1-4 祐姉さんからの任務
何かしらのメモを取り終えたところで祐姉さんは「はい注目」と手を軽く叩いて視線を集めた。
「とりあえず今日は部長と副部長を決めてお開きにするつもりだが部長は「柏原先生、我が主一択かと」
間髪入れない陸前くんのセリフにみんながまるで当然のように頷いてるんだけど部長なんて柄じゃないからやめて欲しい。
「いや僕は…「陸前の言う通り春色で確定なんだが」…祐姉さん?!」
やめて欲しかったけど顧問の中で既に確定していて退路がなかった。ここに来てから僕の主張だいたい無視されてない?気のせい?
「副部長はお前たちの中で話し合いか殴り合いかその他方法は問わんから、勝手に決めてくれ。ちょっと私は野暮用で春色と職員室に戻るから、決まり次第呼びに来るように。いいな?よし。ついてこい春色」
殴り合いて…と思ってる間に雑な指示を出した祐姉さんに僕は引き摺られるように部室を後にする。
(河合ちゃん以外とはほぼほぼ面識ないようなものなのに)あたかも大親友みたいな顔で手を振る4人に見送られながら…。
***
うちの高校の職員室の隣にはいくつかか小さい部屋があって、生徒と個人面談ができるような作りになっている。そのひとつに入った僕と祐姉さんは机を挟み向かい合わせにパイプ椅子に座った。
…なんか祐姉さんは眼光の圧がすごいから警察の取り調べ受けてるような気分になるな…。
さてと、と顔の前で両手を組むあの有名なポーズをしながら祐姉さんは真面目な声を出す
「…春色。お前には最重要任務を与える。期限は1ヶ月だ」
「…最重要任務?」
つられて僕は少し緊張する。なんだ?漫研とは関係ない話?もしかしてまたあの愚兄がなにかやらかしたか?
「メインヒロイン候補を見つけて来るんだ」
「…メインヒロイン?」
「最近はどんでん返しがよくあるが…まあ総じてラブコメものの中で主人公と結ばれる確率が比較的高いヒロインのことだ」
「いやメインヒロインの意味がわからなくて聞き返したわけじゃないんだよ祐姉さん。僕が探す必要ある?だって陸前くんとか九条くんは…ともかくとして。祐姉さんが…その、ヒロインとして集めたわけでしょ?浅木さんとか河合ちゃんのこと」
主人公はお前だと言われてるところで高嶺の花たちを
僕の反論を一笑に付した祐姉さんはいいか?と諭すように言う。
「メインを張る相手ってのはな他人に用意してもらうもんじゃなくて出会うもんなんだよ。運命的にな」
「僕のこと鼻で笑った後にロマンチックなこと言い出した…」
「その方がラブコメ的に展開的に美味しいだろ。序文で『僕とあの子の出会いは担任の先生の斡旋で始まった』とか書くわけにもいかないしな」
「違った。ロマンチストなんじゃなくて自己中心的なだけだこの姉さん」
これ言い換えると、いいネタを持ってこい、だ。
「いいから私のために馬車馬の如く駆け回って最高のヒロイン候補たちを集めてこい。期限は1ヶ月と言ったが、とりあえず1週間で最低ひとり、なんでもいいから入部勧誘よろしく」
「1週間?!」
無理無理無理!と僕は全力で首を振った。いや、1週間でも1ヶ月でも女の子に声かけるとか無理だけども!!
「無理じゃないからやってこい」
僕は知ってる。僕がここでどれだけ文句を言っても反対をしても懇願をしても基本的に祐姉さんの主張は覆らないことを。伊達に17年幼なじみをやってない。
「なんでそんな無茶を…」
ため息混じりの泣きそうな声でそういう僕に祐姉さんは首を傾げる。
「なんでってお前…新歓お花見イベントを4月中にしなきゃいけないからに決まってんだろうが」
いや、そんな常識だろ?みたいな顔で言われても…。
***
それからすぐに、副部長は浅木さんに決まったと4人がやってきて、僕と祐姉さんは面談部屋を出る。結局じゃんけんで決めたらしい。
「春くんのことを慎ましく支える立派な
「う、うん。よろしく」
…なんか含みがすごい気がした。多分気のせい。
それにしても部長かあ。本当に目立たない人生送ってるからそういう役職無縁だったんだよなぁ…。
そんな不安が口からつい出てしまう。
「僕、長とか名前のつくものやったことないからすごい頼ると思う…」
「むしろいっぱい頼ってくれた方が嬉しいな」
浅木さんの対応が神すぎる…。
そこに陸前くんが笑顔で加わってきた。
「いや、浅木は副部長の仕事を頑張ってくれればいいさ。我が主は俺が支えるから」
なっ!主。と僕の肩に手を置く陸前くん。うーん、僕から見てもイケメン。呼び方さえ改めてくれたら100点。
「あら、じゃんけん初戦敗退の陸前くんには関係ないでしょう?」
「わざと負けだんだけど?」
笑顔なのにどこかトゲのある浅木さんの言葉を飄々と受け流す陸前くんに、僕は「え?」と視線を向ける。わざと負けるとか出来るもんなの?
