3-7 愛が重いと書いて一途と読んでくれ
メーデーメーデー。
こちら和泉春色、現在、同級生の男子(イケメン)に思いっきり抱きしめられている上に、どうやらこの男子泣いている模様。至急、対処法を求む。
僕はあまりの急展開についていけずにフリーズしながらも、陸前くんが「お気に入りの髪を切らなかったんだろうな」とか訳の分からないことを言い出してから少しずつ理解する。
つまり、この人は僕が女だって気付いてたってわけで…
しかも、僕が昔よく遊んでいたミサキくんが陸前くんってわけで…
混乱しながらもどうにか泣き止んで欲しいと思いながら背中を恐る恐るポンポンすると余計にぎゅうって抱きしめられる。そろそろ内臓出そう。
「えっ、だって、ミサキくん…名前…」
とりあえず僕の幼なじみはミサキくんだったはずだ。マソラくんではなかった。
すると、落ち着いてきたらしい陸前くんがあー、と答えてくれる。
「…春色はずっと名前だと思ってミサキって呼んでたのか。苗字だよ、岬真空だったんだけど、親の離婚で陸前真空になった」
「えっ、離婚…なんかごめん…」
「いや全然。俺は両親どっちもと普通に会ってるし」
無神経なことを聞いたかもと謝るとあっけらかんとした返事が返ってきてほっとする。
それにしてもミサキくん、完全に名前だと思ってた。僕自身の名前も不思議な音だし、六花兄さんは女の子みたいな名前、鳴海も祐姉さんも男の子でも使えるような名前だから、ミサキって名前にも全く違和感なかった…そうだったのか。
そう。これが入部初めの時に僕はこの部に向いてないと祐姉さんにわめいてた最たる理由。僕の秘密。
モブ系主人公になんてなれるわけなかったのだ。…僕は性別を偽ってこの学校に通っている。
小学生の頃不審者に捕まりそうになった。
かなり、考えていることが口から漏れるタイプだったようで、ロリの肌が何とかだの、長い髪が何とかだの、可愛い顔が何とかだの、スカートがヒラヒラしてて何とかだの…
とにかく息を荒くしながら褒め言葉をねっとりと告げて、僕に手を伸ばしていたあの姿が忘れられなくなってしまった。
要はトラウマである。「女の子として自分を見られること」「女の子らしさを褒められること」に恐怖を感じて、身体中震え上がり、すぐに嘔吐をしてしまう体質になった。
残りの小学生活は特別措置をしてもらって青空学級で乗り切った。友達も全てシャットダウンしていた…らしい。正直ここら辺の記憶はあまりない。記憶に蓋をしてしまっているのかもしれない。
不幸というのは続くもので、その直後両親が事故で亡くなってしまい、家では普通に出来ていた僕は、自分の症状は後回しにして、鳴海と六花兄さんに迷惑をかけないように気丈に振舞った。
そんな僕を見かねた祐姉さんは親戚のおじさんがやっている中高一貫校を勧めてくれ、僕を入れてくれると言った。幸運すぎるその話に一も二もなく飛びついた僕は兄さんたちとも相談し、男子として入学することが決定した。表面上だけでもお荷物ではないと、中学高校にしっかり通っているという体裁を整えたかったのだ。
…今思うと姉さんが教師でさらりと入ってこれたのもおじさんの力だよな。
初めから学校のみんなを騙しているという罪悪感、その犯人への恐怖と怒りなど、全てを発散させるべく、狂ったように護身術を習った僕は少し強くなって1年も経つと自信がついてきた。その頃に承認欲求が高まり、困ってる人を助けて回ってしまっていたってわけ。自分の思う「親切な男の子像」に従って…。認めよう、かなりやりすぎてた。結果が今日のこの拉致である。反省しかない。
今ではかなり落ち着いている。まだフリルがついているような典型的女の子らしい服やスカートは着れないけれど、高校を卒業したら性別を偽るのだけはどうにかやめて生きるつもりだ。
それが…まさか僕が女だって陸前くんは知ってたなんて。まあ元から知ってたなんて反則技ではあるけど。
