2-余談(1)

 急に呼び出してなんだ、柏原教員。…個人面談?ああ、そういえば言っていたな。時折呼び出して録音をしながら色々とインタビューをさせて欲しい、と。それが貴女がこの部に俺たちを入れる条件のひとつだった。

 良いだろう、少し待て。三枝に迎えを遅らせるように伝える。

 ん?そこまで時間はかからない?それでもだ。一分一秒だとしても連絡もせずに遅れるなんて不始末、この俺がするわけにはいかないからな。


 …待たせた、良いぞ。何が聞きたい。

 入部してから今までの感想、か。

 悪くない。クラスも遠く、接点もなかった和泉とこうして友のような距離で対峙できるとは。むしろ感謝をしてやってもいいくらいだ。この部が貴女の仕事、いや娯楽のためとは知っているが。


 だがしかし柏原教員、他のメンバーはどうにかならないのか?あいつらが和泉の美を消費しているのは俺としては好ましくないのだが。あまりをしているやつがいない。かなりうるさい色をしている。

 …ん?なんだ、事前に伝えているだろう。俺は他人の感情や性格に色がついて見えるのだと。世間で言うところの共感覚というやつなのかは知らん。俺のこれは、俺だけのものだ。


 ああ。もちろん和泉の色はとても好ましい。これを他人と共有できないのは口惜しくもあり優越感もありというところだが。見たことのない色をしている。

 たまに色が滲む時があるが、何かを隠している…恐らく俺たちとまだ打ち解けきっていないから気後れしている気持ちを外に出さないように努めてくれているのだろう。優しさに溢れた美しい色をしているから。早く俺だけにでもいいから慣れて欲しいものだ。


 色のことで美しいと言っているのかって?いや?そんなはずないだろう。俺は和泉に救われて、和泉の美しさを知ったのだから。

 何をされたかって?なに、ただ人々の色酔いをしていたところに偶然通り掛かった和泉が心配して声をかけてくれたというだけだ。

 和泉本人もあの様子だと俺の事など覚えていないだろう。それくらい他愛もない一瞬のことだ。…なんだ、悪いか?貴女のお眼鏡に適うようなネタではなくて申し訳ないな。

 …言っておくが、心配や親切心だけで他人に声をかけれるというのはものすごく稀有なことなんだ。俺がこの目を通し、身をもって知っている。


 まあいい。あの日のことについてとやかく話すつもりはない。まだ入部して1ヶ月も経っていないんだ。そこまでインタビューで話す事がある訳でもないし、感想は「悪くない」の一言で十分だろう。


 先程も言ったが、メンバーの再考はしてもらいたいものだ。陸前はまだマシな部類かと思うが、たまに見たことのない色になる時があって少し恐ろしい男だ。浅木はああも大人しそうに見せてはいるがかなり偏って硬い色をしているし、河合の色はかなり尖っているから和泉が苦労するのは目に見えている。特にあの新入部員の女は良くない。あれは重苦しい色をしている。万が一質量を増したら貴女の再考を待たず、和泉を押しつぶす前に俺が排除するが構わないだろうな?

 友人N…忘れていたな。ん?NはNだが。ここ数日で和泉の宿題を移そうと目論む度に降格していたらここまで下がってしまってな。一気にZまでいかないだけ優しく接しているつもりだ。あれでも和泉の親しき友らしいのでな。

 あの男は、まあ大丈夫ではないか?ちょうど貴女と似た色をしているよ、柏原教員。


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