野良の怪人



 地面に叩き落とされたダルマジロン。それを見て、ブレイレッドは距離を詰めた。


「寝てる暇なんてないぞ! ダルマジロン!」


 土煙がブレイレッドの視界を奪う。だが、視界なぞお構い無しに土煙に突っ込み、大剣を肩に担ぐ。


 闘志のメーターは半分まで溜まり、キンッ! と、その一音が鳴り響く。


 グォンと、炎が大剣にまとわりつき、大剣の刀身が炎によって伸びた。



双闘飛龍イグニスクロック!』



 肩から勢い良く横薙ぎに振られた大剣。


「ぐはぁっ!」


 すぐにダルマジロンにクリーンヒットし、大剣は振り切られた。


 土煙から吹き飛ばされたダルマジロンの身体は観覧車を支えている柱に当たり、静止する。


 柱は折れ曲がり、ギギギと、観覧車が斜めに傾く。


 ダルマジロンを見ると、頬は腫れ、腕には深々とした切り傷が出来ていた。


 ダルマジロンは、ペッと血の含んだ唾を吐き出し、柱を支えに立ち上がる。


「お前らは本物の悪を知らないんや」


 立ち上がると、折れ曲がった柱を左手で掴み、そして持ち上げる。柱は容易く地面から離れ、ギギギと観覧車が揺れた。


 揺れた拍子に観覧車に乗っている人々から悲鳴が上がる。


「悪の組織の怪人は、人質を利用する時、有り得ない失敗で人質を逃がす。いつも人質は元気ピンピンや」


「それは違う、怪人によっての人質の死亡者は年々増えている」


「まぁそれはいいわ。ここでその話をするのは、今頑張っている皆んなに悪いからな。信念を曲げても、オラはその正当化する行為だけには誠実に向き合わな、いかんな」


 空中からキラがブレイレッドの隣に降り立つ。


「ブレイレッド、お前は違うと言ったな。じゃあ何が違うんや? 人によって、正義の味方によって、死亡する怪人が何人か知っているんか? ニュースでは怪人の死はカウントされないやろが」


 左手で持っている柱がグシャッと潰れる。


「おかしいと思ったことはないんか! 人が亡くなると、怪人がいかに危険かを風潮し、正義のヒーローが亡くなると、英雄譚の映像が流れ、賛辞が贈られる。怪人が亡くなると、死んだことを盛大祝われて、怪人が正義のヒーローに殺されれば、ヒーローが称賛される」


 ダルマジロンは続ける。


「お前らには怪人なんて無価値で、どうしようもなく悪なんや」


「そんッ……クッ」


 キラが声を出そうとして押し黙る。ダルマジロンは左右に首を振って、その言葉はもういらないと、暗に示した。


「今日は野良の怪人としての戦い方をさしてもらおうか」


 ダルマジロンは観覧車の柱を振りかぶると、盛大に悲鳴が湧く。


「ほらよっ!」


 その掛け声と共に柱ごと観覧車を投げた。



「汚い奴だ! キラちゃん行くよ」


「うん、早く助けないと!」


 ブレイレッドとキラは観覧車の中の人を助けるために動く。



「それを待ってやると思ってるんか?」



「なにッ!?」


 ブレイレッドは至近距離からダルマジロンの声がした。


 ブレイレッドがダルマジロンを視界に収めた時、すでに振りかぶられた拳は放たれていた。


「グッ!」


 防御も間に合わなかったブレイレッドは全身を電車に打たれたような、全身を潰されるような強烈な痛みが走る。


 そしてブレイレッドとダルマジロンの拳の間に亀裂が出現した。


「まず、い」


 ブレイレッドも一度見た技だからか、危険性は分かっている。至近距離で受けたらどうなるかなんて考えたくはないだろう。逃げようとしても、全身が麻痺したみたいに動かない。


 ダルマジロンは拳を引く。その一連の流れで、渦を巻く風が拳にまとわりつく。



概念破壊ビックバン



 再度放たれる拳はブレイレッドを確実に捉えた。







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