グロリオーサ
『
勇は地面に刺さっている刀を右手で取り、鮮やかな赤と、黄色が彩る炎を、刀に纏わせた。
周りに漂っていた立ち昇る炎は、六本に分かれ、花びらのように勇を包む。
「ブラボーブラボー! ここまで人は変わるですか」
勇から殺意のこもった視線を向けられているにも関わらず、アスモデウスは目を輝かして、美しいと拍手をして、「私の部下にならないですか?」と、勧誘する。
「俺がお前の下に付くと思っているのか?」
勇は足に力を込めて、両手で刀を持ち、刀の腹を左肩に預け、構える。
「最高幹部の私と、ゴミ虫だった貴方とでは強さに開きがあるのは明確。怪人の正義はなんで決まると思いますか? それは美しいか、それ以外か、です。私よりも醜いゴミ虫は全部悪。私が私こそが正義の基準。あぁなんとも美しい基準なのでしょう!」
「お前の正義なんかどうでもいい」
勇は足の力を解放し、アスモデウスとの距離をゼロにする。構えを解き、横薙ぎに払った刀はアスモデウスの首に迫る。余裕顔のアスモデウスは片腕を盾にして刀を受けた。
「死ね」
アスモデウスの腕と刀が合わさった。その時、勇が殺意のこもった言葉を呟く。すると、あっさりと腕は真っ二つに切れて、首に到達する。
「ッ!」
余裕顔だったアスモデウスも驚き顔に表情を変え、左手で刀を受ける。
「私の腕が切られたッ! そんな馬鹿な! こんなまだ怪人になりたてのゴミ虫にッ! クッ!」
刀は、受けた手ごと、アスモデウスの首を切断した。
アスモデウスは首を切った瞬間から全身が溶けてブクブクと紫色の泡になった。
「さて鬼が出るか蛇が出るか」
勇はアスモデウスの溶けた泡から一輪の紫色の花を発見し、すぐに後ろに下がる。
パラパラと紫色の花の花びらが散ると、ブクブクも泡が人の形を成し、闇の光を纏いながらアスモデウスは復活した。
「怪人の中でもトップクラスの強度の硬さを誇る私の身体を、こんなにも簡単に切るなん……」
「当たりだな」
アスモデウスの言葉を遮る勇。
「当たり?」
「あぁ当たりだ。巨大化は少し面倒だったからな」
勇の言葉にアスモデウスはクククと笑う。
「やはりまだ考え方は人間ですね。巨大化は悪の花から得る莫大な悪の力を制御出来ない怪人が陥る状態です。巨大化する怪人よりも、巨大化しない怪人の方が百倍強いと思ってくださって結構ですよ」
「百倍強い? それは首を切り落としても死ななくなるのか?」
「首を切ればさすがに死にますよ。ですが、今の私は百倍強い、そして身体の硬さも百倍硬くなっています。先程までの硬さじゃないので、その刀では私にかすり傷一つもつけられないですよ」
「試してみるか?」
勇がそう言うと、勇の周りの炎が荒々しく燃え上がる。アスモデウスはその勇から感じる精神的な圧力でジリッと一歩下がってしまった。
「ビビっているようだが、命乞いでもするのか」
「最高幹部の私にそんな無様な真似が出来ますか!」
アスモデウスの威勢がいい声に、勇は鼻で笑う。
「まぁお前は命乞いしても、確実殺してやるけどな」
ボッボッと、勇の目の前で炎が空を目掛けて一直線に伸びる。その炎の柱を勇は左手で水平に払うと、炎の柱は消え、左手に白銀の鞘が握られていた。
鞘を腰に添えて、その鞘に刀を納刀する。
「貴方の正義はどこにあるんですか。こ、こんなの……」
「知らねぇよ」
カチッカチッと、カチッカチッと、石を同士をぶつけているような音が響き渡る。
勇は、ふぅ、と息を止める。そして時間も止まった。
カチッと、勇の周りの炎が鮮やかなオレンジ色に姿を変えた一瞬。
『
荒々しい炎は静けさを取り戻し、鞘と刀がカチャリと噛み合わせの良い音を出した。
オレンジ色の炎が水平に線状に伸び、どこまでもどこまでも続いていた。
それは一瞬のことで、時間が再び動き出すと、オレンジ色の炎は幻かのように消える。
アスモデウスは反応すら出来ていなかった。だが、何かが起こったことは感じていた。
「何が起こっ……た……ッ!?」
アスモデウスの首が、肩の上という定位置からスルスルとズレて、頭がストンと首から落ちる。
勇は地面に落ちていくアスモデウスの頭を下に見る。
「かすり傷程度はつけられたみたいだな」
「にゃ!」
刀と鞘は消え、勇の肩に乗る子猫が鳴いていた。
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