魔王術って一体なに?
「魔王術って一体なんなんだ?」
俺はヴァンパイアロードの少女であるミラーカに聞いた。
「クロード。キミが使った能力だよ。魔力そのものを操る能力。キミがブラックドラゴンの光弾を吸収し自分の魔力としたその力のことだよ」
ミラーカは言った。
俺たちは街の方まで歩いていた。俺は服装もブラックドラゴンに燃やされボロボロだったし、何より空腹だった。それに疲れ果てていた。
「それで俺が魔王だって?」
俺はミラーカに聞いた。
「あぁ。そうだ。ボクの役割はキミをある人のところに連れて行くことだ」
ミラーカは言った。
「ある人のところ?」
「キミにはそこでその女性の求愛を受けてもらう。そして子供を作ってもらう。予言によるとその子供が魔界を救う最強の魔界の英雄になるんだ」
ミラーカは言った。
◇
俺たちは街に着いた。まだ俺たちが逃げ出したと知られていないようで指名手配の張り紙も貼られていなかった。
「ミラーカ。俺は悪いけどその人のところに行かないよ」
俺は言った。
「どうしてですか? うら若き体を持て余した魔界の姫君ですよ」
ミラーカはビールをあおりながら言う。まるで売春宿の主人のような台詞だ。
ここは街の酒場だった。多くの人たちが酒を飲んで談笑している。ガヤガヤと騒がしいくらいだ。
俺は店員から出されたローストチキンを手で食べながら言う。
「俺一応人間だよ? そんな俺がなんで魔界の英雄を産むために一役買うんだよ」
俺はチキンをムシャムシャ食べながら言う。
「ぷはーーー!! 人間の作るビールは美味いなぁ!! 悪魔的だな!」
とヴァンパイアロードのミラーカが言った。
「あの……聞いてる?」
俺は不安になって聞く。
「聞いてますよ。クロード。あなたがそうやって拒否するのも予言のうちです」
ミラーカはフォークで肉を食べながら言う。
「いや、俺の意思は……」
「しっかし、そのガヴォイセンの槍。目立ってしょうがないですね」
ミラーカが言う。
確かにこの禍々しい槍のフォルム。なんていうか明らかに魔槍だった。しかもドラゴンの口を模したような槍の穂先は微妙に光っていた。しかも槍から若干うめき声が聞こえる。
「すいません!」
俺は店員を呼び止める。
「このグリフォンのステーキとゼリーフィッシュの甘露煮、それと世界樹もどきのサラダ。あとエルダームール貝のワイン蒸しお願いします」
俺は言った。
「あ、はいっ! かしこまりました! ですが全部食べられますか?」
女性店員は俺に聞く。テーブルには食べた後の食器がうず高く積まれていた。俺は席につくなり5人分の食事をもう平らげていた。
「大丈夫です。まだまだお腹空いてるんで」
俺がそう言うと店員は引いたようにその場から立ち去った。
「ふぅーー」
俺もビールをあおる。だが全然酔えない。何杯かビールを飲んだハズなのに全く酔えなかった。しかも普段の5倍くらい食事を食べているのにまだ食べられる。
「クロード。キミの肉体に変化が起きているんだ。本格的に魔王に覚醒するための変化がな。今のキミの体は魔物に近い」
ミラーカは言う。
「えっ?」
俺は言った。いや、完全見た目人間ですけど。確かに食欲がヤバイことになってるが。
「ブラックドラゴンの強力な魔力を浴びたせいでキミの力は覚醒したんだ。今まであれだけ強烈な魔力を一身に浴びたことはあったか?」
ミラーカは俺に言う。
「確かに……ない」
つまり眠っていた俺の能力がブラックドラゴンの光弾を浴びることによって強制的にこじ開けられたということか。
「いや……」
しかし、信じられない。自分の中にそんな能力が眠っていたなんて。
だが
「まずは妹を助けに行かないと」
俺は言った。
「妹?」
「あぁシドに言われたんだ。お前の妹を可愛がってやるって」
「いいじゃないですか。可愛がってくれるんでしょ?」
「いや、そう言う意味じゃなくて! 分かるだろ! ミラーカ。……この街からどれだけ急いで歩いても妹のいるヴァリュレーの村まで一週間はかかる。ビクトリアの転移魔法は今日もう使えないから……妹が処刑される前にヴァリュレーの村まで行かないと! 明日出発だ!」
俺は言う。
「いえ。それは困ります。それにクロードがその村まで行く必要はありません。魔王術を使えば……」
「キャーーーーやめてください!」
女の子の叫び声がした。ミラーカの言葉は途中で遮られる。俺は思わずそっちを見る。
「いいじゃねぇか! 触らせろよ! 俺たちは死にものぐるいで戦って来たんだ」
下品な男の声がする。
「そうだそうだ! こんなシケた酒場でケツをプリプリしてるだけで金が貰えるなんてなぁ! 随分楽な商売だなぁお前! オイ!」
男たちがそれを聞くとギャハハと笑いだした。
うわぁ……なんだこれ……
「場末の酒場ってこんなに酷いのか」
俺は言う。
「ボクは知らないよ。人間はあぁいうのが好きなんだろ? 自分の鬱憤を人にぶつけるのがさ」
ミラーカはそう言いながらビールをチビチビ飲む。
「おいーー! 早く持ってこい! いつまで待たせてんだよ! ったく俺がこうやって指導してやらねーとこの店駄目になっちまうぜ」
「全くだぜ。俺らがこの店の店員の怠け根性を鍛えてやってんだよな」
すると客の男たちの下品に笑い合った。
セクハラをされた女性店員は泣きじゃくっていた。
「いっイキナリお尻を触られて……」
「大丈夫だった? リナ。可哀想に」
女の子同士で慰めあっている。
「あのぉ。そこの酔っ払ってる人」
俺は声をかけた。一瞬、下品に騒いでいた男性客が静かになる。
「人に嫌がらせはやめませんか? ここはみんなで楽しくお酒を飲む場所ですよ」
俺は笑顔でそう話しかけた。すると男たちは一瞬黙ったが、それを聞いて
「ギャハハハハハハ!!!」
と笑いだした。
「……なんか俺おかしなこと言ったかなぁ」
俺は言う。
「おかしいのは明らかにあいつらでしょう」
ミラーカは冷静に言った。
するとその騒いでいた男たちの数名か俺のところにやってきた。そしてその内の一人が俺の肩に手を回して言った。
「なぁ兄ちゃん。文句あるのか?」
酒臭い息でそう言った。
「みんなで楽しくお酒を飲みましょうって言っただけですけど」
俺は言う。
「あぁ? 俺は楽しくねぇんだよ! お前のイチャモンのせいでなぁ! お詫びとして愉しませろよ」
酒臭い息を吹きかけ男が言う。
「ん? てかお前らが悪いんだろ? 店員の体を触ったのお前らだろ? 言われても仕方ないだろうが」
俺は言った。
「悪いのはお前らだじょーー」
酔っ払った男が下品な声で俺の声真似をする。
すると男たちはギャハハハハハハと笑った。
流石に俺はこれにキレそうだった。
「オイお前ら全員殺すぞ。消えろ」
氷のように冷たいミラーカの声が響いた。俺は思わず背筋がゾクッっとした。
「おっ? なんなんだ? この遊んでほしそうなお姉ちゃんはぁ? そんなにオジサンのこと好きなのぉ? おじさんとHしたいのかなぁ?」
と言って舐めた口調で男の一人がミラーカのところに近づく。強烈な殺気を放つミラーカ。
すると床に落ちていたミラーカの影が生き物のように動いた! そのミラーカの影はミラーカを侮辱した男の影に襲いかかり首筋をガブリと噛んだ。
「痛っ!」
首筋を押さえる男。
「おっ? どうした?」
「あっ! 血だ。急に首が噛まれたかと思ったら……」
バーーン!!
