死の予感

◇◇◇◇



 焼肉の食べ放題に行って、腹いっぱいに食べた。次は愛華と一緒に遊園地の時間だ。


「腹いっぱい」


「そう」


 俺が腹をさすると、愛華は幸せそうにニコニコと笑っていた。


「悪いな、オシャレした洋服に臭いがついただろ」


「気にしないで」


 愛華は自分の服をパンパンと手で払う。そして俺までパンパンと払われた。


「なにかしたのか?」


「焼肉の臭いを取ってるの。私は気にしないけど、勇くんが気にするから」


「すげぇな愛華って」


「え? そう、かな」


 俺が褒めると、愛華の頬が赤くなるのが分かる。


「あぁそうだ」


「こんなことで褒められても嬉しくないんだからね」


 解像度がないツンデレみたいな言葉。


 愛華はやっぱり可愛いな。


「愛華はやっぱり可愛いな!」


「ッ! え、え、え?」


 心で思ったことが口に出ていた。というか出した。




 俺たちは遊園地の入場ゲートでチケットを見せて、遊園地に入る。


「よしジョットコースター行こうぜ!」


「今日は体力を使っちゃダメです!」


「そ、そうだったな」


 体力を使わないで遊ぶのは俺のための制限だ。それを破ると愛華が楽しめないだろうと思い、体力を使わないで遊べることを考えた。




 俺は愛華に地図を見ながらコレ! コレ! と勧めると、愛華がダメか、ダメじゃないかを判断する。そういう何気ない言い合いも楽しかった。




 遊園地は見て回るだけでも楽しい。ここでしか見ないような食べ物を食べたり、ショップを巡ったり、乗り物に乗らないでも楽しめるものだと初めて知った。


 そう思うのは、愛華と一緒だからなのかもしれない。そうに違いない。



「次はこれに行こう!」


 俺は地図を取り出して、愛華に判断を仰ぐ。


「そうだね。この道にあるショップも巡ろ」


「よし、決まりだな」


 愛華の了解も得て、俺たちは目的に向かって歩みを進める。



 そして立ち止まる。


 二人の美少女が俺たちの前を通り過ぎた。


「どうしたの?」


 俺の前を通り過ぎた二人の女は最近会ったことがある。


 太陽の魔法少女キラと、月の魔法少女ルナだ。


「いや、なんでもない」


 遊園地に行く日が被ったのか、最悪だな。



「あれ? 愛華ちゃん?」


 魔法少女キラは愛華に気づいて、手を振ってこちらに走ってくる。


 マジか……。これ、この前戦った敵が俺だとバレたらまずいんじゃないか?


「陽葵ちゃんと……結月ちゃん!」 


 そうか、愛華も魔法少女だから、二人が愛華の知り合いという確率も高かったのか。


「愛華ちゃん一人?」


「ん? デートだよ。あっ! 勇くん!」


 愛華は、後ずさりしている俺を捕まえて、キラとルナの前に晒される。


「勇くん、なんで顔を隠しているの?」


 俺は顔を左手で隠している。


 愛華にだけは知られてはいけない事もある。

 俺が『人造人間増田先輩のエロい攻撃を見ていたこと』だけは、愛華に知られてはいけない。


 それを魔法少女のキラとルナにバラされると、愛華に怒られるかもしれない。


 怒られるならまだ優しい方だ。最悪別れるかもしれない。


 愛華に依存してしまっている俺からすると、別れることは死に直結する。


 愛華は俺の心的な支えであって、ボロボロになるまで無理できているのは愛華がいるからだ。


「待って、愛華。貴女、あの人以外好きにならないって言ってたわよね」

 

「え? なに?」


 ルナはキラの手を掴んで俺との距離を取る。愛華はルナの行動に驚いていた。


「陽葵ちゃん変身の準備をして、愛華の隣りにいる男は……」


 バレたようだな。俺は、はぁ、とため息を吐き、顔を隠していた左手を下げる。



佐藤勇さとうゆうよ」



 なんでコイツ、俺の名前まで知っているんだ?







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