ラッキーアイテム


◇◇◇◇



『……双子座は1位。今日運命の相手に出会えるかも! ラッキーアイテムは双子コーデ!』


 テーブルにあるご飯にも手をつけずに、ニュースの占いコーナーをかぶりつくように見てる双子の妹、陽葵ちゃん。


「陽葵ちゃん、ご飯冷めるよ」


「結月ねぇ、陽葵今日運命の人に出会えるんだって!」


「かもだよ、かも。余所見しないで食べる」


「は〜い」


 はぁ、とため息をこぼし、私は食べ終わった食器を片付ける。




 今日は陽葵ちゃんとのデートの日だ。


 学校も休みで、魔法少女もお休みなら、よくデートに行っている。


 私たちは、めいっぱいのオシャレをして出かける。双子コーデだ。


「結月ねぇ、どこいく?」


「う〜ん、決まってないな〜」


「そうだ! 遊園地に行こうよ!」


 陽葵ちゃんは、人造人間増田との戦いでのトラウマはないようだけど、まだ見えない心の傷があるかもしれない、前の私のように。


 見えない心の傷があるなら、慎重に癒してあげないと。


 やりたいことを、やらせた方が良いわよね。


「陽葵ちゃんの行きたいところに行きましょ」


「わぁ〜い!」


 陽葵ちゃんは私の手を引っ張って、遊園地に走る。


「そんなに急がなくても」


「嫌だ〜」


 私の声も聞かずに陽葵ちゃんは走って進んでいく。




◇◇◇◇




 デートの三十分前に遊園地に着く。遊園地の前に設置してある時計が待ち合わせ場所なんだけど、時計のすぐ横にあるベンチで勇くんが寝ていた。


 腕時計とスマホ、そしてベンチの前にある時間を確認して、まだ三十分前だと分かる。


 勇くんは、両目を覆うようにタオルを置いて、グデェ〜っとベンチを占領するように寝ている。


「あ゛ぁ」


 勇くんは最近仕事が忙しいと言っていた。口から漏れている声が、休みたいと言っている声に聞こえた。


「ごめん、待った?」


「う……ぅん」


 私の声を聞いて、勇くんはタオルをひっぺがし、眩しいのか目を細めて私を探す。


 再度私は声を出す。


「ごめん、待った?」


「はぁ〜あ、今何時だ?」


 勇くんはあくびをして何時か聞いてきた。


「十一時半だよ」


「じゃデートまで、三十分も前じゃねぇのか?」


「そうだね。勇くんはここにいつ来たの?」


「あぁ俺は遅れないように、ここで朝四時から寝てた」


「え? ダメだよ。ベッドで寝ないと体調崩すよ」


「大丈夫大丈夫」


「最近の仕事が大変なんでしょ? 今日はデートやめる?」


「お前とのデートが俺の癒しなのに、それをやめたら、それこそ体調を崩す」


 勇くんの体調が心配なのに、そんなことを言われたら口角が上がってしまう。


「でも体力を使う乗り物はやめよ」


「あぁ、悪い」


 勇くんは、よいしょっとと、ベンチから腰をあげる。


「で、何から乗る?」


「まずご飯だよ! 朝から何も食べてないんでしょ」


 最近こういうやり取りが多い。本当は勇くんには悪の組織をやめて欲しいけど、勇くんには勇くんの正義があるのは分かっている。


 勇くんには最初から『無理を通す力』が存在していて、怪人になって、その土台が出来上がったように思う。


「そういえば何も食ってないな」


「お腹いっぱいにしよ。遊びはそれから」


「愛華は何か食べたい物ないか?」


「勇くんが食べたいもので大丈夫だよ」


 私は勇くんの左腕に自分の腕を絡ませる。


 勇くんは、今まで手放してきた正義を、全部取り返すように頑張っているんだと思う。


「肉が食いたい!」


「じゃ焼肉だね」


「え? デート前に焼肉か? 愛華の服とかに臭いがついたら嫌だろ」


「私は気にしないよ。まず勇くんにはお腹いっぱいになってもらわないと!」


「はいはい。そうだ、その服、凄く似合ってる。もちろん愛華はいつでも可愛いけどな」


 勇くんの似合ってるという言葉と、可愛いという言葉に顔が熱くなる。


「ごめんな、昨日も深夜の二時頃まで仕事で、服を変える余裕もなかった。少しは俺もオシャレしたかったんだけど」


「服なんか関係ないよ。今日も生きててくれて、ありがとう」


「大げさ」


「大げさじゃないよ。少しは自分を大事にして」


「愛華とまたデートできるなら、俺は死なない。だから大丈夫だ」


「もう」


 そう大げさじゃない。勇くんは分かってない。自分以外の全部を救っている勇くんは、いつ命を落すか分からないんだよ。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る