男はバタンと倒れた。
「おい、どうした?」
倒れた男に駆け寄る酔っ払った男たち。
「おい! ニコル!」
「おい、息してねーぞこいつ」
「え? 嘘だろ?」
ザワつく男たち。
「死んでるよ。そいつ。さっき殺すって言ったじゃん」
ミラーカは事も無げにそう言った。
「えっ?」
「あっ!」
まさか命のやり取りになるとは思っていなかったであろう男たちは狼狽する。
すると
「あっあっ! アニキーーー!」
「アニキーーー!」
「ヤバイことになりました! アニキ!」
とその男たちは立ち去っていった。
残される男の死体。
俺は倒れている男の状態を確認する。まるで糸が切れた人形のように動かない。死んでいた。
「何も殺すことないだろ?」
俺はミラーカにそう言う。
「なにを言ってるんだ。あいつらはこのボクを侮辱した。家畜ごときがこのボクをだ。家畜に嘲笑われたたらそりゃ殺したくもなるだろ?」
そう言って俺を見つめてくるミラーカ。うぅ……忘れていた。やっぱりこいつは人間を主食とするヴァンパイアロードだ。ヴァンパイアにとって人間は歩く新鮮な血にしか過ぎない。
「おい、どうした! どうした! おい! なんだこの死体は!」
ガタイの良い男が俺たちに声をかけた。
「オイ、やってくれたな! 俺らの仲間を殺すなんてな! どういうことか分かってんのか!」
そうガタイの良い男はそう言った。
「アニキやってください!」
「ガイウスさん! お仕置きしてください!」
取り巻きの男どもが言う。このリーダー格の男ガイウスと言うらしい。
「うおっ! この女ヴァンパイアじゃん! ヤバイ……」
ガイウスはミラーカを見つけると正体を見破ったのか小声でそう言った。するとヴァンパイアでなく人間の俺に怒りの矛先を向けてきた。
「オイ! お前表出ろ!」
俺にブチ切れてくるガイウス。
「違いますよ! アニキ! 仲間をやったのはその女の方です!」
と取り巻きの一人が言った。
ガイウスはミラーカを見た。ミラーカはビールを飲みながら爬虫類の目でガイウスを見つめている。
ビクッ! その目に見据えられてガイウスはビクッっとする。
「ちげぇ! こいつは自業自得だ!」
ガイウスは言った。
「アニキ?!」
「ヴァンパイアに喧嘩を売ったんだ! 殺されて当然だ! 悪いのはこいつだ!」
と言って死んでいる男を蹴り飛ばした。
「だが! お前だけは許せねぇ! こいつ! 黒龍団のメンツにかけてお前だけは死んでもらう!」
と俺を睨みつけて敵意を向けてきた。
「なんでだよ。そこの女の子にビビってんのかよ」
俺は言うと
「ビ、ビってねぇ! 俺がビビってんのはこいつのバックについている魔族の報復だ! こいつのことは大してビビってねぇ!」
ガイウスはそう言う。
「ビビってんじゃないですか! アニキ」
「ビビリ散らかしてんじゃないですか! アニキ!」
取り巻きたちから突っ込みが入る。
「ではボクは魔族たちに報復しないよう伝えるよ。それならボクと殺し合ってくれるね」
ミラーカは舌なめずりしながらそう言う。
「ご、ごめん。ちょっと言葉の意味が分からない……」
挙動不審になったガイウスは目を泳がせる。
「アニキ!」
「どうしたんですか! アニキ! 報復されないらしいっすよ! アニキの力見せてやりましょうよ!」
取り巻きが言う。
「ふざけんな! お前だけは! お前だけは! 許さねぇからな!」
と言ってまた俺に怒りの矛先を向けてきた。
「俺のレベルを知ってるか!」
ガイウスは上半身の服を自分でビリビリに破き出した。
「俺のレベルは……レベル6! 筋力は30だ!」
ガイウスは筋肉を強調するポーズを取りながら言う。筋肉がムキムキだ。
「すげぇ! アニキ! 筋力30!」
「アニキの決め台詞!!!」筋力30!
「流石! 筋力30!」
「筋力30!」
「筋力30!」
「筋力30!」
「筋力30!」
と筋力30コールが鳴り響いた。
「で、お前のレベルと筋力を言え! んーー? 恥ずかしくて言えねぇだろうなぁ」
ガイウスは言う。
筋力? 俺の今の筋力は分からない。レベルアップしまくったらな。少なくともレベル6ではないハズだが。
「魔王術の使い手なら自分のステータスを見れるハズだ。鑑定士の力無くしてな。クロード。このお遊びに付き合ってやれ」
ミラーカがそう言う。
ステータス……自分で見れるのか。そう思ってたら脳内で声が響いた。
「ステータスを確認しますか」
女性の声だ。
「あぁ! 頼む」
俺がそう言うと
目の前にステータスウィンドウが現れた。
クロード・シャリエ 魔王 レベル32
最大HP……420
最大MP……388
筋力……210
体力……285
素早……320
魔力……532
幸運……450
スキル
パッシブスキル
『自動回復レベル2』
『光・火炎耐性レベル4』
『マジカライズレベル2』
アクティブスキル
『マテリアライズレベル2』
俺は自分のステータスを確認した。
「レベル32の筋力210だけど」
俺は言った。
すると
「えっ? えええええええええええ!!!!!」
とガイウスたちが叫び声をあげた。
◇
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