1-2 陸前くん(顔が良い)と浅木さん(顔が良い)

漫画に出てきそうな奴らを集めて研究観察する部…そう言われてもピンと来ず、ぽかんとする僕に、祐姉さんは「実はな」と言葉を続ける。


「青春モノの小説書こうと思ったんだが良いネタが浮かばなくてな…で、思ったんだよ。実際に青春してるやつら観察すりゃ何かアイデア浮かぶだろってさ!」


 んで、ちょっとキャラ濃そうな奴集めて部活作ってみた。なんて言う祐姉さんに僕は開いた口が塞がらない。

確かに今、目の前にいる2人はこの学校でも人目を引く人物だけども。


「お、来たな。俺、陸前真空りくぜん まそら!よろしく」


 爽やかに笑い手を差し伸べてきたのはスポーツ特待生で入学したイケメンの陸前くん。

運動神経抜群で、どんな競技でもエースを狙えると噂の所謂チート。

でも最近なぜかどの部活にも出てないって聞いたような。


「私は浅木乙鳥あさぎ つばめ。はじめまして、じゃないわよね。去年も今年も同じクラスだったし」


 長くストレートな黒髪を揺らし花がほころぶような笑顔を浮かべるのは浅木さん。

成績優秀で超絶美人、そのうえ性格も温厚と非の打ち所がない。お嬢様な空気をまとう彼女に憧れる男子なんて掃いて捨てるほどいる。


 うーん、流石祐姉さん。小説のキャラの見本としては良いところばかり手を付けている。でも…


「ちょ…ちょっと待とう。陸前くんも浅木さんも確かにって感じだけど…!僕なんて特に何もない平凡なやつ誘ってどうすんのさ」


 そう、僕がここにいる意味が分からない。何のネタにもなりゃしないだろう。

唖然とする僕に祐姉さんは「なんだ、気づいてないのかよお前」とため息をつく。


「むしろ春色を撒餌みたいに使って作ってる部活だからこれ」


「は…え?」


「いいか、春色。お前にはモブ系主人公の才能がある。あの兄と妹、そして幼馴染に私を持つ時点でもうお前のモブ主人公枠は決まってたようなもんだよな」


 モブケイシュジンコウの才能…?馴染みのない単語が耳を素通りしていく。それが何なのかも分からないし分かりたくもない。


「よくギャルゲーとかの主人公にいるだろうが。何故か周りにキャラ濃いやつばっか集まるやつ。平凡なのにモテまくるやつ。あれの男女兼用版がお前だ」


「意味が分からない」


「だから、男も女もキャラ濃くて外見整ってるようなやつらが皆お前を好きになるって言ってんの」


 堂々と祐姉さんはそう言ってのけるが僕には全く心当たりがない。


「え。ないない、ありえないよ!だって僕今までモテたことないし!!」


 自分で言ってて悲しいけど!モテたことがないのは事実だししょうがない。祐姉さんは涼しい顔でしれっと答える。


「そりゃお前が鈍感なんだよ。まあ鈍感も一種のモブ系主人公の才能か」


 尚も反論しようとする僕に、祐姉さんは衝撃の一言を発した。


「だってさ春色、この部活に集まった4人…みんなお前の名前で釣ったんだけど?」


「は…?」


「和泉春色と楽しい青春送りませんかーってさ」


「誰が釣られるんだよそんなの!!」


 同意が欲しくて思わず陸前くんと浅木さんを見るも、二人は否定もせずにニコニコとしている。え、なんで?


「り…陸前くん?」


 返事がない。


「浅木さん?!」


 返事がない。

何だこれどうなってんだ!あれか、祐姉さんが前もって仕掛けたいたずらか!あの二人はきっと祐姉さんに頼まれて仕方なく…!


 僕が頭を抱えていると陸前くんが歩み寄ってくる。そしていつも女の子たちをキャーキャー言わせてるそりゃいい笑顔で言った。


「和泉、俺さ…昔から主君が欲しくって」


「シュクン?」


 僕はつい真顔になってしまった。陸前くんが発した言葉を咀嚼できない。主君って何だ主君って。


「スポーツ色々やってたのもいつかお仕えする主のために体力磨いていただけだし…で、去年和泉を見てさ、この方だ!って思ったわけ。分かる?」


 正直全然わからない。全然わからないけどこれ以上この話を聞いていちゃいけない気がする。僕は無理やり話題を変えてみようとした。


「そ…そういえば最近陸前くんって運動部の助っ人やってないねー!」


「ああ、俺の主君になる和泉のこと知りたくてさ!放課後は毎日和泉の後をつけ…」


「アウトなやつ!!それアウトなやつだよ陸前くん!!」


 ちくしょう!話題が変わるどころか悪化したよこれ!


「…なあ和泉」


 どれだけアウトな発言をしながらもいい笑顔が崩れない陸前くん。まあ僕の中の陸前くん像は音をたてて崩れてるけど。


「春色様と主様とご主人様…どれが好みだ?」


「どれも嫌だよ?!せめて名前呼び捨てぐらいでお願いします!」


「陸前くんストーップ。春くんが困ってるでしょう?」


 助けに入ってくれたのは浅木さん。…今いきなりあだ名で呼ばれた気がしたけど気のせいかな。


「あ、浅木さん」


「あらやだ春くん、私のことはつばめって呼んで?」


 気のせいじゃなかった!ほんの数分前まで和泉君呼びだったのに!


「ね、春くん覚えてる?1年生のとき、私が黒板に書いた字を見て皆に気付かれないようにこっそり「ここ、違ってるよ」って教えてくれたでしょう?私、間違いを指摘されたの初めてだったの」


「えっと…?」


「その後も私が学級当番のとき花の水やり忘れてたら「意外と忘れんぼなんだね」って手伝ってくれたよね。あんなこと言われたのも笑いながら気さくに手伝われたのも初めてよ」


 これはもしかしなくても怒ってるのかな?頭が高い的なあれで…。とりあえず謝っとこう。

 そう思い、僕が口を開こうとしたその時、


「だからね、春くんは責任を取って私の旦那様になればいいと思うな」


 浅木さんが衝撃の一言を発した。


「で、春くん。挙式はいつにする?」


「…何言ッテルノカナ浅木サン」


 どうしてそうなった感しかない。今の流れで何で僕に求婚するんだ。


「だって誰もしてくれなかったことを初めてしてくれた人だよ?好きになっちゃうでしょ?」


「浅木、お前こそ落ち着けよ。我が主春色が困ってるだろ」


 次は陸前くんが助けてくれた。けど正直どっちもどっちだからね。名前の前に変な枕詞付けるのやめてね。


 …いや、ちょっと待てよ、と僕は既にメモ帳に色々書き込んでる祐姉さんに声をかける。


「祐姉さんの言う事が本当だとしたら残りの2人って…」


「ん?ああ。こいつら並…いや、もっとすごいのもいるぞ!やったな春色!バラ色の高校生活のはじまりだ!」


 ぐっと親指を立てる祐姉さん。どこにもバラ色要素ねえぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る