1-閑話

 自分が集めた個性的すぎる生徒を下校させてから、祐は部室内に設置しておいた録音機を取り出した。


 副部長を決める…ある意味春色の隣に立つための最初の勝負だ。その会話がネタとして面白くないわけが無い。そんな美味しい場面を祐が逃すわけがなかった。しかし春色がその場にいたら全員何かしらセーブして喋る可能性がある。だから、祐は春色を連れて早々に部室を離れたのだ。

 確かに春色に課題を出したいって言うのもあったが本命はこちら。


 録音データを巻き戻して再生ボタンを押すと浅木の『…一応確認するけど。降りるって人は…そうよね、居ないわよね』という声がしっかり聞こえる。


「さーてと。楽しませてもらうか」


 祐はメモ帳を開いてにんまりと笑った。


ーーーーーー

「…一応確認するけど。降りるって人は…そうよね、居ないわよね」


「当たり前のことを聞いてどうする。お前が降りるというのなら話は別だが」


「萌は副部長ってのはどーでもいいんだけどぉ。はるちゃんの何かを賭けた勝負を降りるとかありえないっていうか~」


「俺もそんな感じだな。じゃあ全員参加ってことで」


「適任ってことを考えると春くんをしっかり支えられる人がいいと思うの。私とか九条くんはほら、そういうの慣れてるけど。陸前くんはあまりなにかの代表とかやってきてないだろうし。2年生の私たちがいるのに1年生の子に任せるって言うのも…ね?」


「萌に標準定めて喧嘩売ってますね浅木先輩?なんですか?はるちゃんに唯一ちゃん付けで呼ばれてて妬ましくなっちゃったんですかぁ?」


「そんなことは気にしてないわ。そのうちつばめって呼び捨て来てもらう予定だもの」


「うわー。妄想乙。っていうかぽっと出が春くんなんてあだ名で呼ばないでくださいよ。距離感バグってるんですかぁ?」


「あら、距離感がおかしくて、これから春くんを困らせそうなのはあなたの方だと思うけど?もう高校生なのだから少しは落ち着かないとね。でも河合さんはまだまだ可愛らしいお子様みたいだから、無理かしら」


「それって可愛い萌への僻みですよね?こっわぁーい」


「河合さんはだいぶ春くんの前で猫かぶってるのね。本性がそんな感じだと知って春くんが悲しまないか心配だわ」


「先輩の方が分厚い皮被ってるみたいですけどぉ?」


「はぁ…お前たちの無駄話に付き合っている時間は俺にはないんだが。醜い争いはよそでやってくれ。まったく。美しい光に集る蛾のような女どもだな…」


「さすがに失礼過ぎないかしら九条くん」


「萌からしたら九条先輩の方がよっぽどお邪魔な虫なんですけど」


「ほら見ろすぐこれだ。噛み付いていい相手、悪い相手も分からん暗愚な者どもめ」


「まあまあ落ち着けよ九条。先生の野暮用とかが早々に終わってもう待ってるかもしれないだろ?」


「…はぁ。陸前の言は一理あるな。聞けばお前はあの馬鹿どもと違って至高の美を手に入れようという訳ではなく守ろうという発想だとか。その心がけは褒めてやろう」


「あー、はは。どーも。まあ俺は春色が綺麗だから?とか保護したい?とかじゃあないけどさ」


「だが、俺一人で十分だ、そこは弁えておけ」


「はいはい、そこはお互い様だな」


「…それでどのようにして決める」


「その前に一つ質問いいか?さっき浅木が言ってた通り俺あんまり部長の仕事とか分かってないんだけどさ、そもそも俺たちがみんなで助けたとして春色1人じゃ回らないものなのか?」


「多分回らないわ。春くんはリーダー、陸前くんの言う[主]には確かに向いているだろうけど、代表には向いていないもの。裏表共々対外的な面とかね。だから彼が出来ないことを支えて補ってあげる副部長が必要だと思う」


「…ふーん?春色ができることを手伝うんじゃなく、春色が取りこぼしをやる人ってことか」


「まあそうね」


「なるほどなぁ。理解したわ。話戻すけどさ、じゃあジャンケンでどうだ?恨みっこなしで…ーーーー


ーーーーーー


「…で、初戦で陸前、2回戦で九条が敗退か…って決勝戦長すぎるな?!何回あいこしてんだこいつら。とりあえずこれでいいか」


 祐は停止ボタンを押す。


(あの質問からして陸前がわざと負けたってのは本当くさい…というか、九条も恐らくわざと負けたなこれは。陸前は動体視力…手を見て負けただろうが九条は心理を読んで出す手を予測した感じか…?あー、映像も撮っときゃ良かったなぁ)


 そんなことを考えながら祐は、思った以上に面白いやつらが集まった、と上機嫌でメモ帳を閉じる。

 そして元あった場所に録音機を戻し、明日からどんな楽しいことが起きるのか、少しワクワクしながら祐も部室を後にするのだった。

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