覚醒の予感
一本の触手を魔法少女のキラに見せびらかす。キラは目の前でクネクネしている触手に視線を固定した。
人造人間増田先輩は、『服を溶かす粘液』を出せる。だが全部の触手からは粘液を出さない。
服を溶かす粘液を出すのは、魔法少女の目の前にある一本の触手だけ。
その一本の触手から粘液を出し、チマチマと、ゆっくりと、服を溶かす方法は毎回変わらない。
人造人間増田先輩が言うには信念なんだそうだ。全部の触手に粘液をまとわせて、一気に終わらすと楽しくないらしい。
キラの目の前にある一本の触手から、服を溶かす粘液が一滴落ちる。触手から落ちた一滴の粘液が、キラのスカートの端に付いた。そのままジュワッ! と、蒸発したような音を残し、スカートの端が溶ける。
それを見た魔法少女キラは目を見開きながら、触手を入れられている口で「ううう!」と唸り、腕や足の発光の頻度が上がった。でも腕や足の拘束はシッカリされていて、逃げれそうにない。
一滴、一滴、と、服が溶ける粘液をキラに落としていく。ジュワッ! ジュワッ! と黄色のワンピースとスパッツが溶け、キラの白い肌が見える。
飲み会の席で触らせてもらった服を溶かす粘液は、触れても痛くなく、本当に服だけを溶かす粘液だ。
キラは粘液を避けようとして暴れるから、余計に粘液が飛び散り、服の所々まばらに溶け、扇情的な服の溶け方をしている。
雑魚敵のバイト連中の目が血走っているが、キラの目には涙が溜められていた。
男連中のハァハァとする息づかいが鬱陶しく感じるが、男連中が興奮するのもわかる。触手にもてあそばれている魔法少女というのは見ていて劣情を抱く。
服も触手でまくり上げられていて、触手にいたる所を揉まれ、目のハイライトが消えていく。
捕まってから触手に身体を舐めまわし続けられていたキラの身体が痙攣してきた。頬が蒸気して、段々と発光の光りも弱くなっていき、目に溜めていた涙も決壊した。
人造人間増田先輩を睨んでいた視線も、今や助けを懇願するような視線になり、くしゃくしゃになった顔を披露する。
「陽葵ちゃん!!!」
河川敷の上の丘から大声が聞こえてきた。左上に視線をあげると、紫色の髪をなびかせて、眼鏡が光る女子高生がいた。
髪の色は違うが、キラとソックリな美少女だ。これは双子? 双子じゃなくても姉妹だろう。
「やばいですよ人造人間増田先輩! 新手の魔法少女かも知れません」
しかもキラを『陽葵』と変身前の名前で言っていた。キラを魔法少女と知る人物は、魔法少女である確率が高い。
キラは大粒の涙を出しながら紫色の髪の美少女を見ていた。
静まり返った河川敷で、人造人間増田先輩の気が緩んだのか、キラの口を塞いでいた触手に隙間が出来ていた。
「結月ねぇ、たずけてよぉ」
小さな声だった。俺はその声から死期を感じた。
「陽葵ちゃんに触れないで」
バチンッ! と大きな音が鳴ると、キラに絡みついていた触手が弾けてキラが解放される。
その瞬間に丘からキラがいる所まで瞬間移動した女子高生が、あられもない姿のキラを抱きかかえていた。
やばい、やばい、やばい、やばい。
これ、覚醒シーンだ。
バチバチと、紫色の雷が女子高生の周りを駆け巡る。
抱えたキラを地面に下ろした女子高生は、キラの前に立つ。
女子高生は左手を前に掲げ、左手のブレスレットに右手をそえる。
「私の大切な人を、こんな姿にした貴方たちは絶対に許さない」
右手で思い切り、ブレスレットを回す。
『
左手の回転しているブレスレットを頭上に放ると、空中で止まり、小さい輪が段々と大きくなる。
人が入れるほどに大きくなると、ブレスレットが下に降りてくる。
女子高生の頭がブレスレットの中に入ると、黒に近かった紫色の髪が明るくなり、綺麗な水色が混ざる。
メガネも無くなり、制服もブレスレットが通った時点から変わり、白が映える紫色のワンピースになった。
風でワンピースのミニスカートが揺れると、チラッチラッとスパッツが見える。
ブレスレットが地面に着くと、ドクンドクンと地面が波打ち、波紋のように広がって消えた。
「月の魔法少女ルナ。星の導きにより、正義を執行します」
月の魔法少女ルナと名乗った女子高生の後ろにバチバチと紫色の雷が荒々しく駆け巡る。その紫色の雷は背中から二枚の羽として形を保って顕現していた。
まさに規格外な力だ。
俺はもう帰りたかった。
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