鈍感


 コイツらとの戦いでは、俺は雑魚敵の仮面をつけていたし、顔はバレてないはずだ! なぜバレた?


 名前まで知っているなら、いつでも簡単に住所を特定して俺を殺せたはずだ。


 泳がしていたのか? バイトの雑魚敵なんか脅威じゃないと、魔法管理協会が判断したのか?


 俺が今日まで生かされた理由は分からないが、魔法少女が変身したら転移石で逃げる。今日、愛華とのデートはもう無理かな。はぁ、本当に残念だ。


 逃げるのは決定しているが、俺の選択肢としては、愛華を置いていくか、連れて行くかで、迷っている。


 魔法少女なのに俺と付き合ってるなんて知られたら、魔法管理協会が愛華に対して何をするのか分からない。


 俺が転移する時に愛華を連れていけば、悪の組織と繋がりを持っていると思われる危険性がある。


 キラが近寄って来た時にはルナも敵意はなかった。まだ置いていった方が愛華も悪の組織に繋がりを持っていないと思われて、危険性はないと判断されるかもしれない。


 俺は愛華の日常を絶対に守らないといけない。



 よし、決意は決まった。愛華を置いていく。



「またそれ!?」


 俺がベルトから出した転移石を見た瞬間にルナが眉間に皺を寄せて、言葉を吐く。


 すると転移石を持っている左手を愛華に掴まれた。


「おい何して!」


「勇くんこそ何しているの!」


 発動していた転移石を手放す、その瞬間に転移石は赤く光って、チリになって消える。


「私はもう覚悟はできているんだよ」


「な、何を……言っているんだ!?」


 愛華は俺を自分の後ろ側に引かせて、距離を取っているキラとルナを視界に捉えた。



「貴女たちがこのまま変身すれば、私は魔法少女の敵になる。その覚悟を持って変身しなさい」


 ルナの動きが止まった。


「知っているの? ソイツは悪の組織よ」


 ルナは愛華に向かって、俺が魔法少女の敵だと言う。


「知ってるよ、それがなに?」


「魔法少女が悪の組織と繋がったらダメじゃない!」


「それは大好きな人と恋人になることと、どっちが大事なの?」


「は?」


 ルナは、「それは……」と言い淀む。



「ルナちゃん、私が羨ましいんでしょ」


 愛華が警戒を解き、鼻で笑う。


「何それ?」


「そうよね。貴女も、勇くんが……」


「ちょッ!?」


 慌てるルナは俺と目が合う。


「ソイツなんか好きじゃないわよ!」


 ルナは顔を真っ赤にして、俺を指差す。


「ルナちゃんが、勇くんを好きだなんて、私、言ってないけど?」


「は!? あッ……え……とぉ、それは」


「はいはい、ヤメヤメ」


 ルナがしどろもどろになったところで、キラがルナと愛華をあいだに入る形で止めに入った。


「今日の仕事はお休み」


「でも陽葵ちゃん、コイツは悪の組織なのよ!」


「でも『雑魚敵』でしょ」


「雑魚敵だって、敵は敵なのよ!」


「雑魚敵を倒すために、魔法少女最高戦力失うんだよ。それがどういうことか、ちゃんと考えて」


「ッ……」


 キラの言葉にルナは言葉に詰まっているようだった。


「陽葵ちゃん行こ。今回は、今回だけは見逃してあげる」


「え? 一緒に回った方が楽しいよ」


 そうですか。と呟いた俺に被せる形でキラがとんでもない事を言い出した。


「は? 冗談じゃない! 俺と愛華のデートになんでお前らが……」


「この前の戦闘」


 キラの「この前の戦闘」という短いワード。キラは俺と目を合わせニッコリと微笑む。


 コイツ、俺の痛いところを。


「くっ、……。お、俺は愛華が良いならいい。みんなで回るのもたまにはいいもんな」


「勇くんが良いなら私も良いけど。この前の戦闘?」


「愛華が知りたいなら正直に話す、が。出来るなら言いたくない」


「じゃあ聞かない。どうせ魔法少女にイタズラでもしたんでしょ」


 即答してくれる愛華。魔法少女のログを確認して、どの怪人と戦ったのかを見れば粗方の予想はつく。


「陽葵ちゃん何言ってるのよ!」


「結月ねぇ、よかったね」


「良くない……良くないわよッ!」


 ルナは顔を赤くして、俺と目が合うと、すぐに後ろを向いた。


「アイツ、なんなんだよ」


「勇くんは鈍感だからね」


 隣の愛華は何かを察しているみたいだ。


 俺は鈍感主人公じゃない。


 だけど女心は俺にも分からない。






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