第9話

「犯罪白書によると殺人事件の加害者・被害者関係の半数は家族親族です。つまり親の子殺し、子の親殺し、夫の妻殺し、妻の夫殺しなどですね。残りの4割は面識あり。つまり友人、知人による殺人ですね。たとえば会社の上司と部下とか、ご近所同士とか。最後の1割は面識なし。これは通り魔とか、盗みに入った家で家人に発見されて殺人に至ったといった例がありますね。」

「家族間の殺人が半数と聞いて驚く人が多いですが、そこに至るまでの事情を知るとだいたい納得できると思いますよ。家庭によっては、子の学業不振や親のリストラ、家族の飲酒、ギャンブルといった何かしらの問題があります。それに家族って遠慮がないんですよね。外見は穏やかな夫婦と礼儀正しいお子さんでも、家の中では自分を抑えられず、言いたい放題やりたい放題の人も多いと思いますよ。葛藤を抱えている家族で、感情をうまくコントロールできないメンバーがいると、そこからDVや虐待といった家庭内暴力が発生し、エスカレートして傷害事件を起こしたり、果てには殺人に至るケースもあるというわけです。抑えつけられ内に抱えていた不満が突然爆発するというケースもあります。日本全国何千万という世帯がありますから、年間5百件位家族内の殺人事件が起こっても、これが犯罪白書の数字ですけれども、そう異常なことではないと分かるでしょう。タケシと奥さんは仲の良い夫婦だったから、すぐには想像できないかもしれませんが。」

確かに口論することはめったになかったが、内心、不満はあった。表に出さず我慢していただけだ。

「家族内の殺人事件だと、被害者遺族も加害者と同じ家族です。そこに至るまでの経緯も知っているし、加害者に対して一方的に憤怒を募らせるケースは少ない。交通事故の被害者遺族とは大きく異なります。」

「ところで、家族内の殺人だと、どの関係が多いと思いますか。関係というのは、夫婦とか親子とか兄弟姉妹ということですけど。」

山川さんの一方的な話を聞いていたら急に質問を投げかけられた。首をかしげて少し考えてから答えた。

「力関係からすると夫の妻殺しでしょうか。男の子の母親殺しや父親殺しもありそうですけど。」

「統計で確認したわけではないですけど、母親の子殺しが多い印象ですね。」

「へえ、そうなんですか。母親が自分が生んだ息子や娘を殺すなんて想像できないですね。どんなストーリーがあるのかしら。ちょっと思い浮かばないですけど。」

山川さんまた、滔々と話しはじめた。

(つづく)

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