すると、さっきまでの完璧スマイルを崩して少し慌てた様子になる陸前くん。
「いや、誤解しないでくれ春色。主を支えるポジションはもちろん魅力的だったし、他のやつに譲るのは断腸の思いだったけど」
あ、そういう僕が嫌なの?的な視線じゃないから大丈夫だよ。
「部長と副部長ってやる基本的に仕事を分担するだろ?だからそういう別仕事は他の奴らに任せて、俺は主を助けるための、部長補佐の任に就こうと思ってさ」
勝手に役職増やしてるよこの人。
「負けた言い訳は結構だが。俺の芸術に気軽に触れてくれるなよ、陸前」
そこに急に割り込んできたのは九条くん。いつの間にかの芸術扱いで僕は虚無になる。
言い訳と言われてムッとした様子の陸前くんは
「…言い訳?俺が主に嘘をつくわけがないだろ。俺の動体視力を舐めないで欲しい…ってか、ここで全員に100連勝ちして証明してもいいけど」
なんて言ってるけど、じゃんけん100連勝ちとかやばいな?
「そんなこと出来るの?」
そう僕が言うと、途端に負のオーラが一瞬で霧散した陸前くんはにこーっとした笑顔で「ご命令なら1000連でも」とか言い出す。
さっきの処す処さないの話の時もそうだったけど陸前くんたまに僕に敬語になるのが気になるな…うん。十中八九主従ごっこのせいだろうとは思うから話を振るのはやめておこう。
九条くんは陸前くんの言うことは「まあいい、」と言いながらスルーして、僕に向き直った。
「陸前がお前の雑務を肩代わりすると言っているのだからやらせておけ。真のトップとはいるだけで十分価値があるというもの。和泉は俺と紅茶を飲む係でもして過ごせば良い」
この人も役職勝手に増やしちゃったよ…紅茶を飲む係ってなんだ。サボりか?
口調はぶれないけどどんどん視線がぶれてくんだよなぁ九条くん…。この平凡の代名詞みたいな顔のどこにそんな直視も憚られる美を見出しちゃってるんだろ。
「も~!陸前先輩も九条先輩も近い近い~!はるちゃん先輩から離れてください~!萌だってはるちゃん先輩とおはなししたいんですからぁ!」
2人をえいえいっ!という掛け声を言いながら押して河合ちゃんが僕の腕に引っ付いてくる。
河合ちゃんは昔からスキンシップが激しい子なんだけど…うーん困った。
「河合さんだけずるい!春くん、私も腕を取っていい?」
いい?と聞きながら既に空いてる方の腕に引っ付く浅木さん強い。むぎゅっと押し付けられてる。何とは言わない。心を無にするのだ。
「ダメでーす。浅木先輩は特にダメ」
僕じゃなくて河合ちゃんがNGを出す。河合ちゃんが自分側に僕を引っ張るのでそっちもむぎゅっと当たる。心を…無にするのだ…。
「河合さんが良くて私がダメな理由が分からないわ」
「私以外の女の子ははるちゃん先輩に馴れ馴れしくしちゃダメって決まってるんですー」
「決まってないわよそんなの。ねぇ?春くん」
頼むから、頼むから僕を挟んで喧嘩はやめて…。
「浅木、河合。春色が困ってるのが見えないのか全く…」
「俺の芸術に勝手に触れるんじゃないとお前たちは何度言ったらわかる」
そこで陸前くんと九条くんが2人を引き剥がしてくれてようやく自由になる僕。
この間、祐姉さんは永遠と「すでにネタの宝庫」とか言いながらメモを取り続けており、全く助太刀をしてくれませんでした。恨む。
廊下でこんなthe学校の有名人!みたいな集団と話していれば、そりゃあ目立つわけで。
「あれ?春色、何してんの?…って、え?メンバーやば…これ何の集まり?」
と、恐らく部活に顔を出してたのであろう、晋太に見つかってしまった。
晋太は新聞部所属でうちの学校には新聞部が何故かふたつある。
片方はよくあるお堅いちゃんとした新聞を発行している部活。もうひとつはネタ記事中心のゆるーい新聞を発行している部活。
晋太はもちろん後者に入っていて、つまり、こういうゴシップに目がないってわけ。
ああ、なんかものすごくめんどくさい予感…!
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