無理する理由
◇◇◇◇
アスモデウスの身体は石みたいに固まって、ボロボロと崩れていく。そんな中、地面に転がったアスモデウスの頭が「私は負けたんですね」と、口を開いた。
「最後に一言いいで……」
「黙れ」
俺は地面に転がったアスモデウスの頭を力強く踏みつけた。アスモデウスの存在は、サラサラと黒い砂になって消え失せた。
もう一仕事と、左手を目の前に持っていき、周囲の悪の力を集める。すると純度が高い悪の力が紫色の炎として現れた。
その悪の力をベルトから取り出した試験管に入れて、試験管はベルトに戻した。
「勇くんどこも怪我してない?」
戦闘が終了して、愛華が駆け寄ってきた。そして、俺の身体を念入りにペタペタと触る。
「あれだけの力、普通じゃなかったよ。何かを代償にしてるとしか思えない!」
「余裕余裕、見てただろ。あんな雑魚に代償とかいら、あッ」
立ちくらみがして、ふらっと倒れそうになった俺を愛華が抱き止める。
「悪い」
一言謝って、愛華から離れようとすると、ギュッと抱きしめる力が強くなって、愛華が離してくれない。
凄く心配させたみたいだな。今日はこのまま解放されないかもしれない。
「愛華、じゃあちょっとあいだ支えててくれるか?」
「……うん」
愛華は俺の右肩に移動し、俺の身体を支えてくれる。これでやっと歩けそうだ。
「ねぇ私、戦闘が終了したことを報告する義務があるんだけど」
愛華の後ろに控えていたルナが話しかけてきた。
「あぁそれは任せる。でもちょっとだけ待ってくれ」
「……?」
ルナは『何をやるのよ』、と言いそうな顔をしていた。
「すぐに済むから……な」
一歩一歩進む度に、ふらっふらっと、足に力が入らなくなる。愛華が支えてくれて本当に助かったと思う。相当に力を消費していたみたいだ。
やっとダルマジロン先輩の傍までやってきた。最初から全力以上の力を出して、アスモデウスとの戦闘に入ったのはダルマジロン先輩がすぐ近くに居た。その一つの理由だけで十分だろう。
ダルマジロン先輩の身体に手を置き、ボッと鮮やかな赤色と黄色の炎が俺たちを囲む。
「おい猫、頼む」
「にゃ?」
「……あのオレンジ色の炎で送ってやりたい」
グッと愛華の支える手に力が入った。でも愛華は何も言わない。また無理しようとする俺を心配して、止めたいんだろう。けど、この怪人は、俺が無理する価値のある人だった。
「にゃあ!」
どこか抜けている猫の声、『任せろ!』ということだろうか。
「ありがとうな」
カチッカチッと、石同士をぶつけ合う音が辺りにこだまする。鮮やかな赤色と黄色の炎が六つに分かれ、花びらのように俺たちを包む。
「あたたかい」
愛華がそう呟くと、カチッと大きく鳴った。
『
瞬間、炎は鮮やかなオレンジ色に姿を変え、俺たちを包んでいた炎は花が咲いたように開き、ダルマジロン先輩だけを燃やしていく。
「ダルマジロン先輩、俺もまだ話し足りないですよ」
あっという間にダルマジロン先輩の身体は燃やし尽くした。灰すらも残っていない。
悪の怪人の最後なんてこんな物だ。
ルナに振り返り、ベルトから取り出した試験管をルナに向かって投げる。
「何よこれ」
「倒した証拠がいるだろ? いらないならあそこで寝てる奴にでも渡しといてくれ」
遠くで寝ている戦隊ヒーローを指差す。
「わかったわ」
「あとな、お前の双子の片割れあるじゃねぇか。ソイツにありがとうって伝えてくれ。ダルマジロン先輩を止めてくれてありがとうって」
「自分で言えば?」
ルナの言葉にハッと笑い、確かにな。と思った。
「ダルマジロン先輩、笑ってた。俺の顔面パンチより、強力なのを貰ったみたいだ。
改めて感謝を伝えに行く。暇がある時があったら連絡してくれ」
ベルトから抜き出した連絡先を書いた紙を渡す。
これでここにいる理由もなくなった。
「早くどっか行かないと、野次馬が来ちゃうわよ」
「へいへい」
ルナに急かされ、俺は愛華に支えられながら、遊園地を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます