そしてミラーカの近くまで来て、体をお湯に浮かべた。するとその位置からちょうど良く星々が見えた。思わず息を呑む。
「女将が言ってた、二人で楽しんでこいってこう言うことだったのかもな」
ミラーカは俺の隣でそう言う。
「うん。そうだね。これは凄い……」
俺は言葉を失う。空には満天の星々。ただ光り輝いているだけじゃなく、星の色まで見えるほどクッキリ見えていた。空はただの暗闇ではなくて緑色や赤色などの色のついた星雲が見える。
こんなふうに夜空を見上げたことはあまりなかった。考えてみればシドのクランに入ったあたりからこき使われて空を見上げようとも思わなくなっていた。人間らしい生活からは大分遠ざかっていた気がする。
ふとミラーカが俺の手を握ってきた。
「ミラーカ?」
俺は聞く。
「何故かこの夜空に落ちてしまいそうな気がしてな。不安なんだ。手を握っててくれ」
ミラーカはそう言う。本当にその表現通りだった。空に広がるのはただの暗闇ではなく暗闇に沈む生命の海だった。
俺はそのミラーカの想いに手を握り返して答える。
「ところでクロード」
ミラーカが俺に言ってきた。
「ん?」
「ボクは夜目が効くんだ。だからずっとキミの裸が見えていた。ごめん」
ミラーカは言う。
「ええええええええ!!! てかゴメン。俺も見えていたんだ」
俺はついでにカミングアウトした。
「嘘だろ! クロード! お前!」
急にミラーカが怒り出した。そして俺の顔にお湯をかけてくる。
俺らはそんなやり取りをしながらお互いにお湯のかけあいをしていた。
◇
俺たちは部屋に帰った。俺はベッドに腰掛けるとガクッっと意識が落ちそうになる。急激に睡魔が襲った。
「いい風呂だったからな。それと魔法の使いすぎだな。魔法の利用はしばらく控えた方がいい」
ミラーカはベッドに腰掛けながら言う。
「だけど心配で……明日になったら故郷に帰らないと。妹や家族が危ないんだ」
俺は言う。
「仕方ないな。では今日帰りたまえ。魔王術を使ってな」
ミラーカは言う。えっ? 魔王術を使って帰る? どういうことだ。
「ファミリアライズという魔法がある。今のキミには使えるハズだ。使い魔はキミの目と耳代わりだ。使い魔をキミの故郷に帰らせ家族を守らせるんだ」
ミラーカは言う。
「使い魔を帰らせる? 俺はそんな高度な魔法なんて使えないぞ」
俺は言った。
「出来るハズだ。ファミリアライズはある存在を隷属化して使い魔にする。契約を強制するギアスを使ってな」
ミラーカは言う。
ギアス……ゲッシュとも言うが魔法を使う際の契約だ。お互いの同意の元契約をする。契約を破った場合、ペナルティが与えられる。そのペナルティもお互いが契約によって決めたものだ。
隷属化?……俺はミラーカを見る。まさか?
「え? 隷属化ってミラーカを俺の使い魔にしろってこと?」
俺は聞いた。
「ふざけるな! ボクはヴァンパイアロードだぞ。人間ごときに隷属させられてたまるか……あれだよ。隷属化させるのは」
と言ってミラーカは壁に立てかけてあるガヴォイセンの槍を見つめた。
「まさか……槍を使い魔にするのか?」
俺はガヴォイセンの槍を床に置いてミラーカに聞いた。
「そうだ。それが魔王術の真骨頂。魔力の変換だ。キミはブラックドラゴンのガヴォイセンを強力な槍に変えた。ならば再び動くドラゴンの姿に戻すことも出来るハズだ。しかも使い魔となって動かしやすい姿にしてな」
ミラーカは言う。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。ミラーカの言うとおりかも知れない。妹が危ない。なら今やるべきだ!
「よし分かった。やってみる」
俺はガヴォイセンの槍を床に置く。
そしてその意識をその槍に集中させる。槍にある構成要素を認識把握分解して……っ!
俺は全身に強烈な痛みが走った!
「どうした。大丈夫か。クロード」
ミラーカは言う。
「そのファミリアライズというものをやってみようとしたが……全身の魔術回路が悲鳴を上げてるみたいに痛みだして……無理だ。魔法が発動出来ない」
俺は言う。
「そうか。やはり……魔法の使いすぎか」
ミラーカは言った。
「では私の魔術回路を使え」
ミラーカは言う。
「えっ? どういうこと? 人の魔術回路を使うなんて無茶苦茶だよ。そんなの無理だよ」
俺は言う。
「いや、出来るハズだ。魔力を私の魔術回路に合うように変換しろ。それを可能とするのが魔王術だ」
ミラーカは言うとミラーカは服を脱ぎだした。
「うわっ! ちょっと」
俺は見ないように別の方向を見る。
「大丈夫だ。見ろ」
ミラーカは言う。俺は恐る恐る見た。するとミラーカの艶めかしい背中がそこにはあった。病的なまでの白さ。痩せているわけではない。微妙な贅肉が程よくついている。美しい背中。俺は思わず見とれた。
ミラーカは手で自分の胸を隠すように持っている。
「ここがボクの魔術回路が集中している場所だ。背中に手を触れボクの魔術回路を使うんだ」
ミラーカは言う。ロウソクの炎に照らされたミラーカの背中。俺は思わず息を呑む。
「どうした? キミは女に触れたことがないのか?」
ミラーカは聞く。
「いやっ! ちがっ! そういうことじゃなくて……」
俺は赤面しながら言う。
「まさかキミは童貞なのか?」
ミラーカは聞いてきた。
あっ……うん。その通りだけど。それがなにか関係あるのか?
「なるほどな。良いことを聞いた。では恥ずかしがらずに早く触りたまえ。お姉さんが手ほどきをしてやろう」
と傍から聞いたら誤解されるような言葉でミラーカは言う。
俺は急に照れだした。
「でもさ、そういうのってやっぱさ。好きな人同士じゃないと駄目なんじゃないのかなって。背中とかに触るのって」
俺は赤面しながら言う。
「構わないよ。でも、君が初めてだよ。ボクの背中に触ることができるのはね」
ミラーカが妖艶な笑みを浮かべてそう言う。
俺は意を決してミラーカの背中に手を当てた。そして魔力を送り込む。
「うぅっ!」
ミラーカが苦しそうに言う。そして
「新しい魔力回路を検知しました。接続しますか?」
脳内で声が聞こえた。
俺は
「頼む!」
と答えた。すると
「同期しています」
と脳内で声が響いて。俺の中の魔力が急激にミラーカに流れ込むのを感じた。
「あっ……がっ!」
苦しそうに呻くミラーカ。だがここで中止するわけにはいかない。俺の体が2つになったかのような感覚になる。これは行ける!
「新しい魔力回路との接続により、ファミリアライズの魔法が発動できます。発動しますか?」
脳内で声が響いた。
「頼む!」
俺がそう言うとガヴォイセンの槍が黒い影に包まれたようになった。そして次の瞬間その黒い影はガヴォイセンの槍ごとギュっと球体になり、槍を飲み込んだ。
そして紫電を放つそのブラックホールから小さな黒いドラゴンが一匹出てくる。そしてそのドラゴンは言った。
「よくもオイラを閉じ込めてくれたなぁ! 絶対許さないからな!」
◇
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