「…じゃあ初めから分かってたの?僕が、その、性別…」
「ん?ああ。性別も名前も知ってた。高等部の外部受験だったんだが」
あー、うん。知ってる。死ぬほどイケメンが入ってきたって女子たちが色めき立ってた。
「本当は高校入学当初すぐに会いたかったんだけど」
「え?そうなの?」
そうなら嬉しい。僕も会いたかった。1番仲良しだった自覚はあるし、何よりお別れが言えなくて寂しかったから。
そう思ったのに対する陸前くんの顔はまた曇っていく。
「…でも無理だった。俺のせいだから合わせる顔がなくて」
「…?何が?」
本気で分からず首を傾げると陸前くんはあの日からの身の上を簡単に語ってくれる。
…どうしよう、僕が勝手にるんるんと路地にいただけのことを、ここまで罪の意識を持って背負ってくれているとは思わなかった。
「陸前くんのせいじゃない。絶対。それだったら僕のせい…っていうかそれもなしで。悪いのはあのおっさんだよ」
「でも、俺が…」
「シャラーップ!これ以上言い続けるなら僕もネガティブモード入って僕のせいで陸前くんの心に傷を負わせた…ってやりまくるよ?いいの?」
「…良くない」
「でしょ?じゃあここでおしまいね!…それに、僕は陸前く…ミサキくんとの思い出は何ひとつとして嫌なことなんてないし。…私、も。ミサキくんに会えなくなって寂しかったからこうやって会えて嬉しい」
正直に告げる…が、うわ、数年ぶりの「私」…!なんか知らないが死ぬほど恥ずかしいぞ…!事件後からずっと一人称を僕にしていたせいで既にそれが定着しつつあるようで違和感が半端ない。
でも同時にこれはちゃんとあの日の続きの自分として伝えなきゃいけないことだからな。と思う。
するとまた一瞬泣きそうな険しい顔になった後に
「俺もずっと、はるがいなくて寂しかった。会えて嬉しい」
ニカッと笑った陸前くんは、確かに記憶の中のミサキくんによく似た顔をしていた。
お互い落ち着いたので少し、気になってたことを聞くことにした。
「ていうか、陸前くん見た目めちゃくちゃ変わってない…?昔ひょろひょろ…というか美少年ってタイプだったのに…」
「力がないとお前を守れないって思ってたから、すげぇ鍛えた」
…ん?
返ってきた答えに首を傾げた。
主従ごっこ云々はかつて僕を守れなかった罪悪感からの守らなければという強迫観念からの口実だったのでは…?
「昔約束してただろ。春色が姫で俺が騎士って。ずっと守ってやるって」
確かにしたね、姫ごっこ遊び。
「でもお前今は男として学校通ってて、大っぴらに姫と騎士って関係を言うわけにいかないから。姫を主、騎士を従者に置き換えたってだけ。だから本質は姫と騎士だか安心していいぞ」
安心って何を?とますますスペキャ顔になる。
…まさかと思うけど陸前くん、
「あの日ここで誓った時からこの命は春色のものだ。この命尽きるまでこの誓いは違わない。今回も不甲斐ない騎士ですまなかった。次は必ずお役に立ちます。」
そう言って跪く陸前くんに僕は辛うじて
「アッ…」と言葉を漏らすことしか出来ない。
陸前くん、かなり本格的に、拗らせてる人だった…!
「それと今は誰の告白も受けるつもりは無いと言っていたと柏原先生からは聞いているけど」
「…俺はお前が好きだ」
「エ、ッ?!」
今の流れは告白とかしないから安心してね!の流れでは?!急な告白にまもとな返事ができない。
「返事は断る方なら返さなくていいぞ?はい以外の返事は受け付けないし、何度でもするから」
はい以外の返事は受け付けないって何それぇ…。
その後すぐに残りの漫研メンバーも突入してきてこの返事は有耶無耶になってしまった。
…みんなが来るのわかっててあのタイミングで告ったとかない…よね?
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