2-4 優しさは基本、自己防衛の偽善という持論

 というわけで放課後。

 祐姉さんが[僕に会いに来た後輩女子]なんてネタを逃すはずもなく。

 部室に呼び出された僕たちを待っていたのは…


「…お前たちの予想通り、早速新入部員だ」


「狩衣美月です、よろしくお願いします…」


 祐姉さんと祐姉さんに連行されたっぽい狩衣さんだった。知ってた。

 部室は昨日の今日だというのに既に九条家の手が入っており、かなり設備が整っている。お茶や菓子なども取り揃えられていて既にラウンジの域だ。


「急ごしらえだ。数日中に完璧な空間にしてみせよう」


 などと九条君は言っているがこれが完成系じゃないの?もう良くない?


 祐姉さんの隣にいる狩衣さんはボリューミーなツインテールにまとめあげていた黒髪を今は2つの三つ編みに結び直しているせいか、先程とはだいぶ印象が違って見える。ツインテールも似合ってたけど三つ編みの方が顔の印象にあっている気がするな。

 僕の視線を感じたのか髪の毛を撫でつけながら、


「あ、えと、春色先輩に素のままの私でいいと言われたので。家でよくしてる髪型にしました…似合っていますか?」


 なんとも素直な子である。

 狩衣さんに頷いておきながら、祐姉さんに一応確認を取っておく。


「祐姉さん、狩衣さんを無理やり連れてきた…なんてことはないよね?」


 すると心外だと言わんばかりの顔をしながら「当たり前だ」と鼻を鳴らした。


「ちゃんとこういう分があるがどうかって勧誘したら狩衣が入りたいって言ったから連れてきたんだ。嫌々やらせても良い画が取れるわけないだろ」


 まあそういうところはしっかりしてるだろうとは思ってたけど。念のためちらりと狩衣さんにも視線を向けると、首を縦に振りまくっている。大丈夫そうだ。


「わ、私が春色先輩と一緒の部活に入りたいって言ったんです…!は、春色先輩は命の恩人なので…!」


「そんな大層なもんじゃあないよ」


 何だか誇大表現をされて肩をすくめる。僕が恩人に見えるくらい、どうやら昨日の体験は狩衣さんにとってかなり怖かったようだ。助けてあげれて良かったなと思う。


「私も危ない目にあったら、春くん助けてくれる?」


 浅木さんが小首を傾げながら聞いてくるので、そりゃ誰だって目の前で困ってたら助けてしまうだろうなぁと首を縦に振る。


「春くん優しい」なんて言われたけど、僕ってやつは割と面倒くさい性分で、なんというか見て見ぬふりが出来ない小心者なだけ。優しいとかではないのだ。


「初めまして、狩衣さん。仲良くしてね。私は浅木乙鳥、春くんと同じクラスで2年よ。春くんの奥さんになるのが夢なの」


 うおおう…。僕でもわかる、これはマウント取りってやつだ…!僕のことでマウント取ってもらってしまってるという申し訳なさは凄いけど、あからさまなそれに、本当にあるんだこういうの…!と僕は少しソワソワする。

 すぐ後ろで晋太が「本妻戦争暫定1位強ぇー」などと言っているのが聞こえる…いつの間にそんな順位つけてたの?

 もちろん目を輝かせる祐姉さんの手も止まらない。ネタ帳は早々に2冊目にいくのではないだろうか。


「萌も初めましてだよねっ!河合萌留だよー。うちのはるちゃん先輩ってすぐ厄介事に首突っ込んじゃうんだ。だからぁ、あんま命の恩人~っとかって気負わなくていいよっ!はるちゃん先輩にとって普通のことだからねっ」


 にこにことハートがつきそうな声で狩衣さんに話しかけながら手を握る河合ちゃん。それを見ながら晋太は僕の耳元で笑いを噛み殺しながら話しかけてくる。


「おおーっとこれは「あんたが特別なわけじゃないから勘違いしないでね新参者さん」っていう牽制でしょうか、解説の春色さん」


「いつの間に僕は解説にされていたんでしょうか、実況の晋太さん」


 そんな2人に狩衣さんは一拍置いて「えっと」と、きょとんとした顔をした後に


「春色先輩、こんな美人さんに囲まれてるなんて、やっぱり素敵な人なんですね…!えへ、そんな人に助けてもらえて幸運でした」


 にへらと笑った。


「…こいつぁルーキーがいちばん強いかもですぜ旦那ァ…」


 わざとらしくゴクリと喉を鳴らし額の汗を拭く真似をする晋太。絡みづらさがすごいのでキャラを定めてから喋って欲しい。

 …さっき狩衣さん、表情が変な感じだったけど気のせいかな。浅木さんたちの勢いに圧倒されちゃった?大丈夫だろうか。一応同じ部の部員同士気持ちよく過ごせるように気にかけておいた方がいいかもしれない。


「本当に女共は学習しないな。永遠と不毛かつ無駄な会話をしていて疲れないのか?和泉はお前らみたいな美しくない奴らは選ばん。というより俺が選ばせんからそのつもりでいろ」


 女同士の争いに終止符を打つべく九条くんがため息とともにずかずかと割り込んでいく。もちろん3人(2人?)からはブーイングの嵐で「そんな資格あなたにないと思うけど?」「ほんとそれですよ。九条先輩は引っ込んでてくださいー」「ええっと…選んで貰えるように頑張ります、えへ」などと言われてるが総スルーである。強心臓。

「まあまあ九条くん」ととりなしに入った晋太だが、


「誰だ貴様」


 という九条くんの一言にオーバーアクションで沈んだ。1人でも楽しそうな男である。


「ええーっ?!昨日仲間になった皆のサポートキャラ有川晋太ですけどぉ?!」


「知らん。…美しくないとか美しいとか特になくて…印象に残らんなお前」


「辛辣ぅ!」


「まあいい、和泉の友人A。喉が渇いたから紅茶でもいれろ」


「息するように使うじゃん!俺を!なに?!アッサム?!」


「ダージリンで」


 なんだかんだテンポよく会話してる2人。もしかして相性良いんじゃないか?

 不意に僕の背後に控えていたらしい陸前くんに「春色、」と声をかけられ、驚きで数センチ飛んだ。いつからそこにいた?気配なかったが?


「浅木も河合も中々だしあの狩衣って子も…。とりあえず主、出来るだけ俺と行動しような。どんなやつからも守るからさ」


 などと言われても正直ピンと来ない。陸前くんはあの子たちが僕の命を狙う殺し屋か何かだと思ってるのか。思ってそうだな…?

 とりあえず「ありがとう」と伝えておくと


「…分かってなさそうなんだもんなぁ、俺の主は」


 とやれやれ顔でため息をつかれてしまった。解せぬ。


 そういえば…せっかく狩衣さんが僕の呼び方を苗字から春色先輩って改めてくれて距離を縮める努力をしてくれているのだから、僕も河合ちゃんと似た感じに狩衣ちゃんとか呼んだ方がいいのだろうか。

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