覚悟の差


概念破壊ビックバン


 ダルマジロンの巨木のような拳から放たれた必殺技を食らったブレイレッド。


「グハッ!」


 拳はブレイレッドの身体半分を覆い、拳のインパクトの瞬間にプロテクターは粉々に壊されて、ブレスレットは吹き飛ばされた。



「ブレイレッドさん!」


 ダルマジロンが投げた観覧車の落下地点に来ていたキラは、ブレイレッドが吹き飛ばされたのを見て、すぐさまダルマジロンを視界に捉えた。


 ダルマジロンはすぐさま腰を捻って拳を引いた。キラの視界からダルマジロンの右腕が見えなくなって、大きな背中が見えるほどに振りかぶっている。


 その光景を見て、キラは観覧車とダルマジロンを交互に見る。



旋風剛力エアグランド!』



 ダルマジロンは腰を捻るのを止め、グオンと背中が動く。キラから右腕が見えると、視認できるほどの風が右腕にまとわりついていた。


 暴風を纏った拳を正拳突きの要領で放った。ガンッ! と、空中を殴る。そこで終わるはずもなく、衝撃波と暴風をともないキラを襲う。


 暴風に当てられてグワンと観覧車はひるがえし、空中でクルクルと回りながら落ちてくる。


 キラは落下地点が大幅にズレた観覧車を追う。暴風の中、衝撃波よる風の刃で背中に傷を負っていく。観覧車には地面とぶつかりそうになるスレスレで追いつき、大きな円の鉄骨を支えた。


 ズシッと遠心力によって空中に飛び出してしまいそうになるが、地面に両足を刺して踏ん張る。回転のせいか、観覧車の重みのせいか、暴風のせいか、ズリズリと、地に着いている足が後退する。


 ここで地面から足が離れれば次は無い。観覧車の人たちは助からないだろうことはキラも分かっていた。



「とぉぉぉ、まぁぁぁ、れぇぇぇぇぇぇええええ!!!」



 キラは大声を出し、精一杯の力で観覧車を止めにかかる。するとギギギと、観覧車の動きが止まった。


 ガシャンと急な停止に、観覧車の人が乗る箱が地面にぶつかる。地面には二つの線の跡が続いていた。


 キラはやり遂げたと喜んではいられなかった。


 垂直になっている観覧車を水平に置かなくてはならないからだ。


 だが、その時間はないことを知る。


 視認しなくても、大きな影は誰がそこにいるかをキラに知らしめる。



 暴風は止んだ。





「それを持ったまま回避はできんやろ」


「そうだね」


 ダルマジロンがすぐ近くにいた。ダルマジロンの物理での攻撃範囲。キラは振り返らずに返答した。


「離さないんか? ソイツらを見捨てさえすればまだ戦えるんやで」


「そうだね」


 ダルマジロンに何を言われたとしても揺るがない。キラの華奢な腕は観覧車をシッカリと支えたままだ。



「じゃあソイツらを見捨ててかかってこい」


「それはできないよ」


「なんでや。観覧車っていうても、たかが数十人。ここでお前が死んだら、オラは遊園地内の数千、数万の人間を殺すんやで」


「諦めなければ、この観覧車の人たちも助けられるかもしれないよ」


 ダルマジロンが地面を殴る。ドンッと、地面が揺れた。


「そんなお花畑の話はしてへん! お前が戦えば、その観覧車にいる連中の何十倍も、何百倍の人の命を助けれるかもしれんっていう話をしとるんや! なんで見捨てようとしない!」


 ダルマジロンの怒号が響く。その怒号を受けて、キラは「うん」と頷く。


「それはね。この観覧車の人たちの笑顔も守りたいの。この観覧車の人たちも、笑顔の価値は一緒だもん。キラは皆んなの笑顔を守りたいだけの、ただの女の子。ただキラにはそれを叶えるだけの力があっただけ。……ね、キラは我儘な女の子」



 キラのその言葉を聞いて、ダルマジロンはガリッと唇を噛み締める。口から血が出て、それでも歯を食いしばった。



「その笑顔の価値っていう奴には怪人も入ってるんか?」


「それは勿論だよ」




「覚悟はもうとっくにできてると思うてたんやけどな。オラは本物の悪にはなれんかったらしい」



 ダルマジロンは空を見上げ、手で顔隠した。







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