神域の教え
怒りのオーラを纏っている魔法少女姿の愛華が現れた。
「妖狐メイ! 勇くんに何をしてるの!」
ピンク髪の愛華は、キツ姉さんにバトンのような棒を向け、殺気を放っていた。
その愛華の凄まじい殺気を受けても、キツ姉さんは呑気に酒を飲んでいた。
「そうか。お前さんが勇坊に力を与えたんやな」
コップから口を離したキツ姉さんは、コップを見ながら真実を口にした。ビクッと愛華の肩が震えた。
「お前さんが考えているようなことを、わちきが勇坊にするわけないやん。まぁ座れ」
愛華は俺がどんなことをされると思ってたんだ?
「愛華、ジュース何が良い?」
ササッとメニューカードを開いて、愛華に見せる。愛華が俺を視界に捉えて、怪訝な顔を見せた。
「……カフェオレ」
カフェオレと言いながら、愛華は俺の隣りに座った。
扉の前で様子を見ていた店員さんにカフェオレを注文し、小皿と箸も頼んだ。
店員さんはさっき来た時よりもキビキビ動いて、カフェオレ、小皿と箸を即持ってきた。そして仰々しく頭を下げて、扉を閉められた。
愛華がキツ姉さんを警戒しているのが、肌を刺すようなピリピリとした空気で分かる。いつ戦闘が起こっても可笑しくないような、そんな感じだ。店員さんも一刻も早く逃げたかったのだろうと思う。
「なんでここが分かったんだ?」
「妖狐メイがここにいるという事を知らない魔法少女はいない」
さすがキツ姉さんだ。まぁ魔法少女を三人ぐらい倒してきたんだっけか。そりゃ魔法少女の組織からもマークされるだろう。
俺は小皿におでんを移していく。牛すじ3本と卵、チクワ、大根とコンニャク。あとつくねも、っと。
「勇くん、おでんを移しているところ悪いけど、私はいらないよ」
「え? 食べないの!?」
「う、うん」
そうか、愛華はお腹が空いてないのか。
「私は妖狐メイと悪の組織のバイトの勇くんが二人で食事をする仲だったなんて信じられない」
「勇坊を悪の組織に入れたのがわちきやし、悪の組織に入る前からの親密な仲なんや」
キツ姉さんの親密な仲というワードが出た瞬間に、カフェオレが入ったコップにヒビが入った。微かにテーブルも揺れている。
「へ、へぇ〜、そうなんだぁ〜。私は彼女だけどね」
愛華は何に張り合ってるんだ?
愛華にあげようとしていたチクワを口に入れる。食感は弾力があり、しかし潔く噛み切れるほど柔らかい。切り身の風味が口いっぱいに広がり、おでんを出汁を引き立てる。うん、美味い!
つみれと、牛すじ、半分に割れた巾着、牛すじ、コンニャク、卵、牛すじと順番に食べていく。
「まぁ俺に剣を教えてくれたのがキツ姉さんだからな」
「え? そんなに小さな時からもう知り合いだったわけ?」
「まぁそうだな」
「じゃあ勇くんのように剣の腕も化け物級ということ!?」
キツ姉さんは空になったコップを置くと、箸を持ち、おでんをつつく。
俺はすかさず酒の瓶を持ち上げて、キツ姉さんのコップに注ぐ。
「バカを言うな。わちきが教えたとゆうてもチャンバラで遊んでやっただけや。あんな刀の神域に踏み入れるとは思わんかったわ。それは紛れもなく勇坊が神童さんやったってことや」
キツ姉さんは眉間に皺を寄せて、「でも」っと続ける。
「それは人の中だけでは、って話や。正義やら怪人やらが幅を利かす大会で人の身で優勝したと聞いた時は本当に嬉しかった。ただわちきはそれが続かないことは知ってたんや。まぁ神童過ぎてだいぶ遅れて理解したみたいやが。わちきは小学校で挫折すると思っとったぐらいや」
「それは……」
愛華も俺が気にしていた事を知っている。
キツ姉さんはおでんを食べると、酒が入っているコップを手に取り、優しい目をした。
「悪の力は混ざりあってその力を増していく。勇坊の力はなんや、純粋な魔法少女の力やんけ。わちきもこんな怪人初めて見た」
そうなのか? 魔法少女の力と言われ、とっさに愛華を見ると、顔が赤くなっていた。
「魔法少女はトラウマや憧れている物、心に残っている物が武器や能力として現れる」
「確かに怪人になった時に身体的な能力が上がらずに、武器として良く切れる刀が現れましたね」
「まさにトラウマが形になっとるんやな」
キツ姉さんはグイッと酒を飲んで、俺の方にコップを出してくる。すかさず酒の瓶を持ち傾ける。
それを二、三回繰り返す。
「勇坊が入れた酒はやっぱりなんでも美味しいわ」
瓶も空になって、キツ姉さんは立ち上がった。
「勇坊悪い。ちょっと急用が入った」
キツ姉さんが酒を一気に飲むってことは、そういうことだろうと思っていた。
「いいですよ、行ってきてください。また飯おごってくださいね」
「可愛いな勇坊は」
店員さんを呼んで、会計を終わらすと、キツ姉さんはその場で影に呑まれて消えた。
店員さんが個室から出ると、愛華は変身を解き、緊張の糸が途切れたのか、力が抜けたように俺の肩に身体を預けてきた。
「おでん食うか?」
「うん、食べる。あ〜ん」
俺が食べさせるのか? まぁいいけど。愛華は俺が心配で、キツ姉さんという強敵がいるところに単身乗り込んで来たんだから、そのお返しをしなくてはいけない。
愛華の口に、息で冷ました大根を放り込んだ。
咀嚼の時間を待って、美味しいかどうか聞いてみる。
「どうだ?」
「美味しい」
「そうか」
おでんが食べ終わるまで、俺は愛華とイチャイチャして過ごした。
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